第60話
「――それでぇ、最終話のあのシーンはアニメ史に残る名シーンかなって」
「それな。あそこは最後に一期の主題歌が最高のタイミングで流れるから……」
気づけば俺も会話に熱中していた。完全にトモの緊張は抜けていたが、このまま話を続けていく。普通に楽しいし、無理に話題をずらす必要もない。
「……こんなに話したの、久しぶりだった」
語り尽くしたので一息。トモはジュースを飲む。
「あの、その……ハクちゃん」
かなり打ち解けたので気軽に名前を呼んでくれるようになった。喋り方も最初のようなドモり方もない。
「もっといろいろ話したいから、えっと……」
そっとスマホを差し出してくる。
「SNSの連絡先……」
「良いよ」
断る理由はない。俺はトモと相互フォローになっておく。
「あ、ありがとう」
「あとは電話番号も交換する?」
「え? い……いいの?」
「もちろん」
「あ、じ、じゃあ……」
「何か相談したい事があったら、いつでも遠慮なくしてくれ」
「……うん。分かった」
あの時見た腕の怪我……もしそうなら、見過ごせない。ただデリケートな問題でもあるので、ズケズケと踏み込むのもダメだ。今は見守るべきだろう。
「あ、向こうの料理、取って来るね」
皿を持ち、テーブルの一つに向かう。スープが入った鍋がいくつか置かれてあった。
「あー、トモさんストップ!」
「え、あ、え?」
その時、別のテーブルにいた翠帝さんが血相を変えて近づいてきた
? どうしたんだ?
俺も近づくが、違和感に気づいた。
「……これは」
コンソメスープの芳醇な香りに混ざる微かな異臭……毒。
「今、自分もそのスープ装うと思って近寄ったら……妙に臭いますわそれ」
「に……、臭、う?」
トモは自分の服や料理を嗅ぐが、首を傾げていた。
「そうだね。飲まない方が良い」
スキルで簡単に調べるが結果は――クロ。何らかの毒物が混入している。
「おや、流石ハクさん。気づきました?」
「ええ。毒が入ってます」
俺の言葉に場の空気が一変した。
「……何ですって? それは、本当ですか?」
佐伯さんも早足で向かってくる。
「はい。毒の種類は……今、分かりました。ベラドンナの毒ですね」
「うわ、こりゃまたケッタイなモンを……」
俺は箸で鍋の底から掬う。摘まんだものは小さな植物の根っこだ。地球に自生するものではなく、ダンジョン産のベラドンナで、触れるだけで毒に蝕まれる。食べ物に投げ込もうなんてすれば……。
「誰か、これを食した人はいませんね?」
全員を見渡すが、誰も手を付けてはいないようだ。まあ、此処にいるのは全員Sランクのプロだ。異変を察する事は出来るだろうし、万が一食しても耐性系のスキルを保有しているはずだ。
「……しかし、どこで混入したのか。雇っているシェフは全員、厳正なチェックを受けています。過去数十年に亘って反社などと接触した記録はありません。食材も国内の信頼できる業者から仕入れています」
「それは自分も保証しますわ。ここの管理体制は完璧かと」
「ここで飲み食いしている君の証言なら信用できるね。どれ、少しそれを貸してくれるかい?」
ダブルフェイスさんが皿を差し出してきたので、その上に乗せた。暫くをそれをジッと見つめている。
……何かスキルを使っているな。
「ふぅん……中々、厄介だね」
「と、言うと?」
「こう見えても読書好きのインドア派でね。植物の見分け方も少し分かるんだけど……こいつは品種改良されている可能性がある。毒性が従来のものより強烈だ」
「品種改良……」
なるほど。
つまり――、
「誰かがベラドンナを改良して、暗殺用の道具に作り替えた……って感じ?」
「お見事。その通りだよ」
「誰が……って、こんな事するのは……」
「ガロウズ・ゲイプ、ですか」
佐伯さんはワイングラスをそっと置いた。表情も口調もは変わってないが、目には確かな怒気が宿っていた。
「エクセリオンタワーの食堂に、このような物を堂々と送り込んでくるとは――良いでしょう、あなた方とは正面切って戦争をして差し上げますよ」
勤めて冷静な物言いだけど、殺気が物凄い。そう言えばこの人、ディーヴァーから叩き上げで今の地位になったとか聞いたけど……本当っぽいな。
「皆さん、折角の食事会に水を差してしまって申し訳ありません。他の食品は安全かと思いますが……念のため、手を付けないようにお願いします」
俺は念のため自分自身や、フィオナたちの体調をスキルでチェックしてみた。
――問題なし。
「至急、どのように紛れ込んだのか調査しようと思います。皆様も可能ならエクセリオンタワーの宿泊施設をご利用ください」
ああ、折角のご馳走が……
プライベートダンジョンも荒らされるし……進展があったか、後で佐伯さんに聞いてみようか。
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