第47話 Sランクディーヴァー


「何ですかこのアマ! 寄りにもよって、ハ、ハクア様の行いを横取りなどと……!」


「フィオナ、落ち着け」


「ヒィイイイ……」


 般若の如く憤慨するフィオナにウィンは恐れおののき、物陰へ隠れてしまう。


「良いでしょう、今から乗り込んで血祭りに……」


「落ち着けぇ!」


 本当にやりかねないから困る。俺は何とか宥めるが、こうなると手が付けられなくなってしまう。


「止めないでください! この愚か者には神の裁きを与えます!」


「俺は気にしてないから! 許し、見逃す事も勇者の証だろ!? な!?」


「……流石ハクア様。あんな愚者にも慈悲を与えるんですね。分かりました、そこまで言うのなら私も刃を納めましょう」


 た、助かった……。あのモードに入ったフィオナはマジで止められんからな。


「しかし、この女は何者ですか? 図々しいにも程があります」


 テレビに映る一人の少女。薄い青緑色の長髪を伸ばし、前髪は顎にまで届くほど長い。服装もあまりこだわっていないのか、上着はジャージ、下はハーフパンツのスタイル。

 記者からの質問に答えているが、ドモりまくってる上に小声なので字幕必須だ。


「検索したらすぐに出たよ。湊鼠トモ、Aランクディーヴァー。登録者は……やけに少ないな」


 Aランクともなれば屈指の実力者になる。しかし彼女の登録者数は9000人にギリギリ届いている程度。明らかに人気と実力が釣り合っていなかった。

 まあ、話題のデーモンスレイヤーと名乗り出たので爆増するだろうが。


「って事は人気取りに利用したと!? ぐぬぬぬぬ、やはりこの聖槍の錆にした方が良さそうですね……」


「はい、ストップストップ。ただの人気取りなら遠からず自滅すると思うよ」


「それは、そうでしょうが……」


 俺はトモの配信アーカイブを見る。二丁拳銃で格闘戦を行う異色の戦術の使い手。どう見てもデーモンスレイヤーの戦い方とは似ても似つかないが、欺瞞の魔法を強めにかけ過ぎてその辺の違和感もなくなってしまったんだろう。


 つまりこちらの偽装が無ければ、即嘘を看破される事になる。何とも……浅はかな成りすましだ。大魔王やガロウズ・ゲイプの脅威とは比較にならない。ほっといて良いな、これは。


「この顔を見てると殺意が抑えきれません! チャンネルを変えましょう!」


「うん、良いよ……」


 リモコンを引っ掴んだフィオナがチャンネルを変える瞬間、インタビューに答えるトモの字幕が出てくる。


 ――私、こんな性格ですが……どうしても、変わりたかったんです! 守りたい、場所があるから……!


 その言葉だけは、やけに胸の中に残った。


 *


 ……翌日。

 ダンジョンへはまだ潜らない。Sランク昇格にあたり、やるべき事があるからだ。


 それは……。


「君たちが、噂のハクさんとフィーナさんかい? 一度、会ってみたかったんだ」


 都内、エクセリオンタワーの最上階。今度はフィオナを連れてやってきた俺たちの前に、赤と青のメッシュが入った好青年がにこやかに握手を求めてきた。


 Sランクディーヴァー、ダブルフェイス。日本が誇るトップディーヴァーの一人。


「ダブルフェイスだ。よろしく頼むよ。昇格おめでとう」


「はい、こちらこそお願いします」


「お見知りおきを」


 高身長、高収入、イケメンと特盛セットな人物。そして恵まれた環境に驕らず、常にファン目線で立ち続けた事で、ディーヴァーになってからもアイドル時代のファンがついて来ている。


「どーも。自分が翠帝です。良かったら、チャンネル登録お願いしますね」


 続けてもう一人の大物。日本最強のSランクディーヴァー、翠帝。見た目はぼさぼさの黒髪、無精ひげ生やしたスーツ姿のオッサンにしか見えないが……実力は本物。

 アラサーでデビューし、瞬く間に頂点へと登り詰めたその活躍ぶりは話題を呼び、ダンジョンに興味がない人でも名前は聞いた事があるくらいの認知度だ。


「あら、同じディーヴァーに宣伝するなんて、強かですわね」


「ええ。自分、上昇志向なんで」


「でしたら、ハク様のチャンネルも是非登録してください」


「もう既に登録してますよ。彼女、凄いもんです。驚きましたわ」


 笑顔のフィオナと握手する翠帝。フィオナも中々攻めた発言をするが、それをアッサリ返す辺り、場数を踏んできているのが分かる。


「俺……私の事、登録してくれていたんですね」


「ベリアルリッチさんボコしたくらいに登録させてもらいました。いや、あの戦闘お見事ですわ」


「ありがとうございます」


「自分も負けてられないと痛感して、ダブルフェイスさんと海外遠征企画したんですよ。そのせいで、あつぶさ町の危機に遅れてしまって。本当、すんません」


「その件については、仕方が無いでしょう」


 申し訳なさそうに頭を下げる翠帝に佐伯さんが告げる。


「私どもも三輪の動きを読めずに、彼を暴走させてしまいましたからね。ですが、得られた事もありました」


 佐伯さんはプロジェクターを操作し、スクリーンに何かの資料を映し出す。


「――今回は顔合わせを兼ねて、作戦会議も行おうと思って皆さんをお呼びしたのです」


 

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