第51話 爆炎都市アドム 2


 赤く濁った世界が続く。空気さえも灼熱の炎となり、耐火と耐熱の魔法でも完全に熱量をシャットアウトする事は出来ない。地面はほぼ溶岩か、ドロドロに溶けたよくわからない物質がたまに浮かんでいる。


 歩くたびに底なし沼のように足が沈むので、浮遊の魔法も必須。いくら異能を得たディーヴァーでもこれは限界を余裕で超えている環境だ。


「暑いでずぅ……こんなの、無理ですよぅ。帰りましょう……」


 滝のような汗を流すフィオナ。持参したペットボトルの水(耐火、耐熱で防御済み)をがぶ飲みしている。


「ハク様、よく平気ですね……」


「多分、魔王の肉体のお陰だと思う」


 確かに凄まじい熱を感じるし、暑い。でも汗は流れず、その暑さが苦痛になる事もない。これは勇者だけでは到達できなかった領域だ。

 改めてこの肉体の人外っぷりを自覚するな……。


「それにしてもここがAランクダンジョン? 何の間違いですか? しかも都市って……炎と溶岩だけの空洞じゃないですか!」


「叫ぶと余計に暑くなるぞ。まあ、本当に炎と溶岩以外何もないけど」


 爆炎都市アドム。名前の由来は、最大の深みまで潜ったドローンが灼熱の世界の遠景に都市のような輪郭を捉えたからだ。

 しかしその時点での温度は九千度。ダンジョンの素材で作られた耐火ドローンでも耐え切れず、その映像を伝送後燃え尽きている。


「こんな極限の環境でも魔物がいるみたいだよ。そいつらは他のダンジョンの溶岩や火山系のダンジョンでも出るから、それを基準に暫定としてAランクにしてるんだってさ」


 俺が説明していると、前方の溶岩が波打つ。表面を破るように飛び出してきたのは、赤々と輝く巨大な芋虫のようなモンスターだ。それが三匹。


――――


『煉獄ワームだ、いきなりコイツが出てくるのかよここ』

『生半可な水や氷の魔法なら余裕で無効化にしてくるバケモン』

『何度こいつに焼かれた事か……』

『さあ、どうやって倒すのか楽しみやな』


――――


「ああ、もう。この暑いのに暑っ苦しいのが出て来ましたね! 最速で倒しますよ!」


「そうだな」


 聖槍を構えるフィオナ。俺は両手に水属性の魔法を生み出す。


「――潤びる雨アクアダム


 その手を上に掲げ、振り翳す。黒雲が生み出され、地獄の世界には存在しない雨を降らせ始める。


――――


『炎の中でこのレベルの水属性魔法を!?』

『当たり前のように異常な事をやってのける我らのテイマー』

『そういや今日はウィンちゃんがいない……』

『こんな環境で使役できるわけないだろ』

『てか、マグマに水をぶっかけたら――』


――――


蒸水爆フリアティック・エクスプロージョン!」


 マグマと地下水が接触する事で起きる破局的な爆破――水蒸気爆発。本来なら炎属性と水属性の力関係を均等にしてぶつける事で使える合体魔法だが、ここなら大量の水を出すだけで良い。


 猛烈な爆圧が広がり、煉獄ワームは木っ端微塵に吹き飛ぶ。マグマと火炎が沸騰した水のように荒れ狂い、ダンジョン全体が揺れ動くような衝撃が生じた。


「あ、少しだけ涼しくなりました……」


 うーん、かなり加減して撃ったんだが……影響が少し激しいな。やっぱり大規模な魔法は駄目か……見栄えが良いから、一度くらいはお披露目したかったんだけど。


――――


『水蒸気爆発ワロタ』

『や り す ぎ』

『なんか揺れたんだけど、もしかしてハクちゃんのせい?』

『ガチで地震速報出てて草』

『震度1www』

『震源の位置的に爆炎都市やんけ』

『火山系のダンジョンで絶対にやるなよ!? やるなよ!?』

『てか、お姉様……汗と水で大変な事に……』

『あ』

『黒か』

『ここ、切り抜きお願いします』

『草』

『その体型で聖女は無理だよな』

『それな』

『お前ら……お姉様の事なんだと思ってんだ?』

『変態聖女様』

『性女でしょ、言わせんな恥ずかしい』


――――


 散々な言われようだ。でも事実だし、しょうがない。


「フィーナ、とりあえず着替え」


「え?」


「BANされるから」


「え、え?」


 俺は自分の胸元を指差す。


「? ああ、別に良いではありませんか。むしろ見てください、これは勝負下着――」


「アンタはいい加減、少し自重しようか!?」


 俺は問答無用でフィオナをカメラから映らないようにした。何故かコメントはブーイングの嵐になった。


 俺の視聴者、変態しかいねぇな!





―――

あとがき


最近忙しくて執筆するので精一杯なため、コメントを見れていませんが、誤字修正などは後ほど行います。

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