在り続ける二人

女性が町広場から抜け、人通りの少ない路地裏へと入り込む。


「ニッサご機嫌だね」


路地裏で一服をしていた人影がニッサに声をかけ、歩み寄る。


影から姿を現した男性は癖の強い髪の毛を抑えるようにゴーグルを被り、その下から燃えつきたタバコの様な灰色の髪が覗いている。緑色の目はどこか鈍く、少し気だるげな印象を与える。


「いい話を聞いてきたのよ」


「その代金を俺の煙草で払うのやめてもらいたんだけどね」


ため息混じりに細い煙草を咥える男の名はエピンス。


「で、何の話聞いてきたの?」


「私たちの世界の話」


ニッサは壁に背を向け、憂いのこもった表情で地面を見つめた。


「世界を亡くした日の事よ。何かの記録を見つけた人がいるらしい」


軍人のような服装を身に纏うエピンスはその服装に似合わない首元のピンクのスカーフに手を当て、煙をゆっくりと吐き出す。


「…煙草、高いんだから程々にしてくれよ」


ニッサは小さく舌をだして小悪魔的な笑みを浮かべると、肩にかけたスタジャンに手を伸ばしギュッと自分の肩を抱きしめる。少し表情を歪ませると、口を開いた。


「ツェフ…この世界のどこかに居るのかな」


「さぁな」


エピンスが俯くと、咥えていたタバコの灰が重力に負けてポロポロと地面へ落ちていく。


「私たちみたいに何かを失くしてるのかな」


エピンスは左腕のあるはずの裾を撫で下ろす。そこには肉も骨もなく、裾の生地だけが肩からぶら下がっていた。

ニッサは地面を見下ろし、小石を無造作に蹴る。その動きに応じて右の靴からまっすぐ伸びる金属棒と複雑に絡むワイヤーやバネが小さく機械音を鳴らす。


「…さぁな」

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