第70話 Sランクダンジョン
トモとの二度目のコラボの舞台となるのは――、Sランクダンジョンだった。
以前、ヨルが数層ほど攻略を進めていたが単独での攻略は不可能と判断。
その後はダブルフェイスや翠帝と協力して進む手筈になっていたものの、お互いの折り合いが合わず、今日まで難攻不落のダンジョンとして様々な都市伝説めいたものが生まれていた。
このダンジョンに与えられた名前は、【黒縄大洞穴】。その名の通りまるで縄のように長く、複雑に絡み合った構造になっている。ドローンなどの無人探査機による調査も魔物による妨害で進まず、その全容は未だに知れない。
お祭り的な意味合いが強いコラボ内容としてはかなりヘビーだと思うが、確かにSランク同士のコラボとしては最適な選択だろうけど……。
この前の配信でもAランクダンジョンでは物足りない、と言うリスナーも確かにいた。
『まあ、Sランクに挑むと言っても表層程度ならAランクのボス部屋周辺くらいの難易度ですよ』
本格的に挑むのならまだしも、と佐伯さんも今回のコラボに関しては今まで通り、特に口出ししないスタンスのようだ。本格的に挑む時は迷府がスポンサーとなり、全面的に支援を行うらしい。
Sランク攻略は国を挙げての一大プロジェクトとなる。未知の資源やアイテム発見の可能性があるのだから当然だろうな。
無論、今回は上の方を少し流す感じだ。ヨルが残してくれた攻略情報もあるので何も問題はないだろう。
「それでは、早速攻略を始めたいと思います」
「み、皆さん、よ、よろしくお願いします」
トモはこの前と同じ装備だ。
だが気のせいか、目が少し赤い。……泣いていたのか?
まあ、野暮なツッコミはしないが……。
「ウィン、あまり無茶するなよ。今回は今までとは違うからな」
「うん……ここ、凄く嫌な空気だね。瘴気が渦巻いてる」
黒縄、と言われるだけあって岩肌は黒い。照明が当たっても光を反射せず、ライトの類はあまり役に立ちそうにない。こんな中、一人で攻略したヨル凄くないか?
――――
『ここがSランクダンジョン……、パッと見は普通の洞窟系ダンジョンだよな』
『よく見ろ、壁が黒くて光を反射してない。こんなの見た事ないぞ』
『ずっと前、ヨルちゃんが配信してた所だっけ?』
『なんか今日、一段と人多くね?w』
『同接3万人www』
『そりゃ期待の新人Sランクディーヴァー同士の二度目のコラボだしな。しかも舞台はSランクダンジョンと来たもんだ』
『今日もウィンちゃん可愛いですよ』
『せっかくだし、このまま攻略しちゃおうぜ』
『確かに。ハクちゃんなら出来そう』
『世界一、安心して見られる配信』
『わかる』
――――
とは言え、コメントの雰囲気は和やかだ。本気の攻略じゃないし、これくらい気軽な方が良いだろう。
「……トモ?」
だが俺の隣を歩くトモは何処かボーっとしていた。心ここにあらず……といった具合に。
――――
『トモちゃ?』
『おーい、どうしたー』
『すみません、ハクちゃんのリスナー方。家のトモはいつもこんな感じで……』
『またオカンリスナー登場w』
『草』
『俺がママになるんだよ!』
『お前も家族だ(ドゴォ』
――――
「え、ええ? あ、ご、ごごごごめんなさい……!」
「……大丈夫か?」
体調が悪いようではなさそうだが……。
「だ、大丈夫です! 本当に! 何でもないですから!」
「そ、そうか……?」
……何か、隠し事をしてるなこの反応。
少し警戒しておくか。
俺は平静を装いながらもトモの一挙手一投足を見逃さないよう、注視し始める。自然にやっているので勘づく奴はまずいないだろう。フィオナなら分かると思うが。
「ハクア様! 魔物の気配!」
「ああ、分かってる」
暗がりから急速に迫ってくる殺意。俺はまだどこか抜けているトモに声をかけると、迎え撃つために進み出る。
……ちなみに今日は以前のネコミミフードに戻してある。どうもネコミミ派と巫女派に二分されたようで、どっちの規模も同程度なのでローテーションで切り替える事にした。
これも視聴者へのサービスだ。
「うわ、キモッ」
出てきたのは全身脱毛した猿のような人型の魔物。真っ白な肌に目はなく、代わりに耳がデカい。ゾウみたいにバタバタと扇ぐように動かしていた。
「ウィン、やるぞ」
「オッケー!」
俺の肩に乗るウィンは身体を伸ばして俺の右手に絡める。ダンジョンの魔物は倒したものに成長を与える。つまり、こうして俺の身体にウィンの一部をくっ付ければ一緒に攻撃して倒した扱いになる筈だ。
Sランクでウィンを単独で戦わせるのは危険だが、これなら安全に経験値を稼げる。
「フン!」
後は平手打ちで頭をすっ飛ばすだけだ。スパーン! と良い音がしてサルもどきの頭部が消し飛ぶ。
――――
『相変わらず雑につぇええええwwww』
『一応こいつ等、ツクモモがベスト状態のヨルちゃんでも結構苦労してたんだけどなぁ……』
『なんか見てるとすっげぇ簡単そうに思えてくるから困る』
『ハクちゃんの真似して素手で戦う奴増えたよな。みんな大怪我して病院送りになってるけど』
『草』
『※良い子のみんなも悪い子のみんなも決して真似しないでください』
――――
「わ、私も!」
遅れてトモが射撃を開始する。先程までの精彩を欠いた様子とは裏腹に、やはり射撃のセンスは抜群だった。
援護射撃のお陰もあってサルもどきの群れは早々に全滅し、俺はドロップ品を拾い集める。
「……これは?」
恐らく装備品だろうか。ウサギの耳がついたヘッドフォンのようなものが落ちていた。
何でサルがウサギ? そういやこのネコミミフードも落としたのはゴブリンだったよな……関連性が謎だ。
「あ、そ、それは【スパイ6レーダー】ですね! 周囲の敵を感知できるようになるレア装備で、今の相場だと10万は下らないかと! でも売るよりも絶対、装備して……あ、ご、ごめんなさい」
「いや、謝らなくても……装備とか詳しいのか?」
「あ、はい……一応」
「じゃ、ちょっとつけてみるか」
俺はフードを外してウサギのヘッドフォンを付ける。すると、ヴン、と音が鳴って頭上にアンテナのような形状をした光と輪っかが出現した。
「……このご時世、頭に輪っかが出るキャラ付けは不味いのでは?」
そりゃ、天使なら良いけど俺翼ないしなぁ……。
「そ、そんな事ないですよ!
「あ、そうなの……」
かいつまんで言うと、問題ないと告げたいのだろう。多分。
まあ、俺は自力で探知しようと思えばできるので、これはトモに譲ろうかな。
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