第46話 情報交換


「え、Sランクになったんですか!?」


「その方が色々と自由に動けると思ってね」


 夕食を食べながらまずは俺から話を始める。


「確か、この世界で一番凄い階級でしたっけ? でもハクア様なら当然でしょう。むしろEランクなんて不釣り合いにも程があります!」


「俺としては、一つずつ上げて行きたかっただけど……」


 そっちの方が楽しいし。大魔王と言う懸念材料が無ければ、と悔やまずにはいられない。


「そんな訳で、フィオナもSランクだぞ」


「え? 私もなって良いんですか?」


「一緒に行動するためには必要だしな」


 佐伯さんにパートナーがいる事を伝えたら、「じゃあその方も上げちゃいましょうか」ってな感じで簡単に決まった。俺と肩を並べる相方なら強さも問題ない、って事らしい。


 実際フィオナも文句なしの強さだ。特にアンデッド系、ゴースト系はアースシア最強。あの赤ん坊の厄災もフィオナならもっと早く倒せる。


「Sランクには責務も与えられるけど、アースシアで冒険者やってた頃と変わんないよ。手に負えない事態が起きた時、戦力のために召集されるとかそんな感じだ」


「緊急クエストですね。懐かしいです、ドラゴンの炎で焼かれそうになったり、ゴーレムの大群に囲まれたり……」


「……思い出したくない記憶だ」


 あの頃は今よりずっと弱かったが……それでも人類の中ではトップレベルだった。思い出す度に魔王軍のヤバさを再認識してしまうな。

 果たして、ガロウズ・ゲイプや大魔王の軍勢はどれほどか……


「Sランクになるのでしたら、私からのご報告もピッタリなタイミングになりますね」


「何か分かったのか?」


「はい。格下のレッサーデーモンなので、重要な情報は得られませんでしたが……どうも、悪魔はダンジョンを前哨基地に作り替えようとしていたようです」


「……前哨基地。それは攻撃の足掛かりにするためか?」


 確かに未知のアイテムや魔物が多数いるダンジョンは、連中からすれば垂涎の対象になる。物資も人員も現地調達出来てしまうのだから。


「ええ。後はその計画の候補地、もしくは現在着工中のダンジョンもリストアップしました。チキュウの文明は凄いですね。ボタン一つでこんな資料が作れてしまうなんて」


 フィオナはテーブルに印刷された用紙を置く。


「これ、フィオナが?」


「はい。ハクア様のお部屋にあるピーシーを使って覚えました。簡単ですね」


「順応性高いな!」


 思えば旅をしてた頃からパーティの軍資金や書類関係も、全て引き受けてくれてたな。この事務能力の高さも俺にはないものだから助かっている。


「……殆どがAランクだな。後はSランクのダンジョンもあるのか」


 リストアップされた内容は、ほぼAランクのダンジョン。それも日本各地に散らばっている。候補予定地にはSランクダンジョンの名前もあった。


「何を企んでいるのかは分かりませんが、早急に手を打つべきかと。元々このダンジョン自体が大魔王の産物である可能性もあります」


「……前哨基地を作って、何をすると思う? もし俺だったら当然、攻撃のための準備って考えるけど」


 つまり、地球侵略。Sランクディーヴァーや軍隊がいる以上、容易にやられはしないだろうが、だからこその下準備ってのもある。


「私も同じ考えですが、少し追加します」


「と言うと?」


「アースシアから魔王軍の残党を受け入れるための、足掛かり的な側面もあるかと」


「まだいるのか?」


「残念ながら……各国で掃討作戦を続けていますが、一部の残党は方々の僻地に潜伏しています。小規模なグループですが、集まればかなりの数になるでしょうね」


「そいつらを呼び出して、戦力化したら厄介だな」


 既に組織化されている魔物の兵団だ。練度の高さは野良の魔物とは比較にならない。

 加えてレッサーデーモンなどの悪魔族もいる。下手したら全盛期の魔王軍に匹敵する戦力になりかねないな。やはり大魔王は最優先事項だ。


「ただ、アースシアと地球を跨ぐゲートは魔王軍側にはないのが救いですね。ハクア様がチキュウ人であると知ってからは、魔王はチキュウにも攻め込もうと躍起になっていましたけど」


「その研究が大魔王とやらに渡ってなければ良いが……」


「怪しい兆候に注意するよう、後ほど王国へ伝えようと思います」


「頼む」


 何にしてもまずは、リストアップされたダンジョンを片っ端から潰していこう。もしかしたら新しい情報を入手できるかも。


「まずは近場のダンジョンから――」


 俺が調べていると、ニュース番組の司会者がとんでもない事を言ってきた。


『先日、Sランクディーヴァーである百瀬ヨルさんを救出した正体不明のディーヴァーに関する続報です! なんと、その本人が見つかりました!』


「は?」


「え?」


 俺とフィオナは顔を見合わせる。当然名乗り出ていない。世間では俺がつい口走ったデーモンスレイヤーですっかり定着してしまったが……


『こちらが奇跡の救世主、Aランクディーヴァーの湊鼠みなとねずみトモさんです!』


 テレビに現れたのは、当然ながら俺の知らない女の子であった。



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