第44話 最高の証


 「俺を……Sランクディーヴァーに、ですか?」


「ええ。悪い話ではないと思うますが」


「……一応、理由を」


 まあ割と遠慮なく力を奮っていた訳ではあるが。……そういう飛び級的な制度があるとは知らなかったけど。少なくとも調べた時には出てこなかった。


「ここ最近、我が国の安全を揺るがすレベルの事件が立て続けに起きています。Sランクディーヴァーの百瀬ヨルさんを追い詰める程の強敵、そして今回の祠の厄災。看過できそうにありません。まあ後者は、封印を解いたおバカさんのせいでもありますが」


「だから特例として、迎え入れたいという訳ですね」


「ええ。理解が早くて助かります」


「まだYesと答えるつもりはないですが」


 Sランク……言うまでもなく、このランクを与えられるのは一握りのディーヴァーたちを更ににかけ、選び抜かれた精鋭の中の精鋭だけになる。ディーヴァーたちにとっては指標の一つであり、言うまでもなく最高の名誉、証だ。


 現在、日本にいるSランクディーヴァーは前に助けたテイマーの百瀬ヨル、日本一有名なアラサーディーヴァー・翠帝、元大人気アイドルグループのダブルフェイスの三名。


 ワールドワイドで見るなら最も話題なのはアメリカのミスターDだろう。同じSランクでも翠帝を凌駕する資産と実力を持っていた。

 他にも欧州勢や中国、ロシアと言った国々もそれぞれSランクのディーヴァーを抱えている。


「先の事件だけではありません。ハッキリ言って、我が国はダンジョンの分野でも他国に後れを取っています。これ以上、世界と差を付けられるのは憂慮すべき事態なのですよ」


 そして常について回るのが政治的な利権。ディーヴァーも例外はなく、政府お抱えで育成している国もある程だ。


「ダンジョンの資源は膨大にして未知。力なき小国が大国に。大国が超大国になり得る。ダンジョンは、亡国になりつつある日本を救う最後のチャンスなのですよ」


「………」


 政治利用されるのは別にいい。今に始まった事じゃない。肥え太った権力者のオッサン共も役立つ時はある。

 それよりも――。


「反発とかはないんですか? 特例でEランクをSランクにすれば、顰蹙も少なくなさそうですが」


「そこは大丈夫でしょう。多少は湧き出ますが、近い内我々は全ランクのディーヴァーに向けて選抜試験を開く予定です」


「選抜試験……」


「はい。あなたみたいに優秀なディーヴァーを下位ランクから発掘するための試験です。誰にも等しくチャンスが与えられる……そうすれば、不満も消えるでしょう」


 これも重大事件や世界に対抗するための思惑があっての事か。

 Sランクになればダンジョンの制限は無くなるし、活動もずっと自由になる筈だ。大魔王の調査も捗る。俺にとっても良い事尽くしだ。


 だが、まだ頷く事はいかない。


「……一つ、質問が」


「どうぞ」


「三輪ケイジについて、何も聞かないんですか?」


 どうであれ、奴と交戦しその末に死亡している。直接手を下していないが、間接的には関わっているとされてもおかしくない。


「彼については不幸な事故です。あなたと交戦した事についても、正当防衛であると我々は認識しています」


「警察は?」


「ダンジョン関連の事案については、我々が一任されています。国家権力と言えど、口出しは出来ませんよ。彼らに出来るのは身柄の受け取りです」


「随分、強権をお持ちなんですね」


「ええ。しかし三輪ケイジの暴走は想定外でした。申し訳ございません」


 佐伯さんはスッと頭を下げる。


「いえ……」


「彼が使用したアイテムの出所は既に割れています。まさか、連中があんなチンピラに手を貸すとは思いませんでした」


「連中?」


「――犯罪組織ガロウズ・ゲイプです」


 *


「ねぇ、ボス」


 散らかった薄暗い一室に、淡い光が灯る。スマホのバックライトだ。


「次はアタシの番でしょ? あの三輪とか言う使えない奴よりは、役目を果たせると思うんだけど」


 その明かりに褐色の肌が妖艶に照らし出される。一糸纏わぬ姿は、目のやり場に困るが幸い部屋には彼女しかいなかった。


「だから、ねぇ? ……え? この前の失敗? あ、その、それはノーカンだよ! ちょっと調査不足だったというかぁ……」


 品を作っていた姿勢を急に正し、正座する。


「今度はしっかり下調べするから! ちゃんと結果出すから!」


 電話口の相手は何事かを告げた。少女は表情を輝かせた。


「うん! もちろん、必ず、今度こそは!」


 手にしていたダーツを壁に向かい、投げつける。


「じゃあ、準備が整ったら……うん、じゃあね、ボス」


 バックライトの明かりが消えた。


「相手はEランク詐欺のディーヴァー……大丈夫、アタシはやればできる子!」


 少女は壁を見る。先程投げたダーツは壁には刺さってはいるものの、見当違いな場所にあった。


「あ、あれぇ……写真に投げたつもりなのに」


 壁に貼られた写真……そこには、灰藤ハクアが写っていた。

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