第62話 コラボ配信開始


 目の前には廃墟化した遊園地。もちろんただの廃墟ではなく、ダンジョンだ。


「きょ、今日はよ、よろしくお願いします……」


「うん、よろしく」


 隣にはトモ。この前と同じセーラー服の上から軍用の防弾ベストを着込み、頭には防塵、遮光付のHMDバイザーと通信用のヘッドセット。手と足は同じく軍用規格のごついグローブとブーツ。


 剣士や魔法使いと言ったファンタジー系やカジュアルな装備のコーディネートが主流な中、ここまで本格的なミリタリー装備は珍しい。


「その装備、どこで?」


「えっと……オークションとかで……殆どが米軍の放出品かな。型落ちだから安く買えるんだ……」


「へぇ……ミリタリー系とか好きなの?」


「うん。FPSとかよくやってるんだ……一応、BoFで日本人勢唯一のトップ10に入ってる。最近はディーヴァーの活動で忙しいから、腕が落ちちゃってると思うけど」


「いや、凄いわ! BoFでしょ? 俺もやってたけど、全然勝てなかったし!」


「え、あ、そ、そう? ……初めて、褒めて貰えた」



――――


『コラボ配信開始から良い雰囲気で良かった』

『あの自己肯定感マイナスに振り切れてるトモちゃんが笑顔に……!?』

『俺らでも見た事が無い笑顔を……悔しいのう、悔しいのう』

『てか、あんなに喋ってるのも初めてなんだが』

『それな』

『どんだけ喋らないんだよw』

『まあディーヴァーでも無言プレイする人はいるから……』

『俺らのトモちゃんを甘く見るなよ? 無言なんてもんじゃねぇぞ。最早、無音だ』

『草』

『えぇ……』

『ワロタ』

『無音www』

『そんな訳で、今日はウチのトモちゃんをお願いします』

『向こうの視聴者層、オカンみたいで草』

『こちらこそハクちゃんをよろしくお願いします』

『なんだこのお見合い感wwww』

『お見合いwww』


――――


「お見合いって……」


 いきなり何を言うかと思えば……。


「………」


 ほら、黙っちゃったよ!


「ええと、ごめんな。ウチの視聴者、変なのが多くて」


――――


『辛辣ゥ!』

『ハクちゃん容赦ないな……』

『もっと罵ってください』

『蔑んだ目たまらん』

『ヤベェの湧いてて草』

フィーナ『お見合いって何ですか!? 私は認めませんよ!』

『お姉様www』

『ああもう話が余計に拗れる事に……』


――――


「……なんか荒らしが来ましたね。制限をかけます」


 絶対に変なコメントするなって、出る前にも言い聞かせたのに……

 残念だよ、フィオナ。


「あの、大丈夫。こんなに、沢山のコメントが来たの、初めてで……少し、緊張しただけ」


 そう言ってバイザーを下ろすトモ。しかし顔が赤いのは隠せていない。


「じゃあ、攻略始めるけど良い?」


「うん……不束者ですがお願いします」


「⁉」


 変な空気感に中てられたか?


 *


「――ふっ!」


 しかし一度、戦いに入るとトモの雰囲気は一変する。

 腰のホルスターから二つの大型の自動式拳銃を抜き放ち、遠近使い分けて戦い出す。


 動物を模したアニマトロニクスや着ぐるみの魔物を銃弾で打ち倒し、打撃や蹴りを用いた格闘術も随所に挟む。


 パワー、スピード、技の正確さ。

 どれも一級品だ。前に動画で見た時よりも飛躍的に動きが良い。


 これが本気の動きなのだろうか?

 短期間でここまで成長した可能性もあるが……


弾雨ラセゾンデプリュイ!」


 トモは弾幕を張りながら駆け抜ける。空になった弾倉を外し、両手首に取り付けられた機構から新しい弾倉が飛び出してきた。


 リロードの隙もほぼゼロだ。派手さは無いが、堅実で渋い――いぶし銀の戦闘スタイルだな。

 これなら確かに佐伯さんも納得するだろうが……余計に腑に落ちないな。


 こんなに強いなら俺に成りすますまでもなく、いずれはSランクに選ばれたはずだ。

 現時点では、トモの行動は全て行き当たりばったりで――計画性が無い。ハイリスクハイリターンな成りすましをやるには、あまりにも杜撰だ。


 そしてあの腕の怪我……テレビで言ってた気になるセリフ。


 やはり、トモは……


「ハ、ハクさん?」


「え? ……ん、ああゴメン」


「た、戦いは終わったよ。奥に行こう」


「分かった」


 せっかくのコラボ配信だが、イマイチ気分が晴れない。俺の心には取れる事のない引っ掛かりがいつまでも残っていた。

 

 

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