第64話 接敵
「……こ、ここがボス部屋です」
荒廃した遊園地の最奥に難なく辿り着く。早速扉を開け放ち、内部へと足を踏み入れる。他と同じ、遮蔽物のない広大な空間が出迎えた。
「……あ、あれ?」
入ってすぐにトモは周囲を見渡している。俺もその行動の理由をすぐに理解できた。
「ボスがいないな」
他の人が倒したのだろうか。あまり人気が多いダンジョンではないので、先駆者がいるとは思わなかった。
「一応、今日は私たち以外に来ているディーヴァーはいないハズ……」
「そうなの?」
まあ、全てを把握している訳でもないし、倒されたんなら仕方ない。今日はここで終わりに――。
「……トモ、ストップ」
「え?」
俺は異変に気付いて足を止める。
「………」
薄暗がりの中に湧き出してくる魔物の気配……。
これは……。
「え、え?」
ブルードラゴンと同じ、か。
出てきたのはここに棲息する魔物と同じだが、ボス部屋に一般の魔物は入り込めない。絶対とは言い切れないが、これまで一度も観測されたことが無いのだから現状ではあり得ない現象と言えるだろう。
「なんで、ボ、ボス部屋に魔物が? こんな事……」
「……トモ?」
「こんなの、聞いてない……私、ちゃんとやってるのに」
ふらつき、後ずさる。その表情は困惑に満ちていて、こちらの声が聞こえていないようだ。
「………」
……まずはこいつらを処理してからだ。俺は前に進み出る。
――――
『トモちゃん?』
『どうした!?』
『雑魚モンスが何でボス部屋に出てくるんだよこれ。仕込み?』
『トモちゃんにそんな小細工考える思考力はないゾ』
『草』
『トモちゃんどうしたん? トイレか?』
『とりまハクちゃん頼む!』
『ま、トモちゃんダメでもなんとかなるよな』
――――
俺は向かってくる着ぐるみに飛び蹴りで迎え撃つ。弾け飛ぶように破壊されたそれを払い除け、別の敵に突撃。熊のアニマトロニクスの腕を掴み、ぶん回してから投げ飛ばす。
大した数だ。さながらモンスターハウスだが、問題ないな。
「せーの!」
敵の塊に飛び込み、片っ端から薙倒していく。あまり配信映えする戦い方ではないが、トモに被害を出す訳にはいかないので最速で仕上げにかかる。
「これで、終わりっと」
最後の一匹の頭を踏み砕く。これで魔物は全員処理終了だ。
――魔物は、な。
「トモ、大丈夫か?」
「う、うん。ごめんなさい、私……あの……」
「別に良いよ。何かあった?」
「私……は……その……」
「言いたくないなら、無理にとは言わないよ。今日はこの辺で配信止めるか?」
「ううん、だ、大丈夫。せっかくのコラボだし……」
「おけ。じゃあもう少し続けようか」
とは言え、ボスはいないしなぁ。
軽い雑談で繋げようか。
トモを落ち着かせるため、
「あ、ありがとう……」
瓶を受け取り、口に運ぶ。落ち着いたのか、緊張感は抜け落ちて行った。
「うん、落ち着いた?」
「……うん、もう平気。色々と迷惑かけちゃったね……私が誘ったのに」
「良いよ。このくらい」
俺は様子を見てから一旦、席を外す事にした。
「ちょっと、離れるけどすぐ戻るから」
「分かった」
ボス部屋の外に出て、軽く息を吐く。
そして周囲に消音の魔法を張り巡らせた。トモや視聴者さんを巻き込む訳にはいかないからね。
「さてと……いつまで見てんだ、お前は」
「ぐ、ぅ……貴様、なんで分かった!?」
すぅ、と戦闘服に身を包んだ禿頭の男が現れる。肩には俺が投げたナイフが刺さっていたが、すぐに抜いて投げ捨てて回復魔法を施していた。
「で、何者?」
「フン、そんな事、素直に言うと思うか? 馬鹿な奴だ、このまま気付かないフリをしておけば、俺も何もせずに撤退したものを。見られたからには、生かしては帰さないぞ」
「……あ、そ」
男は黒塗りのナイフを抜いた。光を反射しない特殊なコーティングが施されているらしい。暗殺者向けの武器だな。
「死ね!!」
男が加速する。瞬く間に距離を詰め、迷いなく急所を狙ってナイフが振るわれた。
対し、身を引いて斬撃を躱すがその時、男は口から何かを吐き出す。
「おっと」
飛んできたそれを指で挟んで止めた。
やはり黒塗りの小さな針……毒も塗ってあるな。劇薬だ。
「――かかったな!」
掌で一瞬視界を切った際に、男の姿も掻き消えていた。
「貰った!!」
完璧な死角からの一撃。
なるほど、ただの暗殺者ではないらしい。
「あー、うん。見えてるけどね」
俺は男の腕を絡み取り、合気道の要領で投げをかける。
「なッ!?」
咄嗟に受け身を取ろうとしてくるが、無駄だ。対処不可能な角度と速度で投げ落とす。
「ガハァッ!?」
背中からまともに硬い地面へ叩きつけられる。どんな達人でもその衝撃は強烈で耐えられるものではない。呼吸が詰まり、小刻みに無意味な喘ぎを漏らす。
「ふぅ……」
その間に男の武装を全て奪う。ナイフの他にもサイレンサー付きの拳銃や仕込みナイフ、ボールペンサイズの使い捨て飛び道具など危険な玩具ばかりを所持していた。
気配の殺し方、戦闘力、戦術、武装……どれを見ても三輪のようなチンピラとは格が違う。
明らかに訓練を受けた者だ。だからこそ、その正体もすぐに判明する。
「尋問するまでもないな」
俺はしゃがんで男と目線を合わせた。
「お前、ガロウズ・ゲイプだろ?」
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