第65話 忍び寄る影


「ッ、なるほど……強いな……ッ」


「……ボス部屋の異変もお前の仕業?」


 どうせ聞いたって口は割らないだろうけど。無理矢理、割らせる方法はいくらでもあるが……


「さあ、な」


「言いたくないなら別に良いよ」


 俺は男の額を鷲掴みにする。記憶を漁るスキルで丸裸にするが、案の定……上に繋がる情報はない。命令は匿名性の強いメッセージアプリで届けられ、全て偽名や暗号で書かれている。


 戦闘指南も同じくダークウェブの特殊なビデオアプリを通して行われており、直接顔を合わせる機会は一度も無かった。

 徹底的だが、ここまで隠蔽するのは不可能に近い。……多分、記憶処理も施されてるなこれ。物理的に抹消しているのかも。


 分かったのは、コイツがガロウズ・ゲイプの構成員でボスモンスターを排除して魔物を配備させたってことくらいだ。その際、妙な筒状のアイテムで魔物を呼び出していたが……見た事ないな。唯一の手掛かりはこれくらいか。


「お望みの情報は得られたか?」


 無表情の男の口元が僅かに蠢く。

 ああ、そういう……


「手荒くなるが、文句言うなよ」


 俺は適当な石ころを拾い上げ、男の口をこじ開けると同時に強引に加えこませた。


「ご、お!?」


「口の中に起爆装置でも仕込んでるんだろ? そういうの、何度も見てきたよ」


 余裕を垂れ流していた男の顔が初めて驚愕に染まる。この程度でダメージを受けるとは思わんが、トモが近くにいるからな。


 ……しかしまあ、捕まれば自爆して綺麗さっぱり、か。


 下っ端でもここまで育て上げるには相応の労力と金を使うだろうに……それを簡単に捨て駒にするとはな。

 伊達に世界最大の犯罪組織と呼ばれている訳ではないようだ。


「……もしもし、佐伯さん? 今、ガロウズ・ゲイプの戦闘員を制圧しました。職員と警官の派遣をお願いします。はい、こちら怪我は無いです。ドローンも置いてきてるので一般視聴者には見られてません」


 俺はスマホ片手に通話しながら、男を魔法で拘束。口にも起爆装置を噛み砕けないように石ころを押し込んだままにする。


「……おちおち配信も出来ないんじゃないか? これ」


 ドローンが回ってる只中で襲ってくるとは思えないが……。


 *


「お待たせ」


 やってきた職員と警察に男は任せる。口の爆弾は解除したのでもう自爆は出来ない。


「お、お帰り……遅かったけど、何かあったの?」


「いや、何もないよ。少し……」


――――


『トモちゃん席外した女の子にそれ聞くのはアカンよ』

『まあ大体お花摘みだしな』

『随分長かったな』

『察し』

『なるほど。ダンジョンにトイレはないしな』


――――


「お前ら……」


 余計な邪推は止めろ。ちゃんと配信前にトイレ行ってるわ。


「んと、今日はここで一旦配信止めようか」


 佐伯さんにも安全のために引き上げるように進言されたし。


「うん、分かった……」


「ああ、でも次の配信も良ければコラボするか?」


「え……え? い、良いの? だって、わ、私は、……」


「気にするなって。俺も気にしてないから。それともダメか?」


 正直言うと色々と気掛かりな部分もあるからな、この子。先程の狼狽した感じもそうだし。

 フィオナはまた怒りそうそうだが、見える所にいた方が良い。


「そ、そんな事ないよ! こんな私に構ってくれるだけで……でもどうして、ここまで私に……」


「………」


 俺はドローンを見る。


「まあ、色々とさ」


「……?」


 いずれは、何でデモスレに成りすましたのか。何でそこまでしてSランクになりたかったのか。その理由を尋ねなければならない。

 今はまだ、様子見だ。ほんと、


「さて、そろそろ外に出るか?」


「う、うん。今日は、その……ごめんなさい」


「……ああ。お疲れ様」


 さてと……少し、悪趣味な真似をするとしようか。

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