第2話 初居酒屋バイト
初めての居酒屋出勤日になった。
面接の日と同じくらい緊張して、脳がモヤモヤしている。
出勤すると、茶髪で小柄な可愛らしい女性店員さんが案内してくださった。
「あたし神崎〜よろしくね。ここが坂上さんの段ね。着替えとか荷物箱の中に入れてね。」
そう言われ案内されたのは、小さな更衣室で、プラスチックのタンスが二つ用意されていて、真ん中の段に私の下の名前とハートマークが書かれたシールが貼られていた。
準備くださったのか。と少し嬉しくなった。
「ありがとうございます」といい制服に着替えた。
「何歳?あたしは23歳!高校卒業してからずっとこの居酒屋でバイトしてんだよね」
神崎さんはそう言った。
5年もここで働いてるの?!と内心とても驚いた。
一つの会社でそんなに長く働いたことがないからだ。
そんな思いは言葉にはせず、
「20歳です。」とだけ答えた。
「いーなー若いなー、本業もあるって聞いたけどまじすごいね!体力持つん?!」
「いやー多分大丈夫です...はは」
そこからは仕事内容を教わり、ある程度問題なく出来そうだなと思った。
そうして週3~5回、一日5時間、休日は休憩30分実働6時間半働き1ヶ月経ち、お給料を貰った。
正確には覚えていないが10万円は超えていた気がする。
これがあればジムに通える!と、いよいよジムに通うことになった。
2ヶ月コースの料金を2回に分けて払うことも可能だったため、居酒屋で1ヶ月働いたお金と足りない分は本業で働いたお金を合わせてお支払いした。
ジムは駅の近くにあり、ビルの中の3階にあった。
ここで、週2回。月8回。1回45分。2ヶ月。
2ヶ月後には私はスレンダーになってるんだ。
希望で心が躍った。
「坂上さん!よろしくお願いします!」
カウンセリングの時と同じ爽やかな笑顔の細マッチョがトレーニングの対応をしてくださった。
1回目のトレーニングが始まった。
トレーニングの最初に体重、体脂肪などを計測してもらった。
その次は器具を使って筋トレをした。
重いし、痛いし、辛いし、最悪だった。
でも、痩せるためだから、これを乗り越えたら痩せれる!頑張れ!と自分に言い聞かせた。
「坂上さん食事は頑張れてますか?」
何回目かのトレーニング中に細マッチョが質問してきた。
えぇ、えぇ、頑張れてますよ!
毎日朝はプロテイン一杯、昼は茹でた鳥ささみ2つ、ブロッコリー、ゆで卵、夜は何食べてたかな。覚えていないが、とにかく糖質は取らない方がいいと思って炭水化物は食べていなかった。
心ではあれやこれやと考えながらも人見知りな私は
「はい...頑張ってます」とだけ言った。
「順調に体重も減ってるんでこの調子で乗り切りましょう!」ニカッと細マッチョは笑った。
「はい...!」
たしか、この時点で1キロくらい減っていた様な記憶だ。
ジムに通い始めて1ヶ月たち、2ヶ月目に突破した頃だった。会社でのお昼。
「あーお腹すいた。」そう言って私はお弁当箱を開ける。
その瞬間、気分が落ち込む。
毎日毎日同じ食事。同じ味。同じ食感。
ため息が出る。
これじゃあ午後も頑張れない。
夜。21時ごろ。
ピリリリリリピリリリリリ。
スマホの目覚ましで目を覚す。
「あぁもう時間か。1時間しか寝れなかった。」
眠たく重い体をなんとか起こし、車に乗り、駅の方へと向かう。
「おはようございます」
居酒屋に出勤する。
「今日宴会めっちゃ多いから見といて予約票!あと、100名んとこの宴会!さっきお客さん帰ったから急いで片付けてきて!その次も使うからセッティングもして!」
すでにかなり忙しい雰囲気だ。
「はい...!」
私は急いで片付けに向かった。
うわぁ。
その部屋を見て、絶望しかない。
なんせ、100名分のジョッキと食器類がある。
そして極め付けは、掘りごたつの下の吐瀉物だ。
「もーーーなんでここで吐くんだよおおぉーーーーー」1人でそんなことを言いながら片付けていく。
お手伝いにも何人か来てくださるが、当然皆さん注文を取ったり料理を持っていったりやる事がある。
ずっと一緒に片付けることはできない。
片付けは下っ端の仕事なのだ。(※私調べ)
休日なので帰れるのは5時。
しかも、この時点でも締め作業が終わっていない。
だが、今帰らないと本業に間に合わなくなってしまう。とても気まずいけれど意を決して言うのだ。
「すみません。本業があるためお先に失礼します。」と。
店長には面接時に5時ぴったりに帰りたいとは言っているので理解してくださっているとは思うがやはり気まずかった。
そしてその足で本業へと向かう。
着替えは車の中に置いてある。通りがかるコンビニで着替えてから行く。
ぶうううううん。
ーーー------はっ。
うわっ。
気づくと車体が2車線の道路の真ん中を走っていた。
やばい。また居眠り運転してしまった。
ここのところ、居眠り運転をしてしまうことが増えた。
原因は言わずもがな、分かっている。
慢性的な寝不足だ。
当然だ、週の半分以上睡眠をろくに取れていないのだから。
必死に目を凝らしながら運転する。
だが、気づくと目が閉じている。
その繰り返しだ。運転中、正直自分が今起きているのか寝ているのかもわからない、フワフワした感覚が続いていた。
平日は3時に終わるため、コンビニに止めて2.3時間眠ることができた。
ただ、眠り過ぎてアラームが聞こえず、遅刻してしまうこともあった。
正社員であるにも関わらずバイトを始めてから1ヶ月が経った頃から遅刻を頻繁にする様になってしまったのだ。
だが特に私自身に注意されることはなかった。
多分陰では噂になっていたことだろう。
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