第66話 トモの素性


 配信を終えてトモと別れた後、俺は家に帰る……訳ではなく。

 密かにその後を付ける。やってる事は最低だが、色々と分からない部分が多すぎた。こういう後ろめたい手段も必要なら迷いなく執る必要があった。


 トモは近郊電車で郊外に向かい、家屋も疎らな緑化地区で下車する。ここら辺は元は市街地だったがダンジョンが複数出現し、その影響に巻き込まれた家々が続出した。


 結果、政府の支援も受けて住人たちは近場の街に移住してしまい、今では殆ど人が残っていない。結果、東京でも屈指の自然豊かなエリアになり、保護区域の指定も受けている。ここに訪れるのは殆どディーヴァーだけだ。


(こんな所に住んでるのか……?)


 確かにディーヴァーなら配信活動に苦労しない土地だが、ライフラインは壊滅的だ。流石に携帯の電波は飛んでくるけど、他にはほぼ自然しかない。

 確かに土地に思い入れのある人も数世帯残っているらしいが……。


 獣道を進むトモの後を追う。気づかれないよう、先程よりも距離を開けて慎重に進む。

 やがていくつかのバラック小屋が密集した集落のようなエリアに辿り着く。トモはその中の一つに入っていった。


「……ここが」


 姿を消して近寄ろうと思ったが、いくら何でもやり過ぎだろう……。まあ住んでいる場所が分かればいい。俺は来た道を引き返し、帰路についた。



 家に戻ると……随分とおかんむりなフィオナが出迎えてくる。


「ハクア様」


「言いたいことは分かるけどさ……」


「……あのトモと言う女、何か隠しています。キナ臭いですよ」


 フィオナのこういう直感も鋭い。幾度となく助けられているから、決して嫌いだからと理由で告げている訳ではない。


「分かってるよ」


「それでも尚、関わるのですか?」


「悪人には見えないからね」


「……そう言うと思いました」


 フィオナはホチキスで止められた資料を机に置く。


「トモに関する情報です。ハクア様の事ですから、既に色々と突き止めているかと思いますが」


「ありがとう。まだ家しか把握してないよ」


 俺は紙を手に取って内容に目を通す。


 ――湊鼠トモ。本名、青山アイ。都内の高校に通う。幼少期に母親を事故で亡くし、男手一人で育てられる。

 現在でも父親と二人暮らしをしていたが、一年前に再婚。現在はその女性も同居している模様だ。


 思い出の土地のため、現在でも緑化地区に住み続けている。ディーヴァーになったのは一年半前……つまりダンジョン出現当初から活動を開始した古参のようだ。


 戦闘スタイルは二丁拳銃。遠距離だけでなく、積極的に接近戦を行い殴り合う特殊な戦い方を得意としている。

 今回の配信でも実際に見たものだ。飛び道具で格闘戦を仕掛けるのは、銃器の優位性を無くすようなものだが彼女の力量ならそれも気にならないだろう。


 今回のコラボで良く分かったけど、普通に強い。Aランクディーヴァーで留まるには勿体ない素質だと思う。


「フィオナはどう思う?」


「まあ、実力面は中々ですね。ですが――」


 やはりSランクと手放しに認めるのは宜しくないでしょう、と続ける。


「と言うと?」


「彼女の過去の配信全てをチェックしました。結果、直近の配信では明らかに遅れていた反応が、


「……練習で上達した可能性は?」


「今日の配信日が21日です。前回は19日。ハクア様でもこの短期間で染み付いた癖や弱点を消すのは大変かと思います」


「まあ……、そうだな」


「それにこの欠点を彼女が近くしている可能性は、極めて低いと思います。最初の配信からずっと変わっていませんでしたし、少なくとも過去コメントで指摘される事もありませんでした。SNSなどで問題提起していた気配もありません」


「そこまで調べたのか?」


「ええ。敵を知る事も戦略ですから」


 ……本当、フィオナが仲間で良かった。


「つまり何らかの手段で改善したって事なんだろうけど……」


 別にアイテムでドーピングするのも合法のものなら問題はない。ディーヴァーは軍人と並んで世界で最も命に係わる職業だし、相手は魔物と言う未知の生物なのだから。


「はい、合法ならですが」


「……何かあるのか?」


 まだ確定事項ではありませんが、と前置きしてフィオナは言う。


「彼女の両親のどちらかが、ガロウズ・ゲイプに関与している可能性があります」


 

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