第43話 戦いを終えて
「厄災の気配が完全に消えました……ありがとうございます、あなたのお陰でこの町は!」
「……まさか、本当に倒してしまうなんてね……アンタは、いや……あなたは正しく国津神様が遣わした救世主様だ」
駅前のロータリーに戻ると、お婆さんを始め、全員から頭を下げられる。
「自分はやるべき事を果たしただけですから……もう頭を上げてください」
「無欲だねぇ、本当に……もっと贅沢を言っても良いんだよ」
「そういうのは、性に合わないので……」
目的は果たした。いずれテレビ局がごまんとやって来るだろう。その前に立ち去らないと……町にも迷惑がかかる。
「で、このまま行っちまうのかい?」
武田のオッサンがモゾモゾしながら聞いてくる。
「はい」
「そうか……んん、そのなんだ……また良かったら来てくれ。そん時は、ちゃんと出迎えるからよ。……世話になったな。すまなかった。そして、ありがとう」
「きっと来ます」
硬く握手を交わす。
「では、お世話になりました――」
最後に手を振り、転移魔法を作動させようとした時だった。
「待ってください!」
息を切らせながら誰かが走ってくる。見るとダンジョンの職員の一人だった。
「……良かった、間に合って……」
「どうかしましたか?」
まさか、まだ何かあるのだろうか。あまり長居はしたくないのだけれど。
「今、お帰りになる所ですよね?」
「はい」
「すみません、少しお時間宜しいでしょうか?」
「……少しなら」
「ありがとうございます。実は、迷宮事業庁の長官がハクア様との面会を希望しておりまして……」
「え?」
それって一番エラい人って事……だよな。確かに今回は派手にやったが、組織のトップに目を付けられるとは……。
「あの長官が、かい? フン、あのいけ好かない男が……」
面識があるのか、アワヂお婆さんは面持ちを顰めた。
「いいかい、もしハクア様に何かしてみな。その時はあたしゃ黙ってないよ」
職員にグッと顔を近づけ、凄む。相変わらず物凄い迫力である。職員は泣きそうな顔になっていた。
「じ、重々肝に銘じておきます!」
「まあ、お婆さんもその辺に……俺は大丈夫ですから」
「そうかい? 気を付けるんだよ。あそこは別の意味で魔物共の巣窟だからね」
政財界の妖怪って事だろうか。そういうのなら沢山見てきたなぁ……勇者ともなればね。甘い蜜吸いたい老獪共がわんさか寄ってきて、ウンザリしたよ。嫌な記憶だ。
「良いですよ、行きましょう」
役人連中は敵に回すと面倒だ。ここは素直に従っておこう。
「ありがとうございます。ではこちらへ……」
*
車で都内まで戻る。高層ビルが乱立する新宿新都心のオフィス街に入り、やがてひと際高いビルの前で止まった。
ここが迷府の本部エクセリオンタワー……。全てのダンジョンとディーヴァーを管理している。
自分でドアを開けようとしたら、外で待機している人に開けられる。なんだこのVIP待遇……。建物の内装は高級ホテルみたいだし。
大丈夫か? 風呂入ってないんだけど……匂わないよな?
「こちらです」
職員に連れられ、エレベーターに。ズラリと並んだ階層のボタンの一つを押す。多分、最上階だ。
音もなくエレベーターは昇っていく。ランドマークタワーの展望台に向かう時と似たような感覚がする。
「どうぞ」
エレベーターが止まり、扉が開く。そこは360度、ガラス張りに囲まれた部屋だった。広大な東京の大地を遮蔽物無しに一望できる。
「佐伯長官、お連れしました」
「ああ、失礼。探し物をしていました」
目の前の執務机の後ろで背を向けていた椅子が動く。
椅子には一人のスーツ姿の男が座っていた。黒髪黒目、中肉中背。顔つきも平均的で特徴らしいものが何もない。
「ご足労、感謝いたします。灰藤ハクアさん」
男はニコリと微笑みながら立ち上がり、握手を求めてきた。
「佐伯サダオと申します。以後、お見知りおきを」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
差し出された手を握り返す。冷たくも暖かくもない手だった。
「どうぞ、座ってください」
部屋の一画にあるソファに座るよう促され、腰かける。佐伯さんは対面のソファに腰かけた。俺を連れてきた職員は一礼し、部屋から出ていった。
「さて、私は世間話は苦手でしてね。いきなり本題に入りたいのですが、宜しいでしょうか?」
「構いません」
「ありがとうございます。では、単刀直入に言わせていただきますが――、ハクアさん。あなたをSランクディーヴァーに昇格したいと思っています」
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