第31話 質問回


 風呂から上がり、部屋に戻る。そのタイミングで女将さんが料理を運んできた。刺身や汁物、根菜類がメインの懐石料理。


「では、ごゆっくりどうぞ」


 まずは味噌汁を飲んでみる。入っている具は豆腐。好物だから有難い。

 刺身も新鮮で美味しい。野菜はあまり好きじゃないが、不思議と箸が進む。


「質問コーナーはご飯食べたらやるか」


 少し遅くなるけど、明日は休みだし大丈夫だろう。もちろん見れなかった人用にアーカイブも残す。


「……美味しかった」


 濃い味付けが好きな俺でも満足するメニューだった。こんな料理を作れるようになれば、健康診断も怖くないだろうなぁ。

 そう言えばダグザの大釜は何でも出せるけど、こういう旅館独自のメニューも再現できるのだろうか。いつか試してみよう。


「皆さんこんばんは。配信を再開します」


 空になった配膳を女将さんが下げたタイミングで配信を始める。

 時刻は11時くらいだが、早速視聴者数のカウンターが増え始めた。


――――


『待ってた』

『こんばんは』

『質問する内容めっちゃ考えてた』

『こん』

『何かダンジョン以外の場所でハクちゃん見るの新鮮だわw』

『確かに』

『浴衣姿も可愛い』

『ウィンちゃん見れないのが残念……』

『お前ら変な質問すんなよ?』

『俺らの民度を信じろ』


――――


 殆どダンジョン配信やる時と変わらない盛況ぶりだ。戦闘以外の配信でも意外と需要があるのかな。


「質問はコメントに書いてください。投げコメでもそれ以外のコメも拾います」


 流れるスピードは凄まじいが、動体視力と記憶力で内容は把握できる。アースシアでの経験がここでも役立つとはな……。


――――


『¥4000 何でそんなに強いんですか?』

『やっぱり強さの理由を知りたい』

『どこで修業してるの?』

『スリーサイズきぼんぬ』

『¥900 好きなアニメとかある?』

『強い訳を知りたい』

『¥1000 強さの秘訣を知りたいです』

『どこに住んでるか教えて』

『今穿いてるパンツの色』

『ウィンちゃんとの出会いを聞きたい』

『デモスレについて一言!』

『やっぱり変な質問してんじゃねぇか! 騙された!』

『草』


――――


 やはり強さに関する質問が大多数だった。まあ、そこだよな。一部のセクハラ臭い奴はシカトで。俺が元男だと教えてやろうか?


「実は、ダンジョンが出来る前から色々と武術を学んでいました。なので戦闘に関しては結構自信がありますね」


 とは言え、アースシアの事を説明するのは不可能だ。適当にそれっぽいカバーストーリーで誤魔化すしかない。


――――


『なるほど』

『それでもあの動きはだいぶ人間やめてるような……w』

『まあ、翠帝のオッサンやミスターDも人間卒業してるし』

『格闘技経験者や軍人が成長面で優位なのは証明されてるからな』

『問題はEランクでここまでの活躍が可能なのかって所』

『ランク=強さの指標にはならないぞ。大体は強ければランクも上がるけど』

『ダンジョンが出来てから一年半くらいだけど、ハクちゃんはデビュー前何してたの?』


――――


「……ぶっちゃけると、ダンジョンの存在を知ったのは最近です。ほんの数日前です」


――――


『へ?』

『まじ?』

『どういうことなの……』

『kwsk』

『【悲報】 ハクちゃん、世間知らずだった』

『世間知らずってレベルじゃねぇぞ!』

『もしかして超ド級の引き籠りだったとか?』

『ガチで言ってるなら、東京タワーを知らない日本人と同レベルだぞ』

『なんだかとんでもない爆弾発言でワロタ』


――――


「かいつまんで言いますが、世間とは触れ合えない場所で修業してたから、ですね。この前、久しぶりに日本に戻ってきたんです」


 話せる部分は素直に話そう。真実を混ぜる事でリアリティが増す……かもしれないし。


――――


『ハクちゃん、修行僧か何かか?w』

『一昔前の漫画の主人公みたいなストイックな生き方してて草』

『山ごもりでもしてたのか!?』

『精〇と〇の部屋的な?』

『確かにそれくらい俗世と絶った生き方してるなら、あの強さも分かる気がする』

『仙人と修行でもしてたのかよ。スゲーなおい』

『想像以上に堅実な研鑽を積んでたんだな。なんかアイテムとかに頼ってると思った俺を罵倒してくれ』

『見た目とのギャップが良い……』

『その年で立派だよなぁ。俺なんて未だに部屋から出た事がない』

『ニートガチ勢草』

『どこで修業してたの? 富士山? エベレスト? チベット?』


――――


「場所はすみませんが、言えません。秘匿された場所なので」


――――


『それなら仕方ない』

『強さの理由が分かっただけでも十分だよ』

『おk』

『ハクちゃんをここまで強くした人は一体何者なのか……』

『神様とか仙人みたいな存在じゃね?』

『もしかしてお姉様も?』


――――


「フィーナですか? はい、修行仲間です」


 そう言えばアレ以降、フィオナのコメントが来なくなったな。静かで助かるけど。


「そろそろ次の質問に行きます。好きなアニメは、スライムが転生する話ですね。原作も今読んでます」


――――


『パンツの色教えて』

『またお前か』

『さっきから変なやつおって草』

『パンツニキさぁ、俺のパンツ教えてやるから静かにしろよ』

『何穿いてるの?』

『白のブリーフ』

『オッサンのブリーフwwwww』

『誰得だよ……』

『オエー』

『俺得』

『えぇ……』

『守備範囲でけぇなおい』

『¥500 スリーサイズ』

『ここぞとばかりに変態湧いてて草も枯れる』

『ハクちゃん怒って良いぞ』

『やべーのばっかじゃん、ここのチャット欄www』


――――


「投げコメでも変な質問に答えませんからね? と言うか、この身体見てそれを聞くんですか?」


 フィオナに聞くならまだしも……こんな平坦なボディに。

 おかしな連中だ。


 俺は適当にあしらいながら、質問に答えていくのだった。

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