第55話 六人のSランク
「………」
あれから数日。
いくつかのダンジョンを巡ったが、さしたる手掛かりは無し。いずれのダンジョンも悪魔がいた痕跡すらなかった。所詮はレッサーデーモンの情報なのでアテにはしてなかったが、ここまで外れると何らかの対策を打たれている可能性が高いな。
逆を言えば、それだけの勢力(大魔王にしろ別のものにしろ)が確実に潜んでいる証左にもなる訳だ。少なくとも今までの行動は無駄ではない。
「――皆さん、良く集まってくれました。急な呼び出しにも関わらず、ご足労頂き感謝いたします」
そして今日は再びエクセリオンタワーの最上階に招かれている。
「しかし、ついにここに六人のSランクディーヴァーが集いました。これで我が国の権威はより強くなり、目覚ましい発展が期待できるでしょう」
俺、フィオナ、翠帝、ダブルフェイス、百瀬ヨル――そして、湊鼠トモ。
薄い青緑色の髪の前髪は顎に届くほど長く、表情は不安げだ。本当に自らデモスレと名乗ったのか? と思わずにはいられない。
むしろ無理矢理、引き立てられたような……出たくもない場所に引きずり出されたような印象を与えてくる。
「ヨルさんも無事、退院出来て本当に良かったですわ。自分、心配しすぎて夜しか寝れませんでした」
「……それ、普通に何の問題もなく寝れていますよね」
ヨルさんはジト目で睨む。
「まあ、そうなんですが。でも心配したんはホンマですよ、ええ」
「だからと言って、毎度のように面会に来てリンゴのウサギを作っていくの、やめてくれません? 食べるの大変でした」
「いや、すんません。一度、リンゴでウサギ作って見舞いしてみたかったんです」
「……まあ。美味しかったです」
「でしょ? あれ、ウチのオカンとオトンが果樹園で育てる奴なんです。自慢なんですよ」
仲良く翠帝さんと会話しているが、たまに俺の方もチラ見してくる。
何だろう……まさかバレてる、訳無いよな。勘の良い人は微かな違和感を覚えるので、多分そんな感じだろう。
「アレが……ハクア様の……!!」
それよりも俺の横で殺意を垂れ流す聖女様の方が問題だ。フィオナの隣にいるダブルフェイスさんの顔色が悪いのも無関係ではない。
「頼むから、殴りかかるなよ?」
「私、そこまで野蛮じゃないですよ」
「アースシアで教会のお偉方殴り飛ばしただろ」
「相手がセクハラジジィだったので例外です」
「つまり、相手に落ち度があったら……」
「はい。天誅です」
何て、怖い笑顔なんだ! ウィンプルのせいで若干、顔に影が差しているのも……
「お願いだから大人しくね……」
「分かっています。ハクア様の顔に泥を塗るような事はしませんから」
フィオナの制御も大変だけど、なんで寄りにもよって俺を騙ろうとするんだろうなぁ……
「今夜は記念のパーティを開こうと思っています。皆さんの親睦を深めるにも丁度良いでしょう。まだ時間があるので、それまでは各自自由にしてください。タワーの転移方陣でお好きなダンジョンに行っていただいても構いません。ただし、時間は厳守してくださいね」
せっかくタダ飯を食えるなら参加しない手はない。最近、大魔王関連で忙しかったしたまには息抜きしても悪くないだろう。
「ではハクア様、私は備え付けの自室で解読を続けようと思います」
エクセリオンタワーにはSランクディーヴァー専用の個室が割り当てられる。いつでも好きな時に自由に使えるVIP待遇である。内装は高級ホテル顔負けだ。
「休まなくていいのか?」
「ええ。それにちゃんと必要な時に休息は取っていますので」
「なら良いけど。無理はするなよ」
「うふふ、心配して頂きありがとうございます。では、寝る時にハクア様が抱き枕になって頂けるならもっと疲労回復が……」
「じゃあ俺はその辺、うろついてくるね」
フィオナと別れ、タワーのエレベーターに向かう。リストアップされたダンジョンに行く事も出来るが、時間がかかりそうなので適当に街中でも見て回ろう。
フロアでエレベーターを待っていると、足音か聞こえてくる。見ると百瀬ヨルだった。
「………」
「えと、こんにちは……」
軽く会釈したら向こうも返してくれた。
「……ヨルさんも外に出るんですか?」
「うん。後、敬語はいらない」
「……善処します」
チン、と音がしてエレベーターが到着した。一緒に乗り込み、一階のボタンを押す。
「………」
なんかすごく気まずい……
何か言おうとしても不自然な挨拶しか思い浮かばなかった。
「一つ、答えて」
不意にヨルさんが俺に近づいてくる。
「え?」
そして両手を壁につき、壁ドンみたいな体勢になる。顔が近い。
「え? え?」
何このシチュエーション!?
「デーモンスレイヤーって、あなたでしょ?」
「ウェっ!?」
なんかバレました。
――――――
あとがき
誤字脱字の改善、文章の質を上げるため本日より、毎日更新から隔日更新へ変更いたします。申し訳ございません。
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