第54話 続く異変


 結局、特に魔物との接触もボス部屋もなく……未知のダンジョンの探索は終わりを告げた。配信のアーカイブは貴重な資料として、迷府にも提供した。

 ただ、手に入れたミスラルの書物はフィオナの解読が終わり次第、直接佐伯さんにも教えて共有しようと思う。


 万が一にも、これを紛失するわけにはいかない。迷府の管理体制に疑いを持つつもりはないが、何があってもおかしくはない。アースシア絡みなら猶更だ。


「……やっぱり、ネットには月並みの情報しかないな」


 家に帰宅後、改めて1999年について調べるも目新しいものはない。後は精々、ノストラダムス関連の眉唾な陰謀論やこじ付けばかりだ。


「フィオナはどう?」


 解読を進めているフィオナは首を横に振る。


「すみません、劣化が激しくて中々……いくらミスラル銀とは言え、アレだけの灼熱の中に放置されていたら持たないでしょう。もしあのまま放置していたら溶けて消えていたかもしれません」


「そうか……」


 現状、得られるものは何もない……か。


「ねえ、ハクア様! 台所に行く約束でしょ?」


 俺の膝の上に乗っているウィンが不満げに見上げてくる。


「ああ、ゴメン。そうだったな」


 道具倉アイテムベイからダンジョンキーを取り出す。せっかくだからたまにはアイテムに頼らず、自炊してみるか……。


「ご飯、ご飯!」


「ちょっと行ってくる」


「はい」


 ダンジョンキーを何もない空間に向かい、鍵を開けるように動作する。するとドア形を模った光の筋が走り、ゆっくりと開いていった。


 そこを潜り抜ければそこはもうダグザの台所。今も誰もたどり着けず、俺の独占状態……プライベートダンジョンになっている。なんか資産を計算しているディーヴァーによれば、数千万規模だとか。


 そりゃ価値不明の全能の木があるしな……


「……ん?」


 ダンジョンに入ると同時、違和感が襲う。


「……何だこれは」


 内部が、荒されていた。料理や食材はあちこちに散らばり、壁にべっとりとこびり付いているのもある。


「ボ、ボクのご飯が……」


 ウィンはショックの余り固まってしまっていた。

 一瞬、此処に棲むボスであるグラトニーの仕業かと思ったが、EXダンジョンのボスはダンジョンキー所有者にのみ従順になる。俺は暴れるなと命令してあるのでそれを破る事はしない。


「もしかして誰か入れた?」


 スマホでチェックするが、ダグザの台所は俺の独占状態と表示される。DD動画にも立ち入りできたアーカイブはない。他のSNSも同様だ。

 じゃあ何で荒らされたんだ……グラトニーがやったとしか思えないが、もしそうなら所有者は安全と言う根底が覆される事になる。他にも同じ事例が出てもよさそうだ。


 適当にニュースサイトやSNSを見ていくと、気になる見出しのニュース記事があった。


『エクストラダンジョンで荒らし行為? 有名ディーヴァーの被害多発!』


 記事を開く。


『先日、イタリアの有名ディーヴァーであるマリオ・ロッシ氏が被害にあった。貴重な素材が盗み出され、ダンジョン内は酷く荒らされていたという。有名ディーヴァーのEXダンジョンが荒らされたとのは、これで8件目だ』


 どうやら一週間ほど前から、連続して起きているらしい。共通しているのはダンジョンキー所有者以外が入れないダンジョンが何者かに荒されている点だ。

 

 ……明らかに事件性があるな。魔物の仕業かと思ったが。


「ハクア様……犯人、やっちゃっていい?」


 目のハイライトが消えたウィンが言う。


「……うん、これはケンカ売られたよな。やるか」


 別に俺は入れる人がいるなら共有するつもりだったし、もし本当に必要なら内部にあるものを譲っても良かった。

 なのにこんな幼稚な荒らし方をするとは……流石に頭にきた。


「迷府に連絡するか……」


 本当に次から次へと……どうなっているんだ。


 *


「あ、ハクア様のダンジョンがテレビに出てますね」


 夕食を食べていると、速報で俺のダンジョンが荒らされたと出てきた。別にマスコミには何も伝えていないのに、どこから聞きつけてくるんだか。


「俺で9人目だってさ。めんどくさい……」


「なんか立て続けにあれこれ起きてますよね……大魔王や悪魔、犯罪組織。ハクア様の功績を騙る不届き者が一番、許せませんが」


「……まあ、それでも目的は大魔王最優先で」


 ムカつくけど、俺たちにはやるべき事がある。一時の感情でその優先順位を変えるわけにはいかない。

 が、かと言ってこのまま見逃すつもりもない。


「ハクア様、何か証拠掴めた?」


 迷府にも伝えたが、自分なりに現場を調査した。魔法を使えば目に見えない証拠――足跡や指紋、衣服の小さな繊維を割り出す事が出来る。他にも盗賊やレンジャーのような職を極めた際に得たスキルもある。


 それらを駆使した結果、俺のものではない足跡は何もない空間から突然、現れている事を掴んだ。つまり何らかの手段で誰かが侵入しているのは確定と見ていい。ダンジョンキー以外の、何かで。


「……相手も多分、プロだな。指紋や残留物はほぼなかった」


 やってる事は幼稚だが、手際が良すぎる。

 三輪のようなチンピラではない。


「だけど、関係ない。喧嘩を売られたら買うだけだ」

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

次の更新予定

毎日 12:00 予定は変更される可能性があります

二度目の冒険は現代ダンジョンで!  四宮銅次郎 @nep_dou

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画