第52話 爆炎都市アドム3
未踏破のダンジョンなので地図や道標の類はない。ただ強い熱源を目指して進んでいる。恐らく、そこが深部への入り口になる筈だ。
あまりにも強烈過ぎる熱の影響なのか、炎に棲息する魔物ですらあまり見かけない。煉獄ワームも先ほどの個体たち以降、一切出てこなかった。
「本当にこんな世界に前哨基地なんて、作れるのでしょうか。調べた私が言うのもアレですが……」
小声で小さくフィオナは言う。
「分からない。ただ、迷府のドローンが一度捉えた街の遠景が気になる。こんな地獄の世界で都市なんて……信じられないけどな」
――――
『言っちゃ悪いけど、代り映えがないな。なんか、こうもっと未知の発見があるかと』
『熱で全部溶けたんじゃね? たまになんかの残骸が浮かんでるし』
『多分太陽と一緒。炭素は約4800℃、鉄は約2800℃まで上がると気体になるため、此処も何もないんだと思う』
『博識ニキ助かる』
『うん、改めてこの二人ヤバすぎて草』
『4800度で活動する人間って何なんだろう……』
――――
「活動できるのは魔法ありきなので、皆さんも極めればできますよー。でも失敗すると危険なので、蠟燭の火を素手で触れるようになる練習からするのが良いかもしれませんね。それでもミスると火傷しますが、一瞬で蒸発するよりは遥かにマシです』
――――
『大丈夫、真似したいとは思わんwww』
『それなw』
『失敗=死はシビアすぎんだろ』
『まあ、魔物と命張って戦うのがディーヴァーだから……』
――――
魔物が出ないので適当にリスナーさんと雑談を続ける。この前もこんな感じになった気がするが、まあ楽しんでくれるなら良いかなって。
――――
『そう言えば翠帝のオッサンやダブルフェイスとは顔合わせしたの?』
――――
「しましたよ。でもヨルさんはまだ復帰できてないみたいです」
――――
『まああの怪我だもんな……引退とかにならなければ良いが』
『デモスレ事件、凄かったわ。マジで何者なんだろう』
『この前名乗り出てたぞ』
『マ? 知らなかった』
『湊鼠トモだろ? ちょっと信じられないけど』
『あの子もSランク昇格だってよ。大盤振る舞いだな』
――――
……俺がデモスレだとは口が裂けても言えない。
あの後、佐伯さんから連絡が来て、湊鼠トモも話し合いと実戦を見てSランク昇格が決まったと教えられた。
実戦を見て、との部分が気になる。つまり迷府の職員を納得させるだけの実力を見せたのだろう。
もちろん彼女はAランクのディーヴァーなので十分な強さを持っている。ただ、それでもSランクとAランクには確かな隔たりがある。
Aランクがプロフェッショナルなら、Sランクは人間の限界を超えたエキスパートだ。アースシアの冒険者と比較しても最高ランクのメンツと遜色ない。
俺もトモの配信は参考に見ている。確かに強く、Sランクでも通用しそうに見えたが、同レベルの動きが出来るディーヴァーは他にもいる。彼女だけが抜擢されるなら、確かに何かしらの証拠を見せたんだろう。
――――
『俺、トモちゃんも推してるけど……正直、Sランクになれるとは思えないんだよな。強いけど、翠帝のオッサンやダブルフェイスに勝てるとは思えない』
『虚偽があるならシャレにならんぞ』
『あの子若干、承認欲求が強いのよ。でも後先考えずにやる子じゃないんだけど』
『でも最近動き良くなってたよな。レベル上げしたって言ってたし、自力で成長したんじゃない?』
『あんなに短期間で変わるか? ちょっと成長の幅が大きすぎる気がする』
――――
……成長の幅が大きい? 短期間で変わる?
一瞬、三輪の姿が過る。
『ハハハァ! これを見ても同じ事がほざけるか、クソガキ!!』
あの常軌を逸した急成長と異様な姿。
『ええ。忌々しい事に、既に裏で出回りつつあります。ナメられたものですよ』
そして佐伯さんの言葉も。
……まさか。
バカバカしい。アウトローに生きる連中ならまだしも、トモは表の配信者だ。それも勤勉な学生。闇に落ちる要素はない。気にし過ぎだ。
「ハク様」
思考の海に沈みかけていた俺にフィオナが呼びかける。
ハッとすると、だいぶ奥まで来ていたようだ。前方には溶岩が流れ落ちていく空洞がある。
「この先から温度が跳ね上がっています。そしてあれを――」
「……ビンゴだな」
激しく燃え盛る炎の中、陽炎のように揺らめいて見える都市群の遠景。
爆炎都市アドムの名を得るに至った映像が、目の前にある。
「では皆さん、あそこに行きたいと思います」
さて、鬼が出るか蛇が出るか……。
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