第48話 作戦会議


「作戦会議ですか。入院中のヨルさん以外の全員を呼び集める辺り、大方ガロウズ・ゲイプ絡みかと思いますが」


「はい。彼らの枝葉が想像以上に日本へ伸びていた事が判明しましてね」


 スクリーンにドローンが映し出される。三輪が使っていた機種だった。


「三輪のドローンを解析しました。彼はDD動画から排除された後、ダークウェブの配信サイトで収益を稼いでいたようです。サイト利用者と管理者の逮捕状は既に出されましたが……、こんな末端のサイトなどトカゲの尻尾切りでしょう」


 また画像が切り替わる。今度は空っぽのシリンジと、封が切られたパッケージ、注射器だ。器具はどれも使用済みと思われる。


「あつぶさ町事件で三輪が自身に使った禁止アイテムです。過剰な肉体強化、肉体改造を引き起こし、一時的に数段先のレベルにまで上昇させます。しかし使用後はダウナー系薬物に似た幻覚作用に苛まれます」


「こらまた、けったいなモンが出回りましたな」


 翠帝さんが顔を顰めた。


「なるほど。これの出所が……ガロウズ・ゲイプと言う訳かい」


 そして納得がいったように頷くダブルフェイスさん。


「ええ。忌々しい事に、既に裏で出回りつつあります。ナメられたものですよ」


「……これは自分の予想ですがね。連中、主な稼ぎ場である中南米や中東では結構、手酷く現地のSランクディーヴァーにやられてるんですわ。主要な工場やアジトも相当数焼かれたとか。それで一時的に活動範囲を縮小させ、今まで手薄だった日本に本腰入れてきたと思われます」


「そんな下らない事のためにあつぶさ町が大変な目に……」


 ふざけた奴らだ。こっちも要注意組織として警戒はしておこう。迷府を信用してない訳じゃないが、そう易々と対処できる組織ではないだろう。


「敵性存在はガロウズ・ゲイプだけではありません。懸念事項はもう一つあります」


 次にスクリーンに映し出されたのは、レッサーデーモンだった。


「先日、新宿のBランクダンジョンに出没した未知の魔物です。自らを〝悪魔〟と呼称し、百瀬ヨルさん以下Aランクディーヴァーのパーティを壊滅させました。何が目的なのかは分かりませんが、私は犯罪組織以上の脅威と見ています」


「………」


 レッサーデーモンの事は伝えていない。教えようにも、そうなるとアースシアの説明が必須になる。いくらダンジョンが溢れた世界とは言え、異世界に召喚されましたと告げるのは無理だろう。


「こっちも中々、エラい騒ぎになってましたな。デーモンスレイヤーさん、でしたっけ? あの正体不明のディーヴァーのお陰で事なきを得ましたが……自分もちょっときついですわ、アレの相手は」


 その本人が目の前にいるなんて夢にも思わないだろうなぁ……。


「でも昨日のニュースでは名乗り出てたよね。湊鼠トモ……さんだっけ? 俺も調べてみたけど、彼女、トークが苦手なせいか配信はあまり人気ないみたいだ」


「彼女については私どもで接触を図っています。状況次第では彼女もS昇格を視野に入れてます」


「……あのような詐欺師をSランクに? 正気ではありませんわ」


「フィオナ」


 小声で毒づくフィオナを諫める。今は異議を言っても仕方ない。


「ハハ、大盤振る舞いじゃないですか。まだ未公開やけど、全ランク対象の選抜試験もやる予定なんですよね。佐伯さん……ぶっちゃけ聞きますが、そんなに切迫しとるんですか?」


 翠帝さんはジッと佐伯さんの顔を見る。


「――隠し事はしません。その通りです」


 少しの沈黙の後、口を開く。


「……ガロウズ・ゲイプと未知の魔物。この二つが同時に事を起こした場合、俺と翠帝君だけでは凌ぎ切れないだろうね。特にヨルちゃんを倒したあいつは危険だ。もし他にも同一個体がいるのなら……考えたくもないね」


「はい。ですので、今後の作戦をお伝えしようと」


 両手を顔の前で組み、佐伯さんは続ける。


「現状、一先ずの措置として本部であるエクセリオンタワーには、シフト制でSランクディーヴァーが常駐する仕組みを一時的に作ります。我がタワーには各地のダンジョンに瞬時に繋がる特製の転移方陣がありますので、有事の際はそこから緊急出動して頂きます」


 ……そう言う事か。あつぶさ町の時は翠帝さんもダブルフェイスさんも不在と言う隙を作ってしまった。だから常に手元にSランクを置けるようにしたい、と。

 当然、登板中はタワーに寝泊まりするため色々な負担もある。だから積極的に下位ランクから有望株を発掘し、可能ならSランクに抜擢して負担軽減の狙いもある訳か。


「やれやれ、ファンの子たちに気軽に会えなくなるのは寂しいけど……これもSランクの務めだね」


「自分は構いませんよ。むしろタワーで寝泊まりとかめっちゃテンション上がりますわ。なので自分からシフトに入れてください」


「私も大丈夫です」


「ハク様が構わないのなら、問題ありません」


 受け身な作戦だが、これが迷府が出来る限界の対応策だ。その前に何とか解決してしまいたいな。特にレッサーデーモンの方は。


「では、皆さん。よろしくお願い致します」

 

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