第45話


「犯罪組織……」


 実に聞きたくないワードだ。でもこれが現実……。三輪のようなチンピラはまだマシな方なのだろう。


「スキルや魔法を全ての人々が正しく扱う事は出来ません。嘆かわしい事ですがね。ガロウズ・ゲイプは数あるダンジョン系犯罪組織の中でも最大派閥となります」


 構成員の数は推定で十万人。世界各地に支部を持ち、活動内容はダンジョン資源の強奪を始め、魔法やスキルを用いた強盗・脅迫、他の組織との抗争、麻薬、違法なアイテムの売買、その他諸々。


 あくどい事は全部やってますと言わんばかりの狼藉っぷりだ。


「彼らは最近、勢力拡大を掲げており配信者から脱落したディーヴァーを積極的にスカウトしている模様です。三輪のような三下でもその対象になるようですね。まあ、捨て駒程度の扱いでしょうが」


「彼らの拠点は何処なんですか?」


「分かりません。国々を渡り歩き、捜査機関の手入れから逃れているようです。これはまだ不確定の情報ですが……」


 佐伯さんはバサリ、と書類をテーブルに投げ出す。


「今の彼らの狙いは日本のダンジョンにあるとか。ナメられたものです」


「俺をSランクに上げるのも、そいつらの相手をするために?」


「まさか。Sランクディーヴァーにはいくつかの責務も生じますが、犯罪者と戦わせるような事はしませんよ。それは我々の役目です」


「そうですか。てっきり、


「………」


 佐伯さんの表情が僅かに引き攣る。しかしすぐに取り繕うように咳払いをした。


「あなたの強さは把握しておりますが、向こうも手練れです。ディーヴァーはもちろん、傭兵上がりやマフィア・ギャングを追われた者を雇い入れている本物の戦闘集団です。間違ってもケンカは売らないようにしてくださいよ」


 異世界でそんな奴らより遥かにヤバい魔王軍を壊滅させました、と言いかけたが流石に我慢する。

 まあ慢心するのは良くないからな。後でじっくり調べよう。


「……それで、どうでしょうか。受けて貰えますか?」


 俺は佐伯さんの目を見ながら返事を口にした。


 *


「ただいま」


 三日ぶりの自宅のドアを開ける。


「ハクア様ァ!!」


 ドタドタと走ってきたフィオナの抱擁、もとい突進を躱した。


「うう、久しぶりなのに冷たいです……」


「久しぶりも何も三日しか経ってない。あと、初日の配信で随分暴走してくれたよな?」


 ――忘れてないぞ?

 俺はジトォっと睨む。自覚してるのか聖女様は目を泳がせながら顔を反らした。


「そ、それは……あ! でも私、しっかり手掛かりは掴んだんですよ! あの薄汚い悪魔を調べてって――、ハクア様! 何ですかその身体!? 何を取り込んだんです!? ものすごい数の魂が宿ってますよ!」


「え? ああ」


 あの厄災から奪い取った魂の事か。分かるんだな。


「ちょいと、助けるために身体に移した」


「移したって……私が配信も見ずに調べてる間に何を?」


 あ、テレビも見てないのか。じゃあ驚くよな。


「かいつまんで言うと、なんかよく分からん妖怪が復活したから、そいつしばき倒して食われた魂を浄化するために取り込んだって感じ?」


「な、また私が見てない時に無茶をしたんじゃないですよね? ね?」


「顔が近い近い! 普通に問題なく倒しただけだから!」


「……それならいいですが。その魂、ちゃんと全て浄化できるんです?」


「家に帰る途中で何人か離れて行ったぞ。ほっとけば数日でいなくなると思う」


「普通、迷える魂の救済には大掛かりな儀式がいるのですが……流石ですね。その身に宿す聖剣のお力と、それを操るハクア様があってこその奇跡です」


 今も所持する多くの武器、道具は道具倉アイテムベイに格納されているが、聖剣だけは俺の魂の中と言う特殊な場所に保管されている。


 魔王の肉体に移植されてもその力は健在で、今も抜き放てばその輝きだけであらゆる悪魔が消し飛ぶ。しかし、あまりにも力が強すぎるのでダンジョン配信で扱う予定は無い。他のアースシア産のアイテムにも言えるが、聖剣は特に取り扱い注意だ。


「ウィン、お疲れ」


 居間に入り、久々にウィンを外に出す。


「やっと出られた……僕の出番無さ過ぎて、忘れちゃったかと思ったよ」


「ゴメンなぁ。後で美味しい物沢山出すからさ」


「うん! でもそれよりも、ハクア様! 今度は悪の組織と戦う場合もあるんでしょ? 悪い人間、僕がぶっ飛ばすからね! 悪即斬、悪即斬!」


 触手のように伸ばした手(?)でシャドウボクシングするウィン。


「悪の組織? あら、そのような不届き者は地球にもいらっしゃるの?」


「そうらしい」


「まあ! では殲滅しに行きます?」


 フィオナは得物の聖槍を構える。許可出したら今すぐにでも血祭りに上げそうな勢いだ。


「俺もそうしたいけど、危ないから止められたよ。相手の事を知らずに行くのは危険だしな」


「それもそうですわね。調査の方は私にお任せを」


「だな。でも今は積もる話がお互いにありそうだから、夕食がてら話し合いをしたいんだけど良いかな?」


「はい、もちろんです」


 大魔王、悪魔の目的、Sランクディーヴァー昇格、犯罪組織……なんだか日に日に、対応しなきゃいけない事柄が増えている気がする。


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