第3話 最悪な時期

バイトを始めて3ヶ月目、ジムに通い始めて2ヶ月目の中盤。この時期が私に取って1番最悪な時期となった。

私は家で動画を見る。

「大食い」「モッパン」こんな言葉を検索してみたり、「プロテイン おすすめ」「鳥ささみ おいしい食べ方」など、とにかくダイエットにまつわることを四六時中ずっと考えていた。仕事中でもずっとだ。

(今日は夜もささみでいいかな。明日は朝はプロテインで、お昼はささみ…)

「すずちゃん!スパゲッティ試食出たよ!」

本業の先輩がそう声をかけてくださった。

私は、とあるレジャー施設のレストランで働いている。

こうしてたまに試食が出るのだ。

だが、スパゲッティなんて糖質はダメに決まっている。

高いお金を払ってダイエットしてるんだ。

ここで食べたら全て無駄になる。

でも、本当にいい匂いで美味しそうで、食べれないのが辛い。

「私は大丈夫です...」

そう言うと、「ダメだよー!試食だから味わかっておかないと〜苦手ってわけじゃないんでしょ?」

先輩にこう言われたら断れない。

確かに、そうだよな。

試食しておかないとお客様に聞かれた時答えられないもんな。

そして、スパゲッティを口にした。頭の中で、これだけ。これだけ。これだけ。と何度も念じながらスパゲッティを食べた。

あまりにも美味しかった。

一口で終わらすはずが何口も食べてしまっていた。

この時頭の中では、もう今日はチートデイにしてしまおう。ダイエッターさん達みんな言ってるもんね。チートデイってことでいいよね。と自分に言い聞かせていた。

そうして、チートデイと称して爆食いをしてしまった。会社の後輩を誘い焼肉の食べ放題へ。

その帰りコンビニでたくさんお菓子を買った。


あぁいっぱい食べちゃった。

でも、今日だけだから!1ヶ月頑張った自分へのご褒美だよ!


家に帰って、そう思いながら帰り道に買ったお菓子を見た。

「このお菓子達も今日中に食べ切らなきゃ!チートデイは今日だけだから!」

思うがままに買った大量のお菓子を、焼肉食べ放題でパンパンになったお腹にさらに詰め込んだ。


次の日。朝起きて鏡を見た。

お腹がパンパン、顔もむくみでパンパン。


今まで頑張ってやってきたのに1日でこんなに太っちゃった。 

今日も、ささみか。朝起きてから昨日食べたものが頭から離れなかった。お菓子。お菓子。頭の中をお菓子がぐるぐるぐるぐる。

でも、ダメだ。今食べたら成人式に痩せた姿で出席できない。醜い姿のままでいいの?なんのために睡眠削ってバイトして稼いでジムに通ってるの?

そう思い、自制していた。だが、今思えばもう昨日の時点でタカが外れていたのだ。


会社でのお昼ご飯、いつも通りささみ、ゆで卵、ブロッコリーを食べて30分寝る。このルーティンが自分の中で鉄則となっている。


この日も寝て起きたところ、頭が異常に血糖値が上がっているのを感じた。心臓もドクドクしている。そして頭にはお菓子がずっと浮かんで離れない。

お昼休憩が終わってすぐ、私はほぼ無意識にも会社に置いてある従業員用のお菓子をたくさん手に取り、人目につかない場所でバクバクと食べていた。

食べた後に、とてつもない後悔に襲われた。

私、なんで食べちゃったんだろう。

なんで?バカ。何やってんだよ。本当に。

食べた後もまだ、もっと欲しい気持ちは変わらない。

まっと。

もっと食べたい。

いいや今日もチートデイだ。

仕事が終わるとその足で直ぐにスーパーに行き、大量のお菓子とパンを買った。

そして家に帰る間の車の中でもずっと食べていた。

家についてからも食べた。

足りなくなって、コンビニに行って、またお菓子とパンとカップラーメンを買って、家で食べた。

食べてる時は、幸せとは言えなかった。

食べたいと思っていた。

けど、今は食べたくないのに手が止まらない。

誰か私を監禁して。

手が止まらない。助けて。

その状況が続いて1週間経つ頃。

ジムに行き、トレーニングの最初に体重計を測る。

怖かった。確実に太っているのが見た目からでもわかる。

「あれー...増えてますね...」

なんとも言えない空気が漂っていた。

「すみません。どうしても外せない外食があって、食べちゃいました。」

咄嗟に嘘をついて言い訳をした。

トレーナーさんは明るく返してくださった。

「それは仕方ないですね。また減らせる様頑張っていきましょ!」

無理だ。

こうしている今も食べ物が食べたくて仕方ないんだよ。

その日もトレーニングの後コンビニに寄ってたくさん買い込んで家で食べた。

そして、次のトレーニングは行くのが怖かったから、「胃腸炎にかかった」と嘘をついて2日分キャンセルした。もちろんこの2日分は消化と言う形になった。

食べたくないのに止まらない自分の意思の弱さを責めた。

大量のお菓子を口に入れながら、涙が出た。

痩せたかった。

スレンダーになって、中学生の時好きだった人の前に姿を現したかった。

こんな醜い姿で行けないよ。

食べたくないよ。辛いよ。


この時、半月で10キロ太っていた。


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