第50話 爆炎都市アドム


「確かに私がリストアップしたダンジョンですが、いきなりここからですか!?」


「うん。近場だし、踏破者もゼロのダンジョンだから視聴者さんも盛り上がってくれるかなって」


「大魔王の調査優先で良いじゃないですか! この環境ではウィンちゃんも出せないですよ!」


「しょうがない。後でダグザの台所でご馳走振舞うって事で手打ちにして貰った。それに配信者として活動する以上、視聴者さんもないがしろには出来ない」


「私は! 私も頑張るんですから、何かご褒美くださいよ!」


「……希望は?」


「えっと……悩みますが、ハクア様を一日抱き枕に出来る権利を」


「イヤだ」


「では! ハクア様の御髪をクンカクンカする権利――」


「駄目だ」


「じゃあ一緒にお風呂に入る――」


「却下」


「なんで!? 希望を言ってるのに何でダメなんですか!?」


「もっとまともな事を言えよ!!」


「これが私にとってのまともであり、普通なんです!!」


「キメ顔で言うセリフじゃないから!」


「うう……ハクア様にどうして私の愛が伝わらないのですか……フィオナは悲しいです」


「泣いたって駄目なモンは駄目! 配信が終わるまでにまともな要望を考えてくれ……」


「……はい」


 俺はドローンを取り出す。

 三、二、一――スタート。


「皆さんこんにちは! ハクです。今日もよろしくお願いします」


――――


『うおおおお待ち望んでたぞ!』

『こん』

『こんにちは!』

『こん』

『お、今日はお姉様もいるのか』

『あつぶさ町事件、見てたよ! マジで凄いわ』

『事件の報道からファンになりました』

『今日の無双プレイはどんなになるか……楽しみ』

『Sランク昇格おめでとう』


――――


 開始と同時に視聴者数は鰻登り。早くも5000人を超える。特に何も言ってないんだが、あつぶさ町で厄災を倒すシーンが報道されたようでチャンネル登録者がまた凄まじい勢いで増えていった。


 更にSランク昇格と言うブーストもかかり、ついに大台の一千万人に乗る。翠帝、ダブルフェイス、ヨルに次ぐ登録者数だ。フィオナの方も伸びているようだが、活動が少なかったため伸び方は緩やか。


 それでも今回の配信で目立てば、起爆して急増する可能性も十分にある。


「はい、殆どの人は知っているかと思いますが、改めて自分の口でもお伝えしようと思います。今回、私とフィーナはSランクに特別に昇格しました! 今後はそのランクに恥じない戦い方、配信を出来たらって思っています! 今後もよろしくお願いします!」


「皆さん、ハク様のご活躍を是非とも見て行ってください! 私はオマケです、それよりもハク様の勇姿を見てくださいね!」


 俺たちはドローンに向かって一礼した。


――――


『¥10,000 おめでとうございます!』

『¥9000 祝い金』

『¥12,000 やっと相応しいランクになったね』

『日本のSランクはみんな礼儀正しくて好感度MAXヨ』

『¥50,000 これでうまいものを食べてくれ』

『いつも最高の配信をしてくれて、感謝するのはこっちやで』

『お姉様もおめでとう』


――――


 Sランク……全てのディーヴァーが憧れる最高の証。今まで以上に気を引き締めて行かないとな。見てくれるみんなを失望させないためにも。


「今日はSランク昇格を記念して、少し難しめのダンジョンに来てみました。こちらです!」


 あえてドローンに背景が映らないよう、魔法で細工していたがそれを外す。カメラは赤々と燃え滾る世界を映し出した。


――――


『は、え? 何ここ!?』

『……炎?』

『オイオイオイオイオイ、いきなりスゲーなwwww』

『な? 俺の言った通りやろ。絶対普通じゃないダンジョンを選ぶってw』

『あ~Aランク最難関の一つにして未踏破ダンジョンか、ここ……』

『爆炎都市アドムですね。空間内は灼熱の業火で満たされた地獄』

『ここって確か、太陽と同レベルの熱さとか言われてたよな……?』

『ドラゴンの炎に耐えられる耐火装備のディーヴァーが数秒で離脱した曰く付き』

『通りでお姉様汗だくな訳だw』

『ハクちゃん汗かいてなくね……?』

『この熱に耐えられるドローンも地味にスゲェw』

『こんな所を少し難しめで済ますヤバさよwwww』

『何で巫女服のままなの? 何で熱に耐えられるの? 何でぇえええ!?』

『初見さんか? こういう子だぞ、お姉様も含めて』

『アドムの光景がこんな長時間映されるとか、世界初だぞwwwまーたヤベェ配信になるなこれwww』

『ダンジョン研究者、狂喜乱舞しそう』


――――


 ……フィオナがリストアップしたダンジョンの一つ、爆炎都市アドム。その熱は表層で数千度。深部はドローンすらたどり着けないため不明。


 つまり全く人気がないダンジョンだ。デーモン共が暗躍するにはこれ以上はない適所だろう。あいつらは元々、灼熱地獄の魔界出身だからこの程度の熱など、故郷に比べれば涼風同然になる、


「とりあえず、今回も最深部まで行けたらなって思ってます。では、進んでいこうと思います!」


 視聴者さん的にも未踏破、最難関のダンジョンの攻略が見れて喜んでくれるはずだ。

 そして俺自身データベースにも情報が無いダンジョン……どんなものか、少しワクワクしている。

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