『集団ストーカー(Targeted Indiviuals)物語』
Aパート アユム編
私の名はアユム。今から皆さんに私の身に起きた出来事を説明しようと思う。
あれは6月の初旬、梅雨に入ったばかりのことだった。
人生をどん底に落とす転換は、肩に降る初雪の様に突如来た!
大手証券会社で働いていた私は、職場で大きなミスをしてしまった。
その日は上司にこっぴどく叱責された。仕事の帰り道に、見知らぬ男がすれ違いざまに私に囁いた。
「お前の人生は終わりだ」
その男は、歪んだ笑みを残し立ち去った。
全てはそこから始まった。
翌日から、会社で壮絶な組織的いじめが始まった。今思えば、あのミスも仕組まれたものだったのかもしれない。
私はストレスに耐えられず、体調を崩し自主退職してしまった。
(この体調不良でさえテクノロジー兵器で仕組まれていたことは、後で分かった。)
退職後、私に対する本格的な工作が始まった。
最初の異変は、強烈な光だった。夜中にコンビニへ向かう道を歩いていると、マスクと白いイヤホンをした不審な人間がペンライトを持ってランニングしていた。コンビニの駐車場に辿り着き、停車している車に視線を向けて、私はぎょっとした。
黒塗りの車が4台ほどずらりと並んでいた。そのナンバーを見ると
1台は、私の住むマンションの暗証番号だった。
1台は、私の銀行の暗証番号だった。
1台は、666ナンバーだった。
そして、その横には私が所有する車と全く同じタイプの車が止めてあった。
その車のナンバーは、私の生年月日だった。
コンビニに入ると、さらに異変を感じた。いつもの女性店員ではないガタイのいい男がマスクをして、店員をしていた。そして、店のカウンターには何故か、ゴルゴ13が狙撃ポーズを取っているフィギュアが置いてあった。芸の細かいことに、そのフィギュアの銃口は客の頭に標準が合うようにセッティングされていた。
私が酒とつまみを買いレジに並んでいると、私の後ろに不審なカップルが並び咳き込んだ後に話し始めた。
♂「いやぁ、俺昨日会社でミスしちゃってさ、上司にしこたま怒られちまったよ。」
♀「しっかりしてよ、あなたももういい年なんだから」
もしかして、私のことか…?
そう思い振り返ると、どう見ても仕事をしていなさそうなチャラ男がへらへら笑いながらこちらを見ていた。隣の女は少しそわそわしたあとにコホコホとわざとらしく咳き込んだ。私は会計を済ませ、そそくさとコンビニを出た。コンビニを出ると、何やら警官が集まっていた。どうやら駐車場で接触事故があったらしい。よく見ると、先ほどの私と同じ型の車が凹んでいた。
この事故も非常にわざとらしい演出に見えたが、今はそんなことはどうでも良かった。私は逃げる様にマンションへ戻る道を歩いた。
帰宅途中、再びペンライトを持ってランニングしている不審者が通り過ぎた。そして、救急車のサイレンの音が聞こえた。
マンションが近づくと、狭い小道に不審な車が停車していた。マンションの暗証番号を入力していると、先ほどの出来事を思い出した。エレベータに乗り込むと、中にマスクととレシートが不自然に落ちていた。レシートを拾い上げてみると、私が買い物したコンビニと同じもので気味が悪くすぐに放り投げた。
部屋に戻ると異変を感じた。何か、家に出る前と異なる違和感を感じた。くまなく調べるとソファの位置がずらされ、部屋のコンセントに隙間が開けられていた。
私は盗聴器が仕掛けられているのではないかと疑い、翌日高い金を払い探偵を雇って調査させたが何も見つからなかった。
(電波だけで盗聴・盗撮、ハッキングが出来ると知るのは大分後になる。)
何かがおかしい。まるで、世にも奇妙な物語の主人公になった様だ。
出かけるたびに現れるマスクをした人間と、不審な車、個人情報のほのめかし、家宅侵入、一体何が目的なのだろうか。
今の私は失業保険をもらって生活しており、時間はたっぷりある。
私は自分の身に起きている現象が何か、パソコンを使い調べることにした。
そして、2週間がたった頃…。
この犯罪は、『集団ストーカー』と呼ばれていたのか!
私はパソコンの前で驚愕し立ち上がり、勢いあまりイスを倒してしまった。
その後、数秒ほど思慮に耽った後、椅子を元に戻し座りなおした。
窓の外は雨、TVは退屈なバラエティが流れている。私はパソコンの記事に集中するために、TVのスイッチを切った。雨音だけが静かに聞こえた。私は必死になって、自分の身に起きている出来事を調べた。
毎日起きる不審な出来事、不審者たち、家宅侵入に器物破損、体の異常、自分と全く同じ目に会っている人が日本中にいると知り素直に驚きを隠せなかった。私は、むさぼるように自分と同じ犯罪に巻き込まれている人たちのブログの情報を読み漁った。
翌日の朝、肉体に異変を感じた。なんと! 腕の筋肉がひとりでにピクピク動き始めたのである。病院で検査したが、何も異常はないと医者に言われた。その夜は性器と肛門に対しても持続的な電気刺激が加えられ、強制的なドライオーガズムを繰り返し強制させられた。その日から、猛烈な体のだるさに襲われるようになった。
「これが、テクノロジー犯罪という奴か!」
徐々にわかり始めた。と同時に絶望が全身を覆った。
部屋の外では、被害が始まってから開始された工事の音が続いている。
体調が悪い中、ソファで横になっていると不意に救急車のサイレン音が聞こえた。
空気を入れ替えようと窓を開けると、ヘリコプターが上空を通り抜けた。
私は、インターネット上で知り合った『ハッピー』というPNで活動しているベテラン被害者に初めて電話をかけた。
「おれの実に起きたことは、皆さんにも起きているのでしょうか?」
「アユムさん、よくあることよ。気にしないで。誰もが体験しているわ。最初は信じられないでしょうけど、被害の内容はみんな共通していて、完全にマニュアル化されているの。」
ベテランの被害者の声に、私は少し安心した。
「救急車のサイレン、終わらない工事、ヘリコプターの音、電磁波攻撃、私も毎日受けているの。この苦しみは体験した人しかわからないけれど大丈夫。あなたは1人ではないわ。こんど集団ストーカー被害者が集まるイベントがあるのだけどあなたもどう?」
突然の提案に私は心の準備ができておらず、その日は予定があって出られないと答えてしまった。私は、もっと早くその被害者と会っておけばよかったと今は後悔している。
繰り返される非道な連中による組織的な付きまというと精神破壊工作の中、私の世界を見る目がすっかり変わってしまった。
人々が過ごしている平和な日常は、薄皮に描かれたまやかしだ。その下には残酷な現実の仕組みが横たわっている。私はこの犯罪の被害にあい、薄皮の剥がれた世界を生身のままグロテスクにも見なくてはならない状況に追い込まれた。だが、この経験はこの世界のシステムを知るのに無駄にはならなかった。
どんなに醜悪であれど真実を知る事は大切だ。私は絵空事の綺麗な幻想よりも、たとえグロテスクであっても真実を知る事を望む。今は全てを知りたい、何故このような犯罪が存在するのか…私は、好奇心だけは旺盛だった。
この犯罪が基本は死ぬまで終わらないこと、よほどのことをしない限り急に殺されることは無いということも複数の被害者のブログを読み理解した。テクノロジー兵器による被害は、日に日に強まる一方だった。
ある休日、昔の趣味の写真を再開して気分転換しようと一眼レフカメラを市内に買いに行くことにした。学生時代はよく友人と山に登り、山頂から見える風景を、あるいは登山途中の自然を写真にとったものだ。
私は人間の世界につかれてしまった。自然の美しい風景を、カメラのレンズを通して眺めていたかった。車は維持費がかかるため売却したので、JRで市内に向かった。
駅のベンチに座っていると、向かいのホームから堂々とビデオカメラでこちらを撮影してくる例のマスクをした不審者がいる。
だが、撮影されたとして困ることは無いし、どうせ顔を隠しても盗撮をしてくるので無視をしていた。この前などは、バスに乗っている時にシャッター音が後方から聞こえた。見知らぬ女がにやにやした顔で、スマホをこちらに向けていた。こういったことはしょっちゅうだった。
電車の中で椅子に座っていると、隣に頭のおかしい人間が座ってきた。
急にカバンから袋入りのインスタントラーメンを取り出すと、粉を振りかけてバリバリ食べ始めた。うっとうしいので席を変えて、眠っていると頭部に違和感を感じた。振り返るとマスクをした不審な男が後頭部に黒い装置をかざしていた。
この連中は一体何なのだろう。先ほどから肉体に振動と心臓の痛みを感じる。どこにいっても、この痛みはついてくる。また、下半身への遠隔レイプも続いた。一眼レフカメラを買い、帰宅したころには心労でくたくただった。とても写真を撮る気力は残っていなかった。
ソファで横になっていると、隣の部屋の男が大音量でTVを見始めた。
最初の頃は、殺意さえ抱いてTVの音量を下げる様に注意をしに行ったが聞く耳を持たない。
世界はすっかり狂っちまった。どっからこういう連中を見つけ出してくるのだろう。
私は心を閉ざし、眠りに入ろうとするがテクノロジー兵器による攻撃で眠れない。
仕方がないので外出すると、ペンライトを持ってランニングする不審者、マスクをして尾行する不審者、不審な車、ほのめかしや唾を吐きながら通り過ぎていく連中に出会う。前回とは違う遠いコンビニに向かっていると、突如大雨が降ってきた。
私はずぶぬれになりながら、近くの公園のベンチに座った。
「ははは、ついに世の中はおかしくなってしまった。」
雨の中、ベンチに座り天を仰いだ。
私はこれからどうなるのだろう。生きて行けるのだろうか?
生きている意味はあるのだろうか?
濡れた犬が、ベンチの下から出て来た。その体は確かに温かかった。私は、食事を与えようとしたがその犬は去ってしまった。
人間ではないあの犬は、私に敵意を抱かなかった。この雨や空、木々もそうだ。
何故、すれ違う見知らぬ人間は私を憎むのだろう?
この私のことを何も知らないのに、迫害する事が可能なのだろう?
目の前に広がる自然が、私の心を救った。
こんな時代に生まれて来るべきではなかった。
世界は確かに劣化している。
体の冷えを急に感じて私は立ち上がり、家路へ戻る。
その途中も、傘を差しマスクをした不審者が続々と現れた。
こういう生き物と考え割り切ろう…そう呟き、歩き続けた。
救急車のサイレンが聞こえる。通りすがりの親父が鼻をすすり唾をはく。
そして、頭部や内臓、性器への電磁波兵器の攻撃。
いつもの光景だ。私はもう慣れてしまった。
マンションの周りには、新しい5Gアンテナが3つ設置されていた。
このアンテナが被害と関係しているかは、わからなかったがいい気分はしなかった。
家の家具は、必要なものを除き全部売り払った。
空っぽの自分の部屋に座る。
自然は相変わらず美しい。
私の目の前に現れる見知らぬ他人は、相変わらず醜悪だ。
その対比が、妙に印象に残った。
このままではいけない。私はつぶれてしまう。
私はまた、ベテランの被害者のハッピーさんに電話をかけた。
いつも通りに話を聞いてくれた。同じ被害にあっている仲間がいるというだけで、救われる思いがした。この時間は、降りやまない黒い雨の様な日々の中、僅かに残された居場所だ。
それにしても、何故この人は私の様な人間の愚痴を聞いてくれるのだろう。
もちろん、私も随分と愚痴を聞かされてはいるが、とても優しい人だ。
他にも、複数の被害者と連絡を取ったけれど、中には気難しい人がたくさんいた。無理もない。この被害の中理性を保つのは難しい。いつでもどんな時でも話を聞いてくれるのは、この人だった。
ある日、私はとある被害者に誘われて、被害者イベントに勇気を出して出てみることにした。実際に、同じ犯罪の被害にあう人たちと会うのは初めてだった。あまりにも普通の人たちなので、拍子抜けしてしまった。
本音を言えば、頭がおかしくなった人が半数ぐらいいるかと思っていた。
みんなどうやって正気を保っているのだろう。素朴な疑問だった。
被害者の仲間たちと話している間も、西遊記の孫悟空の頭のリングの様に、ぎりぎりと額を締め付ける感覚が続いた。
だが、不思議と心は晴れやかだった。話をしていて、全く同じ被害内容であり驚いた。同じ連中がこの犯罪を行っているのは間違いなさそうだ。みんなの被害内容は同じなのに、それぞれが犯人だと考える勢力はてんでばらばらだった。
仲間たちと話している間だけ、黒い雨の様な苦しみが止んだ。この犯罪に負けることなく私と会ってくれたこの人たちは、黒い雨の様な苦しみから私を守る大きな傘の様だ。今度は私が、この雨に打たれる誰かの傘になりたい。
同じ苦しみを知る仲間たちは、私に優しい言葉を投げかけてくれた。
その残響が、空っぽの私の心にしみた。
イベントの帰り道、相変わらずの不審者に囲まれ工作されながらも、もう少しだけ生きてみようと思った。この犯罪に負けずに前向きに明るく生きている人たちが同じ日本に確かに存在していると知ってしまったから。この希望を消すことは出来ない。
黒い雨の様な苦しみは今だ降り続いている。だが、あの黒い雲の上には確かに太陽が存在しているとわかった。
止まない雨はない。例え私が生きている間は止まないとしても、いつか必ず止まるその日は来る。その時にそなえて、私は自分が今できることをしようと思う。たった1つの言葉が、絶望の淵にいる人間の人生を救うことがある。私も誰かの傘になりたい。
そう思い空を見上げると、雲間から一筋の光が差し込んだ。
心地よい風の中、頬を伝う水滴を拭う。いつか見た犬がそばを通り抜けた。
私は急に走り出し、光に向かい走る犬を追いかけた。
「ぜぇ、ぜぇ。待ってくれ。」
その犬は、私が全力を出せば追いつけるぎりぎりの速度で走り続けた。
Bパート A子編
私の名前はA子25才。アパレル企業で働く25才の独身OL。
子どもの頃から漫画家を目指し、学生時代から投稿を続けたけれどプロの世界は甘くなくて、美大卒業後に今の会社に就職した。今は実家から少し離れた、某新築マンションの4階に住んでいる。学生時代から視力が弱く、彼氏と付き合い始めてコンタクトにしたけれど、別れてからまた眼鏡に戻した。
私の住むマンションは、駅が近くて、近所には図書館とショッピングモールがありとても便利な立地にある。
親元を離れて引っ越してきた当初は、とてもうきうきした。部屋は2DKで、一人暮らしにしては少し広い。ベランダには観葉植物が並んでいて、ハーブも育てている。
あいにく今は梅雨で、ベランダから見える景色は曇りや雨ばかり。だけど、天気がいいと海が見え、夏には花火大会の花火が見える。夏になると、友達を呼びベランダにイスを置き毎年一緒に花火を眺めている。
私は生き物が好きなので、部屋には大きな水槽とアンティークな鳥かごがある。
鳥かごに入っている青い小鳥は、瑠璃鶲(ルリビタキ)のオス。ルリビタキの鳴き声は、フィー、フィーと鳴くといわれているけど、私の耳にはピー、ピーとしか聞こえないのでピーちゃんと名付けた。去年の夏に仕事帰りの小道で傷ついていた所を私が偶然拾ったのだけど、今はすっかり傷は治り元気いっぱいだ。
水槽の中で、水草の上で気持ちよさそうに泳ぐ小さな熱帯魚たちにエサをやり、小鳥のピーちゃんに水浴びをさせるのが日課だ。OL生活をしながら、漫画の投稿は続けて小さな賞ももらった。その時は、飛び上がるほどうれしくて、その賞金で買った大きなTVで、好きなアニメを見るのが何より好きだった。TVの横の本棚にはお気に入りのマンガがずらりと並んでいる。
私の生活は、ありきたりだけど、とても平和な日常。それがある日突然壊れてしまった。そう、あの日からすべてが変わり、私の世界は灰色になった。
私はOLとして働く傍ら、ネット上では割の有名な絵師(イラストを描く人)で、色々な人に頼まれて同人誌の表紙を書いたり、音楽動画のイラストを描いたり趣味と実用を兼ねたアルバイトをしていた。ある日、政治風刺のマンガのイラストを頼まれた。私は政治にはあまり興味がなかったけれども、依頼者の熱意に押されてOKした。中には、反原発の風刺も含まれていた。
私は正義感の強い父の影響で、自然を愛し、父の影響で反原発主義の思想を持っていた。父の部屋の本棚に、政治的な本や反原発の本が漫画や娯楽雑誌と共に並んでいたことを思い出す。ある日突然、依頼者の男性の音信が不通になった。最後に頼まれた政治風刺イラストの原稿代は、払われなかったけれど、元々大した金額ではなかったため、私は気持ちを割り切り他のイラストや漫画を描いた。
ある日突然、私のSNS,特にツイッターに罵詈雑言のメッセージが入る様になった。どうやら私が描いた政治風刺や、反原発の風刺画が様々な所で拡散されて、それを恨んでいるみたいだった。私は、怖いので不審なアカウントをどんどんブロックした。送られてきたメッセージの中に1つ気になる言葉があった。「お前は、俺たちを怒らせた。覚悟していろ。」私は、そのメッセージを見て手元のティーカップを思わず倒し、紅茶をこぼしてしまった。
机の上にこぼれた紅茶をふきながら、たぶん大丈夫、ただの脅しで何も起きることは無いと自分に言い聞かせた。
翌日から、私の周りで異変が次々と起きた。
職場で、私がネット上で使用しているペンネームがほのめかされ、職場の帰りに必ず通る小道に、私が以前書いた政治風刺のイラストと共に猫の死骸が置いてありぎょっとした。マンションの自室に戻ると、異変を感じた。
鍵を閉めて出かけたはずなのに、ドアが半開きになっていた。寝室の床には、何やら白い粉が散らばっている。締めていたはずのベランダの扉が開けられていた。私は真っ先に水槽と鳥かごを見たけど、小さな熱帯魚とピーちゃんは元気で一安心した。
けれど、ベランダ観葉植物が枯れ、ハーブがむしり取られていた。
私は急いで、あたりを綺麗に掃除した。コンセントに差していたはずのスマホの充電器が机の上にあり、コンセントには隙間が開けられていた。
何より怖かったのは、クローゼットの衣服やタンスの下着に不自然な穴があけられていたこと。私は怖くなり、電話で友人に相談した後に警察を呼んで被害届を出した。
ネットのSNSでも、粘着紙綱嫌がらせも増え続けて、私は学生時代のいじめの記憶がよみがえって嫌になり、暫くパソコンから離れることにした。
マンガを読んだり、アニメを見たり、好きな音楽を聴いたり、わかりやすくいえば現実逃避をして日々を過ごした。だけど、毎日マスクと白いイヤホンをした不審な人たちが、ぞろぞろと現れ、個人情報をほのめかしてきたり、通りすがりに唾を吐いてきたりする。警察署に相談しに行ったけれど、証拠がないため相手にされなかった。
通勤途中で何より怖かったのが、学生時代のいじめに使われていた「キーワード」である「ニキビ」が繰り返し使われたことだった。私は学生時代にニキビが酷かった。今は、ほとんど目立たないくらいになっている。
それなのに、繰り返しニキビというほのめかしが出て、パソコンの広告にもニキビに関するモノが増えた。何故、この人たちは私の学生時代のことを知っているのだろうと恐ろしくなった。
そして、パソコンの広告までほのめかしに使えるのは、かなりの権力を持っているのだろう。
私が仕事の帰りに必ず通る小道に、ある日、人相の悪いフクロウが描かれた防犯ポスターがずらりと張られた。そして、今まで暗かった道は全て電灯がつけられ明るく照らされた。
そして、街中に急に監視カメラが現れた。
翌週になると、隣室に引っ越してきたの不審者のドアの前に、不自然なフクロウの置物が置かれた。夜になると、その置物は不気味に光った。
休日に、ショッピングモールの中にあるお気に入りの本屋に行くと、暑苦しい不審な男性が何故か私がいた女性誌のコーナーにいた。まるで、待ち構えていたみたいで、私が枕元にいつも置いてあるお気に入りのマンガと同じ本をわざとらしく、私に表紙が見えるように読みだした。これだけなら、大したことは無いのだけど、これまでの不安が積み重なり、私はとうとう耐えられなくなってしまった。
本能的な恐怖を感じ始めた私は、数少ない、幼馴染の友達に電話した。
「大丈夫よA子、心配しないで。仕事できっとつかれているのよ。」
と相手にしてくれなかった。不安が募る毎日、特に夜中に歩いていると片目ライトの車や、マスクをした男性の不審者が通りすがり怖かった。
出かけるたびに黒塗りの車が現れ、パトカーや救急車がサイレンを鳴らしながら通り過ぎた。帰り道に、暴走族がたむろして道を塞ぐことも増えた。公園のベンチで休んでいると、ヘリコプターまで飛んできて、ケムトレイルを撒く飛行機が上空を飛んでいく。まるで、ホラー漫画の主人公になったみたいだ。
梅雨も明け始めたある日の夜、大きな事件が起きた。
マンションの自室に戻ると、水槽の小さな熱帯魚たちが水面に浮いていた。水槽の色が変わり、水面には何か粉のようなものが浮遊していた。明らかに、人為的に殺されていた。私は鳥かごに目をやった。小鳥のピーちゃんは無事だった。
私は嫌な予感がしたので、翌日に、鳥かごを抱えて近くの自然公園に行った。
途中で、不審者がいつものように現れて中にはカメラで私を撮影する人もいた。私は気にせずに、最も開けた海が見える広場にいった。空を見るととても青い、そのあと鳥かごのピーちゃんを見ると、不思議そうにピー、ピーと鳴いた。
鳥かごからピーちゃんを出した私は、その青い羽根を撫でた。
ピーちゃんをそっと、手のひらに載せた。
「さ、お行き!」
鳥かごからピーちゃんを取り出し、私は思いっきり空に放った。
ピーちゃんは、一度飛び立った後に旋回して戻ってきて私の肩に載った。私は、青いピーちゃんの体を優しくなでながら、微笑んだ。
私は、心を鬼にしてピーちゃんをもう一度、今度は力強く空に放った。ピーちゃんは、途中一度振り返った後、今度は大空に飛び立った。
「あなただけでも、自由に生きて!」
私は眼鏡をはずして、頬を伝う涙を拭いた。
翌日から、地獄のような生活が始まった。
度重なる家宅侵入の被害、職場でのいじめ、隣室に引っ越してくる明らかな不審な男性の騒音被害など。ある日、孤独に耐えられなくなり、ネットを再開した。そして、自分の身に起きていることが何なのか無性に知りたくなり、検索を続けた。
「組織的嫌がらせ」、「組織ストーカー」、「集団的なストーカー」。
思いつく限り、キーワードを検索し続けた。
その後、「集団ストーカー」という犯罪に辿り着いた。
「私が受けている犯罪は、これだ!」
犯罪行為の内容、警察が相手にしてくれない所までぴったり。私は、少し気が緩むと同時に、どっと疲れてベッドに横になった。
「集団ストーカー」
そういえば、どこかで聴いたことがある。
(ああ、いつか通勤途中に駅の前で、そんな旗を掲げて街宣をしている変な人たちがいたな。まさか、自分がその被害者になってしまうとは…悪い夢でも見ているのだろうか。今日は疲れた、もう寝よう。)
ぎゅっと眼を瞑ると、隣に引っ越してきた不審者が、同時に大音量で音楽を流し始める。
私がベッドから起き上がると、音楽はピタリとやんだ。まるで、監視しているぞ! と合図しているかのようだ。トイレに行くたびに、真上の部屋の住人がトイレの水を流すし、お風呂に入ると救急車のサイレンの音がする。とても、心が落ち着かない毎日だ。一人暮らしが、完全に苦痛になり始めた。
眠れないので、集団ストーカーをネットで調べていると、『某宗教団体S』がやっているという情報を読んだ。翌日の仕事帰り、いつも通る小道に、某宗教団体Sが主体の『K党』の選挙ポスターがずらりと張られていた。さらに、隣に引っ越してきた不審者のドアのポストにわざとらしく某宗教団体Sの新聞が挟まれていた。
私は先日読んだ記事と、通勤途中に見かける『K党』のポスター、そして隣室の男性のポストにわざとらしく挟まっている『某宗教団体S』の新聞を見て、この犯罪が某宗教団体Sが単独で行っているというネットのデマをその時信じてしまった。
これが、犯行勢力である情報機関の情報工作の手法だということを、ずっと後になりベテラン被害者に教えてもらった。集団ストーカーは、国家犯罪であり、某宗教団体Sは、この国家犯罪の協力組織の1つにすぎず、特に、末端信者は関係ないことがわかった。
人間は不安が極限に達した時、わかりやすく叩きやすい悪役を求めるものなのだ。毎日、警察や救急車が現れ、ヘリが現れ、ネット上の広告でほのめかされる日々が続き、ようやく私もこの犯罪が単独組織では不可能というベテラン被害者の話を信じるようになった。
集団ストーカー犯罪の中で、何が一番つらいかというと私はテクノロジー犯罪だ。
その始まりも、ピーちゃんを公園で放したすぐあとに来た。ベッドで横になっていると、突然天井でキュィィィィインと何かコンクリートを削るような音が続き、当初はまた、騒音の嫌がらせだろうと思い、音楽をヘッドフォンで聴き気を紛らわせていたのですが、その日から、肉体が微振動する被害が始まった。
まるで小刻みに振動する機械に囲まれている様で、その日から寝付けなくなった。
私はネットで「集団ストーカー」と一緒に、「テクノロジー犯罪」という言葉も見つけた。今では、この微振動攻撃が音響兵器を利用した空気振動だとわかるけれど、当時は電磁波攻撃を受けていると勘違いしていた。被害が始まったばかりの私は、電磁波兵器と音響兵器の被害の違いが判らなかった。
後日、本当に電磁波攻撃の被害も始まった。頭が熱く、体がだるくなり、筋肉をビクッと動かされたり、心臓を攻撃されたり、性器を攻撃される遠隔レイプも始まった。私は、会社で事務作業をしており、会社でのいじめとテクノロジー犯罪に耐え切れず、とうとう自主退職した。
そして、まるで拷問部屋の様になった自宅のベッドに座り、空っぽの水槽、空っぽの鳥かごを見ながら、このままでは心が壊れてしまうと思い、実家に帰ることを決断した。そして、その判断は正解だったと今では思う。あのまま、あの部屋に一人でいたら、私は本当に壊れていただろう。地元に戻ると、仲の良い友達もいた。テクノロジー犯罪は相変わらずだったけれども、実家は一軒家のためマンションよりは多少は被害がマシだった。
私は家族や友人に集団ストーカーを説明したけれど、理解はされなかった。母は、私がおかしくなったと泣き出す始末。父は心配そうに声をかけてくれた。
「今は、家でゆっくり休みなさい。」その言葉が嬉しかった。
実家に帰っても、不審者の付きまといは続いた。家宅侵入は、母が家にいる日は行われなかったけれど、家に誰もいない日は時折、部屋に異変があった。私はただ、茫然としていた。
母は一度、私を精神病院に連れて行こうとしたけれど、私が父経由で母を止めた。母は、私のいうことは聞かないけれど、何故か父のいうことはよく聞いた。今思えば、精神工学兵器で母は私を精神病院に入れる様に、無意識レベルで洗脳されていたのだと思う。
私が二階のベッドで横になっているある日、父と母が一階で真剣に話をしていた。
その日から、母は私に何かを強要したり、早く働けとか、早く結婚しろとかは言わなくなった。休めるのは嬉しいけど、少し寂しくもあった。
私は家族に内緒で、集団ストーカーという犯罪をネットで調べつくした。そして、勇気を出して同じ県に住むベテラン被害者のハッピーさんに連絡を取った。そして、愚痴を聞いてもらうと心がすっと軽くなった。ハッピーさんに誘われて、初めて被害者の集まりに参加した。年配の方、特に女性が多いことに驚いた。こんなにいるんだ…というのが、素直な感想だった。
被害者の皆さんは、とても優しく接してくれた。被害が始まる前に、駅の前で被害者の活動を変な人たちだなと思いながら素通りした自分が恥ずかしくなった。みんなこんな拷問を受けながら、必死で活動をしていたんだ。
仲良くなった被害者とみんなでホテルのバイキングに行き、お昼を取りながらお喋りを楽しんだ。私が漫画が得意と知って、ある女性が、この犯罪を周知する漫画を描いてくれないかといってきた。ベテラン被害者のハッピーさんもお願いして来た。
私は少し躊躇しながらも、口は「ぜひ、やりたいです。」と発言していた。
その後、チラシ配りに参加して、連絡先を交換して帰宅した。何故、やりたいですと言ってしまったのだろうと思いつつ、自分がやるべき仕事が見つかり嬉しくもあった。
被害者の方たちと連絡を取った。非常に理性的な方から、少し思想が危険な方まで、非常に幅広い被害者がいると肌で感じた。慎重な私は、信頼できそうな方たちとだけ、連絡を取り続けた。
空っぽになった自分、何もできない自分。だけど、私を必要としてくれる人がいて、仕事を与えてくれた。私は急にスイッチが入り、集団ストーカーを周知するための、漫画のストーリーを考え始めた。これまでも、周知漫画はたくさんあるけれども、私は一応美大に出ており、絵に自信がある。けれど、その分恐らく影響力を持ってしまう。間違った情報を載せてしまっては、それが広まってしまう危険性がある。そう思い、ベテランの被害者ハッピーさんとも相談しながら、この犯罪を始めから調べなおした。
ある日、本屋で週刊誌を読んでいると、愕然とした。
なんと、私が過去に書いた漫画のネタがそのまま使われていた。これは、私のネタが盗まれたのか、あるいは偶然なのかは今となってはわからない。何より許せないのが、私のマンガはハッピーエンドだったのに、連載されているマンガではバッドエンドだった。翌週の人気投票で上位になったその漫画を見て、言いようのない悔しさが、こみ上げて来た。急に、プロ意識とプライドが沸き出て来た私は、画材を揃え集団ストーカーの周知漫画を描き始めた。
1か月後、ボロボロになりながらも漫画は完成した。そして、完成データを被害者団体の方に渡した。とても、褒められてその漫画はすぐに被害者の間で広まり、有名ブロガーの記事でも取り上げられた。私は嬉しかった。漫画の最後のコマは、希望を感じさせるものにした。
その背景に小さく水槽の小型熱帯魚と、ピーちゃんを描き入れた。
漫画を描いて、喜んでくれる人たちがいる。
灰色だった日常に、少しだけ色が戻り生きている実感がわいた。
後日、ツイッターを再開した私に脅しのメッセージが入った。
「これ以上漫画を描くな。長生きしたいならな。」
だけど、私はもう大丈夫だった。こんな連中の脅しには負けていられない。みんな、頑張って生きているから。翌週、久しぶりに友達と遊びに行った。夜には、クラシックコンサートを聴きに行った。テクノロジー犯罪の被害で体調はすぐれなかったけど、とても楽しかった。
他県のイベントにも、勇気を出して参加した。
印刷工場で印刷したばかりの、集団ストーカーの周知漫画を被害者のイベントで配った。
みんな笑顔で受け取ってくれた。私が頑張ることで、こんなに喜んでくれる人がいた。友達にも、この漫画を配った。反応はそれぞれだけど、みんな受け取ってくれた。
私はまだ生きていける。そう強く思い、アパレルショップで簡単なアルバイトを始めた。
給料は以前の3分の1だけど、この体でも、この被害でもなんとか生きている。テクノロジー犯罪は相変わらずひどく、残酷だけど、つらいのは私だけじゃない。
夏が近づいた頃、久しぶりに昔の仲の良い友達と4人で自然公園に行った。
地元の学生による演奏会が行われていた。
決して上手とはいえないけれど清々しい音楽を聴いた後に、美しい小道を4人で歩きながらふっと空を見上げると、ピーちゃんそっくりの小さなルリビタキが歌いながら飛んでいた。私は静かにほほ笑んだ。もう大丈夫、私はもう自殺しようなんて考えない。
家に帰ると、無性に新たな漫画が描きたくなり、私は筆を執った。私はまだ生きている。私はまだ作品を書ける。あの日見た空、青い小鳥のピーちゃんの様に人々の希望となる作品を書きたい。それは私が消えてもずっと人々の心の中に残り、飛び続けるから…。
Cパート ハッピーさんと仲間たち編
ベテランの集団ストーカー被害者のB代さんは、『ハッピー』というペンネームで集団ストーカーの周知活動をしていた。
ハッピーさんは、祖先が武士と庄屋であり、広い家と広大な土地、いくつかの不動産を受け継いた。土地の一部は、加害勢力の工作により失なったけど、他の被害者に比べると生活に余裕があり、自宅の前の広大な畑と田んぼを使い、半自給自足の生活をしていた。
ハッピーさんは、祖先代々の被害者で、生まれた時から被害を受けており、集団ストーカー犯罪については、誰よりも理解していた。ハッピーさんには、母と息子と娘、そして動物たちと暮らしており、集団ストーカー被害者であり生物学者でもあったハッピーさんの父は、少し前に病気で亡くなったが、この犯罪と戦う熱い意志と、膨大な書籍を家族に残した。
「ベテランの被害者ができることは、新しい被害者に居場所を作ること」
ハッピーさんは、父の死後そう思いたち、毎月第1、第3日曜日に、市内の中央図書館横の公園でイベントを開催した。最初はあまり人が集まらなかったけど、回数を重ねるうちに徐々に人が集まる様になった。
イベントの内容は、第一日曜日が、被害者のお話会、資料や情報の交換だ。その後に大抵、簡単なお食事をみんなで取り、美しい公園を散歩したり、美術館に行ったり、小さな気晴らしをした。第三日曜日は、ポスティングや街宣活動、講演会など周知活動を行いました。
今では、ハッピーさんの毎月のイベントは、被害者みんなのよりどころになっていた。
ハッピーさんは、今は使用していない自宅横の蔵を集団ストーカーに関する書籍を集めた資料庫にしており、蔵の二階には市販の大きな電磁波シールドルームと、ハッピーさんの息子が手作りした小さめの電磁波シールドルームがあった。ハッピーさんはこちらの蔵を第二、第四日曜日に開放していた。
ハッピーさんが8月の第一日曜日に、中央図書館横のいつものベンチに来ると、いつものメンバーとは別に新人の2人の参加者がいた。サラリーマン風の男性と、若い女性でした。彼らはそれぞれ、自己紹介で「アユム」、「A子」と名乗りました。
実は2人とも、ネット上でハッピーさんとメールのやりとりをしており、直接会うのはまだ数回目だった。2人は笑顔で、ハッピーさんと握手した後にイベントは始まった。イベントといっても、第一日曜日はみんなで、噴水の前のベンチに座って、お互いの近況をお菓子を食べながら話すというもので、この時間が多くの被害者にとって癒しの時間になった。
アユムとA子は、それぞれ自己紹介した後、自分の被害内容を語った。
みんなはあっという間に打ち解けて、その後、公園でレジャーシートを広げてお食事をした後、それぞれいつもの仲良しグループに分かれて散会した。
分かれる前に、アユムは自慢の一眼レフカメラで記念撮影をした。
アユムとA子は、ハッピーさんの誘いにのってハッピーさんの家の蔵に行ってみることにした。電車を使用すると、工作員が非常に多く現れるため、その日はタクシーでハッピーさんの家に行った。ハッピーさんは、テクノロジー犯罪被害で自動車事故を誘発させられてからは、自動車を手放しタクシーを多く利用している。
タクシーの中で3人はおしゃべりをした。アユムとA子が共に最も悩んでいたのは、やはりテクノロジー犯罪だった。2人はハッピーさんの蔵に電磁波シールドルームがあると聞いて、うきうきわくわくした。
「テクノロジー兵器はね、軍事兵器だから市販のシールドルームでも完全には防げないの。それでも、やっぱり何もしないよりは断然楽よ。蔵の壁にも、電磁波遮断塗料を塗っているの。」
アユムが口を開いた。
「実はおれ、建築系の学校を出ていて、大工のバイト経験もあるんですよ。だから、ハッピーさんの電磁波シールドルームを参考にしてみんなが簡単に作れる電磁波シールドルームの設計図を描こうと思っています。」
A子が2人の話を笑顔で聴いていた。
「なら、私はアユムさんが作ったシールドルームの設計図を、漫画にして公開してあげる。
被害者は大工仕事が苦手な女性が多いから、プラモデルを作る様に分かりやすく順を追って組み立てる漫画を公開したら、喜ばれると思うの。」
ハッピーさんは目を丸くして驚いた。これは、強力な仲間が増えたと喜んだ。
「それはいいわね。他の被害者はみんな提案するばかりで行動が遅いけど、あなたたちは若いし、やる気も漲っているから大丈夫。ぜひ実現して頂戴。設計図や漫画が出来たら、ぜひネットで配信し、多くの人に伝えましょう。」
ハッピーさんはこの瞬間が好きだった。過酷な被害にあいながらも前向きな新人にと話し、新たなエネルギーをもらい、自分は経験をもとにした知恵を与える。つくづく、毎月のイベントを始めてよかったと思った。
2人はハッピーさんの自宅につくと、縁側に腰を下ろし、庭の畑やハーブを眺めながら小休憩した。空は天気で、風が気持ちよく、ずっとここにいたいと心から感じた。その後、3人はハッピーさんの家の横にある蔵に入った。息子さんが、あらかじめクーラーを入れておいてくれたので、中は涼しかった。
蔵の一階の本棚には、ずらりと本が並んでいた。小さな図書館の様だった。
「電磁波シールドルームは2階にあるわ、階段が急だから気を付けてね。私は階段が大変だから、ここで待っているわ。ゆっくり見て来てね。」
そういうとハッピーさんは、揺りイスに座り、近くの本を手にした。
アユムとA子が2階に上がると、広い空間が広がっていた。
そこには、大きな市販の電磁波シールドルームと、ハッピーさんの息子さんが手作りした小さめのシールドルームがあった。2人はそれぞれのシールドルームに入った。
ハッピーさんのいうように、完全には被害は消えなかったけれど、それでもやはり大分楽になった。
「これが家に欲しい!」
というのが2人の正直な気持ちだった。
アユムはハッピーさんの許可を得て、一眼レフカメラで、2つのシールドルームの内と外を複数写真を撮った。A子も興味津々に、細部まで確認していた。
ハッピーさんによると、手作りのシールドルームは息子と元大工の被害者が作ってくれたようで、以前は自宅の部屋で使っていたそうだ。
新しい電磁波シールドルームを息子が用意してくれたので、今は使っていないらしい。外見が真っ黒なのは、カーボン塗料を塗っているからと説明してくれた。そして、2つのシールドルームの内部に貼り付けてあったのは、防振素材といわれた。
「テクノロジー犯罪には、電磁波兵器と音響兵器が両方使われているの。電波と音波、どちらかを防ぐだけではなだめ。これは必ず覚えていてね。」
そういえば、あの中にいる時は、体が微振動する被害がとても弱くなっていたなと2人は思った。蔵の中には、サーモグラフィーや電磁波測定器もあった。貸してくれるというので、アユムは早速借りることにした。計測すると、2人とも電界の値が高く、明らかに頭部の温度が高いのが分かった。2人はお互いに計測し、一眼レフカメラとスマホで撮影しあった。
「人工知能と繋がった電磁波兵器は、第六世代軍事兵器だから、その電波は、基本的に暗号化されているの。市販の電磁波測定器で計測するのは難しいけれど、室内にある異常な電波を発する家電は見つけることが出来るわ。寝室から、電磁波を発生させる家電を取り除くだけで年間の電磁波被ばく量を抑えることが出来るの。これはすごく大切よ。」
ハッピーさんは、棚から2つの大きな袋を出した。
「これは何ですか?」
「集団ストーカーの学習教材。被害者が身に付けるべき知識が載った本を、いつも新人の被害者さんに貸し出しているの。読み終わったらちゃんと返してね。」
中には、テクノロジー犯罪に関する書籍や、行動認知療法に関する書籍、ストレスコントロールや人生に役立つ言葉の本、電磁波や音波に関する入門書まであった。
洗脳や心理学に関する書籍が多いのが気になった。重たい袋を受け取りながら、2人は顔を合わせて「全部読めるかな」と笑った。
「集団ストーカー被害者はね、孤立させられた上で、洗脳されるから、認識の歪みが生まれて一般社会の人たちと上手く付き合えなくなるの。なるべく被害の初期に、認知行動療法やストレスコントロールを身に付け、多くの被害者や世間の人たちと繋がるのが大切なの。」
2人は重たい袋を抱えて、ハッピーさん家の縁側に戻った。
「タクシーを呼んだわ、もう少し待ってて。」
アユムとA子は冷たいお茶を飲みながら、色々話をして、連絡先を交換した。そして、アユムが電磁波シールドルームの設計図を描き、A子がそれを漫画にして紹介する規格を必ず成功させることを誓い合った。
「あなたたちを見ていると、希望が見えて来たわ。私が被害に負けずにこのイベントを毎月続けてこれたのも、あなたたちみたいな人にあえるからよ。」
ハッピーさんは2人の手を取った。
「これから、とてもつらい日常がまた始まるけど。負けないでね。私も頑張るから! アユムさんもA子さんも頑張って!」
3人が話していると、タクシーが到着した。後ろ髪をひかれる思いを感じながら、2人はハッピーさんに礼をいってタクシーで最寄りの駅に向かった。駅のホームにつくと、アユムとA子の家は反対方向なため、電車が来るまで少し話すことにした。
「おれ、毎月はむりだけど、なるべくこのイベントに来るよ。今日は、本当に久しぶりに、何も気にすることなくおしゃべりが出来てとても楽しかった。こんな気分は、本当に何か月ぶりだろうか…。」
「私も、やっと仲間にあえたって感じがする。やっぱり、ネット上でのやり取りとは違って、生で同じ被害にあっている人にあえてとても嬉しかった。そうそう、これアユムさんに上げる。」
アユムはA子から小さな袋をもらった。
「これは?」
「私が初めて書いた、集団ストーカーの周知漫画。よかったら読んでみて。」
「ありがとう。」
A子ははにかんだ。人から感謝されたのは、久しぶりでとても嬉しい。
その時、丁度電車が来た。
二人は少し寂しそうな顔をした後に、それぞれの電車が来るホームへ消えた。マスクをして、白いイヤホンをした不審な工作員がそれぞれの後についていく。
アユムは駅のホームのベンチに腰を下ろした。振り返ると、A子の乗った電車は走り去った。後ろのベンチでは、不審な工作員がスマホを出して、アユムを観察していた。
テクノロジー被害は朝からずっと受けていた。頭部、内臓、下半身へ。だけど、一人になった途端に急につらく感じめまいを覚えた。
その時、アユムは膝に抱えた重い鞄を握りしめた。中には、ハッピーさんが貸してくれた書籍と、A子のマンガが入っていた。2人からもらった想いを抱きながら、アユムは電車を待った。
アユムの待つ電車は、集団ストーカー被害者がよくあうように、人身事故に影響で遅れた。
アユムは、テクノロジー犯罪で市民を操り、事故を誘発しているのではないかと疑った。
緊張の糸が切れて、ふっといつものつらい日常に戻された感じがした。
自動販売機で飲み物を買ったあとに、カバンを開いてハッピーさんから借りた書籍をパラパラ読み始めた。すると、再び励まされ始めた。本は年季が入っており、過去の被害者のものと思われるメモもところどころ書き込まれていた。
「この繰り返しなんだろうな。地獄の様な日々と、一瞬の安らぎ。そして、再び地獄の様な日常へ。だけど、おれにも出来る事があるはずだ。おれが何かをすることで、一瞬でも安らぎが得られる人がいるかもしれない。」
アユムは、A子さんから受け取った漫画を読み始めた。また、少しだけ苦しみが和らぐ。
読み終わった後に、やはり一番つらいのはテクノロジー犯罪の被害だと再認識した。電磁波シールドルームの設計図を描く、これを必ず成し遂げる。そう決意した。
ようやく来た電車の中では、とても酷いテクノロジー被害の中、不審者の群れに囲まれた。
とても苦痛で長い時間に感じた。その後、ようやく家につくと、どっと疲れが戻ってきた。
クーラーを入れて、体を冷やしビールを飲んだ。
スマホには、ハッピーさんやA子、他に知り合った被害者からメールが入っていた。
アユムは、A子からもらった漫画を机に置き、早速電磁波シールドルームの設計について、メモを書き始めた。設計図を書いている間は、再び少しだけ気持ちが楽になり、体全体が優しい光に包まれている気がした。
その夜2人は同じ、不思議な夢を見た。
巨大な集団ストーカーシステム、それをくずすためのドミノ倒し。
その最初のドミノを必死で押している私。
最初のドミノの板さえ、超巨大でいくら必死で押してもびくともしない。
必死で押していると、どこからか不思議な存在が私のそばに現れ微笑みかけた。
不思議な存在が片手をドミノに手をかけると、すーっと軽くなり、最初のドミノは前方に倒れ始めた。隣には、ハッピーさんやみんな手と微笑み、過去に亡くなった女性被害者の手と笑顔があった。
そして、巨大なドミノは次々と倒れた。徐々に巨大になるドミノが、視界から消えるまで倒れて行った。大きすぎて、途中から先は見えなかった。
あの不思議な存在の微笑みはどこかで見た気がした。翌日、2人は同時に目が醒めた。
夢が醒めたあとも、そのイメージだけが鮮明に残り、すっと肩が軽くなった感じがした。
2か月後、アユムは電磁波に関する専門書を読みながらも、電磁波シールドルームの設計図を完成させた。ハッピーさんのアドバイスを入れて、防振加工も加えた。
製作費は、100万円とやや高いが市販のものに比べると安かった。そして、実際に自分で製作してみると、いくつかの失敗に気付いた。
それは、換気部分と、それぞれの部屋の大きさの考慮、値段の問題だった。テクノロジー犯罪被害者の多くは貧困にあえいでおり、お金もない。電磁波シールドルームは、換気部分を調整し、カーボン塗料を塗り、隙間を無くすと防御機能が高まったが、値段が高くついた。
アユムは、50万円の簡易型シールドルームと100万円の本格的シールドルームの2種類を製作することにした。製作費用はクラウドファンディングで集めた。この2つのシールドルームは、ハッピーさんの蔵の2階に置いた。
広かった蔵の二階が、4つのシールドルームで手狭になったけど、みんなは大喜びだった。アユムは次のイベントの日に、電磁波シールドルームの設計図をA子に渡した。
「これは、凄いけど…これを漫画にするのは大変(笑)」
でも、やりがいはある。新たな課題が出来て、A子は嬉しかった。
今目の前に熱中できる好きな仕事がもらえて嬉しかった。
3か月後、いくつかの修正を加えて、Aこの漫画が完成した。
アユムの設計図は、詳細だが正直、建築の素人にはわかりにくかった。だけど、Aこのかわいらしいキャラクターが教えてくれる組み立て方は、丁寧でとても分かりやすかった。
この日の企画は、『電磁波シールドルーム体験会!』
ハッピーさんの家にある4つの電磁波シールドルームをみんなで体験して、その後に、アユムの設計図とA子のマンガがセットになった袋がもらえるというものだった。
この企画は、とても盛り上り大成功だった。
シールドルームの前で、アユムが自慢の一眼レフカメラで記念撮影をした。
テクノロジー犯罪被害者のほとんどが、普通の主婦やサラリーマンであり、日曜大工さえやったことがない人がほとんどだった。
けれど、被害者による日曜大工クラブが出来るほど、このイベントは反響を呼んだ。
かつてアユムが願った。黒い雨の様な苦しみを少しでも防ぐ傘になるという思いは、ハッピーさんやA子。みんなの思いと繋がり実現された。2人の前向きな行動は、絶望に陥り虚無的になっていた一部のネガティブな被害者にも影響を与えた。やっぱり、前向きに行動を続けていればいいことはある。その日は、みんなでお茶を飲みながら尽きない話をした。
ある被害者がいった。
「私たちは洗脳されていただけなんです。やろうと思えば、何だってできたんだ。実はぼくもシールドルームを作ろうと考えていたけど、どうせ被害者は工作に会っているし、そんなことは無理だと考えていました。だけど、こうして実現した人たちを見て、ぼくもやってみたくなりました。」
アユムは、その被害者の言葉を聞いて少し照れた。A子も嬉しかった。
その日は、残ったみんなでバーベキューをした。子連れの被害者もおり、小さな花火を楽しんでいた。その光景を見ながら、被害初期の自分に見せたい気持ちになった。
もし、ハッピーさんが毎月のイベントを行わなければ…。
もし、アユムが電磁波シールドルームの設計図を描かなければ…。
もし、A子がそれを漫画にして、多くの人に広めなければ…。
この光景は実現しなかっただろう。私たち自身の、試行錯誤と、思考と行動の継続こそが希望だったのだ。絶望して何もしないなんてばからしい、これからもみんなで支えながら、自ら希望を生み出してそれを広げていこう。
被害者家族の、幼子がもつ小さな花火、その子の笑顔を見ながらそう思った。
この時間が終わると、再びあの地獄の様な日常が来る…。だけど、それはみんなの行動次第で和らぐと分かった。
「私たちには不可能はない、これからも行動を続けよう!」
そして、また今日みたいな楽しい日を生み出そう。そう誓い合って、散会した。アユムは、帰り道、一人夜空を見ていた。少し夢見がちの感じだった。
確かな達成感と充実感を感じていた。
星々や、過去に亡くなった被害者たちも微笑んでくれているように思えた。
「どんなに絶望的に見える状況でも、相手が人間であり人間が作ったものである限りは、必ず解決策がある。」というハッピーさんの言葉を思い出した。
多くの人は、洗脳されて希望が見えなくなっているだけだった。希望は思い込みではなく、確かに実在した。あの星々と同じだ。前向きで、理性的な行動の数だけ、希望の星と可能性が増えていく。この満開の夜空のように、世界が希望で満たされたらいいのにな。
そのためにも、小さな行動を積み重ねて行こう。
加害者のテクノロジー兵器で、命を消されたとしても、意志と作品は残っていく。もし私の身に何かあれば、星になり空からみんなを見守ろう。
これからも、それぞれが、心赴くままに自由な意志を持ち行動していけばいい。
夜風に吹かれながら、気持ちが吹っ切れた。
その日、家に帰りTVを見ていると集団ストーカー被害者の政党演説がTVで流れて来た。
国連がテクノロジー犯罪(サイバー拷問)を調査するという記事も読んだ。
どうやら、時代の流れは変わりつつある。
今の私たちの前向きな行動が、未来の被害者と全ての人たちの希望に繋がります。
いつか、全世界的に集団ストーカー(Targeted Indiviuals)と呼ばれる犯罪が停止され、みんなで笑い合える日が来ると信じて共に歩んで生きましょう。
全ての被害者が前向きに行動する限り、その日はきっと来ます。
その時まで、この物語は続いていくのです。
※時代設定は、コロナ騒動が始まる少し前です。この頃は、普通の人はマスクをしていませんでした。集団ストーカーを疑似体験してもらうために、3つの視点を使い作品にしました。
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