第63話 暗躍



「こんにちは、ボス」


 薄暗い部屋の中、声が響く。その主は褐色肌の少女。


「Sランクディーヴァーの素性調査、何とかできたんだけど……」


 目の前のパソコンの画面には、ビデオ会議アプリが表示されている。しかしボスと呼ばれる存在は映っておらず、真っ黒な室内が映し出されるだけだ。


「一応これがそのデータ」


 キーボードを打つと、画面に顔写真付きの資料が示された。


 百瀬ヨル、本名『黒澤モモ』。

 ダブルフェイス、本名『御子柴シドウ』。

 翠帝、本名『天草リョク』。

 湊鼠トモ、本名『青山アイ』。


「ゴメン、ハクとフィーナは駄目だった。身バレ防止は完璧、情報も全然。むしろこっちが逆探されそうになったくらいで……」


「おやおや、接触したのに何の成果も得られなかったのかしら?」


 画面に別の通話者が割り込んでくる。少女は顔を顰めた。


「いきなり何? アンタはお呼びじゃないんだけど」


「うふふ、相変わらず生意気な態度だ事」


 通話者の女性は扇子で顔の下半分を隠しながらせせら笑う。その笑い声が余計に少女を苛立たせた。


「今はボスの御前です。下らない諍いは止めましょう」


「……そうね。で、割り込んできたからには何かしらの情報があるんでしょ」


「もちろん。まずは、例のプライベートダンジョンの侵入による利益の報告です」


「マスターキーのアレ?」


「はい。特にハクのプライベートダンジョンはかなりの利益になりましたね」


「せっこいシノギ……」


 ボソリと少女は呟くが、女は構わずに続ける。


「迷府も捜査に乗り出してますが、我々の尻尾を掴むのは無理でしょう。これで資金は当面の間安定して得られるかと。〝計画〟のスケジュールも前倒しで達成できる見込みも見えてきました」


「―――」


「はい。ですので、関東地方に派遣する構成員を増やしていただけたら、と」


「―――」


「ありがとうございます」


 女は恭しく一礼した。

 その後、少女が提示した資料に気づいて興味深そうに眺める。


「おや、この子供……」


「湊鼠トモ? コイツを知ってるの?」


「ええ、それはもうとてもとても」


 女はニタリ、と厭らしく口角を釣り上げる。


「それになんて幸運なのかしら。今丁度、ハクとコラボ配信をしているじゃあありませんか。少し、面白くなりそうですね。ボス……私が出向いても?」


「―――」


 返答に女性は更に笑みを深くした。


「ありがとうございます。あなたも是非、配信を見てみなさいな。楽しめますよ」


 そう言い残し、女性はアプリからログアウトした。少しの沈黙の後、少女は口を開く。


「ボス……差し出がましい事だって分かってるけど、最近あの女みたいな妙な奴ばかり見かける。今までより明らかにヤバいシノギを持ってきてるし……良いの?」


「―――」


「それは……そうだけど。でも」


「―――」


「……分かった。もう、何も言わない」


 アプリの通話が切れる。真っ黒になった画面を前に、少女は息を吐いた。


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