第67話 


「まだ確定的、ではありませんが」


「……またあいつらか」


「もしかして、配信中に何かありました?」


 流石に鋭いな。

 俺はため息交じりに、フィオナに戦闘員と交戦したことを伝えた。


「それで身柄は引き渡してしまったのですか?」


「うん」


「残念ですね。連れて来て貰ったら、洗いざらい吐かせますのに」


「一応ここは日本だから……あまり過激な事は出来ないよ」


 素直に専門機関に任せておく方が良い。荒事は最終手段だ。


「何ならトモを攫って吐かせましょうか? 犯罪組織が関わってるのなら、ハクア様に何かあってからでは遅いです」


「話聞いてた⁉ 過激な事は止めよう! 俺もあんま人の事言えないけど!」


「……そうですか、残念です」


 心底、残念そうに気落ちした様子を見せるフィオナ。本気でやりかねないから困る。


「では、どうしましょうか?」


「様子見で良いよ……実は俺もトモの後を付けて、住んでる場所を特定したんだ」


「あら……流石、ハクア様ですね。一言言ってくだされば私がやりましたのに」


 絶対家に凸るだろ。少々アクティブ過ぎるんだよこの聖女様は。


「でさ、怪しいのは両親のどっちなの?」


「怪しさだけで言うなら女の方ですね。素性も妙ですね。表向きには元キャバ嬢のようですが……その店の元締めはガロウズ・ゲイプ傘下の子会社です」


 犯罪組織なのにビジネス面にも進出してるらしい。どうせ殆どがペーパーカンパニーだろうけど。


「この女もドブみたいな臭いがしますね」


「いや、言い方」


 女の方って言うと再婚相手か。

 トモの父親とは10歳以上、年下だ。あ、……確かに臭い。


「ですが、父親も何とも言えないですね。女の言いなりなので、善悪の区別がついているかどうか」


「ふーん……だからトモも怪しいのか」


「はい。親がこのザマでは洗脳されていてもおかしくありません。ハクア様に成りすますなどと言うナメた真似をしたのも、親の差し金の可能性がありますね」


「………」


 フィオナの心配も尤もだ。だが、それでも俺はどこか引っ掛かった。

 その原因がテレビの発言なのか、腕に残っていた虐待の痕跡か、あるいは……。


「ハクア様、トモと関わるのは止めましょう。あの佐伯と名乗る男に任せればいいです。今、私たちは大魔王と言う最大の懸念があります。下らない犯罪組織など、後で潰せば良いでしょう」


 その通りだ。俺からすれば罪組織なんてお遊戯会だ。アースシアで戦ってきた連中と比べれば吹けば飛ぶような弱小に過ぎない。

 だからと言って油断して良い相手ではないし、大魔王探しに集中するためにも面倒事を増やすのは悪手になる。


「忠告ありがとう、フィオナ。でも俺は――」


「見捨てる事が出来ない、ですか?」


「……ああ。良く分かったな」


「私が何年、ハクア様と連れ添ったと思いで? 大体のお気持ちやお考えは分かりますよ。旅の仲間わたしたちは――そんなあなたの心映えに惹かれたのですから」


 何もかもお見通し……敵わないな、ホント。


「悪いな……苦労を掛ける」


「今更、何ですか。私もハクア様もお互いに苦労を掛け合いました。お互い様、これからも遠慮なく行きましょう」


「そうだったな」


「ええ、なので――」


 フィオナの目が怪しく光る。


「今日は赤裸々に語り合うためにも一緒にお風呂に――」


「あー、うん。夕飯食べたらちょっと外に出て来るから一人で入ってねー」


 俺に飛びかかろうとしたフィオナを軽くいなし、立ち上がった。

 せっかく見直したのに……残念だよ、フィオナ。


「うう、ハクア様、チキュウに帰ってからすっかり冷たくなってしまいました……かつては私と熱い夜を――」


「待て待て待て! ありもしない旅の記憶を作り出すな! キスすらしたことないだろうが!」


 そこまで言って俺は失言に気づく。案の定、フィオナがニヤリとほくそ笑んだのを見逃さない。


「なーんだ、ハクア様も分かってるじゃないですかぁ。なら、さあ。私の愛の接吻をしましょう! それから次は本番を」


「なんでこんな煩悩塗れが聖女になれたんだ?」


 アースシア最大のミステリーだよもう。

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