第61話 コラボ配信の誘い



 ……食事会が終わり、自宅へ戻る。おかんむりのウィンを適当な夜食で落ち着かせ、その間にフィオナに今日ダンジョンで出会った少女の正体を洗ってもらう。


「国内だけでも数百万人のディーヴァーがいますが……私のスキルを使えば容易いですね。五分ほどお待ちください」


「ありがとう。頼りにしてる」


 数分後、フィオナから声がかかる。


「終わりました。結果は、該当者なしですね」


「……間違いない?」


「はい」


 ここまではっきりと断言するなら、本当にいないのだろう。つまり――


「無断でダンジョンに……」


 今や先駆者や政府、迷府の調査により安全性は確立されているが、それでも下手な秘境より危ない環境だ。だからこそディーヴァーの資格は必須になり、適したランクでの攻略しか認められていない。


 有望株発掘のために近い内ランク制限は撤廃されるが、今はまだ従来の決まりのままだ。明確な違反行為になる。


 だが、それよりも……。


「いくら低ランクとは言え、あんな小さな子がダンジョンの奥地にまで入り込み、ブルードラゴンから逃げられるなんて……」


「普通に考えて無理ですね。本当に運が良かったのか、あるいは」


「相応の実力者。しかもディーヴァーにならずして」


「……ディーヴァーにならないで可能でしょうか?」


「割といるみたいだよ。自衛隊なんて正にそれだし」


 一説によれば対ダンジョン攻略用の秘匿部隊が存在するとか。他にも本業のためにディーヴァーにはなれない人がいる。彼女もその内の一人と考えられる。


「他には、なれない人だね」


「なれない人?」


「反社・犯罪者・アウトロー」


「……しかし、ハクア様が出会った少女は同年代くらいでしたよね」


「うん。でも見た目と実力は結び付かないだろ?」


 今までの経験上でもそうだったし。

 見た目が子供の仙人や、老人なのに幼稚な脳味噌のままの馬鹿もいた。


 容姿で推し量り、決めつける奴は生き残れない。


「まあ、普通に考えてガロウズ・ゲイプの可能性が高いかな、と」


「随分、大胆ですね……いえ、ナメているのでしょうか」


「全部、推測の域を出ないけどね。怪しいのは確かだけど」


「分かりました。警戒の方は私に任せてください」


「ああ、頼むよ」


 本当は大魔王に集中したいのだが、ガロウズ・ゲイプも無視できる存在ではなくなってきた。むしろ集中するためにも先に片付ける必要がある。


「ったく……めんどくさい」


 ボスっ、とソファに座り込む。

 スマホで適当にメールやSNSに届くしょうもないDMを見ていると、トモからメッセージが来た。


 ――あの、いきなりすみません。良ければ私と、コラボ配信して頂けますか?


 本当にいきなりだな。別に構わないけど。


「誰からですか?」


 隣に座るフィオナが止める間もなくひょいと覗き込む。

 途端、顔つきがまた歪み始めた。

 なんかの怪異かな? 怖いから止めて欲しい。


「この女、また図々しくハクア様に……!」


「ウィン! フィオナを落ち着かせてくれ!」


「しょうがないなぁ。お礼に明日のご飯も奮発してね」


 ピョン! とワナワナと震え出したフィオナの膝上に乗っかる。


「あらぁ、ウィンちゃんはいい子ですねぇ。癒されますわぁ」


 抱き上げ頬ずりするフィオナの表情は元に戻っていた。対し、ウィンは虚無顔……すまない、恩に着る。

 この隙に俺は返信を打つ。


 ――良いよ。どこでやる?


 数秒後、返信がまた来た。


 ――Aランクダンジョン、不愉快な遊園地はどうでしょうか? 【URL】


 廃墟系のダンジョンか。

 ……特に問題ないな。まだ未踏破のようだが、トモの実力を見る意味でも丁度いい。


 ――おk。時間と日付は?


 ――今週の日曜で大丈夫ですか?


 ――大丈夫。


 ――じゃあその日で、お願いします。


「……楽しみだな」


 Sランク同士のコラボなら視聴者さんも喜びそうだ。

 俺は早速SNSで告知する事にした。


 ……フィオナは連れて行かないようにしないと。


 

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