第57話 真の実力



「いや、ホンマ助かったわ! お嬢ちゃん……いや、ハクちゃんは命の恩人やで!」


 饒舌に人語……エセ関西弁を喋るのは目の前の白いキツネ。ヨルさんのテイムした魔物であり、相棒でもある存在。

 しかしその尾の数は九本。紛れもなく九尾のキツネだ。魔物――と言うか、神聖な生き物と言うべきだろう。神様の使いと呼んでも差し支えない。


「改めて紹介するね。この子が私の相棒、九尾のツナだよ」


「よろしゅう!」


「よ、よろしくお願いします」


「うん! よろしくね!」


 ダンジョン内なのでウィンも呼び出したが、早くもツナと打ち解けたようだ。そう言えば俺も一応テイマーと言うテイでやってたな……。


「じゃ、外に出ようか。ツナ、行くよ」


 ウィンと戯れているツナをヨルさんが呼びかけた時だった。

 足音が聞こえてくる。それも走っていた。


「た、助けて!」


 暗がりから懐中電灯片手に現れたのは一人の少女。手にはディバイスがあるのでディーヴァーのようだが……。


「お願いです、助けてください!」


 少女は俺の元へ飛び込んでくる。薄い金髪に褐色の肌。服装は一般的なワンピースと、いかにもな初心者ディーヴァーだ。


「どうしたの?」


 ヨルさんが落ち着けるように優しく話しかける。


「魔物が……ここには出ない魔物がいて、あたしの友達が!」


「ここには出ない魔物?」


「うん。大きなドラゴン……」


 ヨルさんの顔色が変わる。

 おいおい……ここはEランクだぞ。対して竜種は最低でもBランク。どうなってるんだ。


「案内できる?」


「……あっち」


 少女は走ってきた方向を指差した。

 ……ふむ。


「ハク、悪いけど手伝って貰えると嬉しい」


「もちろんだ」


 悪魔が関与しているなら無視はできない。


「お姉ちゃんたち、助けてくれる?」


 潤んだ目で上目遣いに見上げてくる。身体は小さく震えていた。


「ん。任せて」


「……ああ。急ごう」


 危ないので少女は地上に戻そうとしたが、頑なについてくると主張した。友人が気がかりらしい。


「じゃあ、私の傍から離れないで」


「分かった」


「………」


 ヨルさんが手を繋ぎ、駆け足で向かう。

 過疎ダンジョンなので奥地はいくらディーヴァーでも初心者なら危険だ。それくらい分かっていそうなものだが……


 まあ子供は怖いもの知らずだしな。そういう場合だったら、ただの杞憂で済む。


 少女に連れられ、辿り着いたのはやや広めの空洞だった。ボス部屋とは違うようだが……


「うん。確かにドラゴンだね」


 空洞の中ほどに鎮座する、青黒い表皮のドラゴン。水属性のブレスを使いこなす……ブルードラゴンと呼ばれる種だ。翼はなく、巨大な蛇に近い姿をしている。


「友だちの姿が見えないけど……まさか」


「分からない。とにかく、速攻で倒そう」


 俺たちが近づくとブルードラゴンは鎌首をもたげ、威嚇するように長い舌を口の端から出し入れした。


「ツナ! 久々に全力で行くよ!」


「あいあいさー!」


 ツナが空中に飛び上がり、一回転。コミカルな煙が上がって、晴れると一本の刀に変身していた。


「ウィンもあんな事出来る?」


「ううん……無理かな」


「そうだよな」


 あのキツネもアマルガムのウィンと同じ存在なのだろうか?

 色々気になるな。


「まあ、今はコイツを処理する方が先か」


「ゴガアアア!」


 ブルードラゴンはグッと身を撓め、激しい咆哮と共に水流のブレスを吐き出した。岩をも砕くレーザーさながらの一撃だが、俺はそれを片手でバチン! と払い除ける。


「壱撃・嘴刳蜂!」

 

 ブレスを打ち払い、水飛沫が舞う中をヨルさんが駆け抜けた。柳の構えから大きく踏み込み、繰り出される刺突。


「!!」


 竜の目が見開かれる。強靭なウロコを容易く撃ち抜き、貫通。更に背後の壁にまで威力が伝わって砕ける程の衝撃だ。

 ……レッサーデーモン戦の時より、破壊力も技の冴えも段違いだ。動きも格段に研ぎ澄まされている。


 これが本来のヨルさんの動きなのか? まるで別人だ。今の強さならレッサーデーモン倒せるぞ。


「ガハッ……!」


 ブルードラゴンは吐血して白目を剥き、地響きを立てて横たわる。

 竜種はより高みを目指すディーヴァーたちの指標の一つ……それを一撃……。


 Sランクディーヴァーの強さを再認識できた。


「ふぅ。ツナ、お疲れ。病み上がりにドラゴン相手でゴメン」


「気にせんでええで! むしろ身体がなまってしょうがなくて、しょうがなくて」


 またボン! と煙を発し、今度はキツネの姿に戻る。


「お、お姉ちゃんたち、凄く強いんだね! あたし驚いちゃった……」


「ん。ありがとう。でもあなたの友だちは……」


「あ、あのね! 今連絡が取れてね、無事に外に逃げてたみたい……ごめんなさい」


「大丈夫。無事で良かった」


「………」


 ただの気のせいか、あるいは……

 暫くは、

 

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