第29話 壊れた祠
ウィンが韋駄天小僧を食す間、俺は排出されたドロップ品をチェックする。
魔縮石はいつもの通り。一番目を引くものを手に取った。
鼻緒だ。紐の部分は赤色で、台は黒。女性用なのか、サイズは丁度いい。
――――
【韋駄天の履物】 単価:9000円
特殊効果:装備すると現在の敏捷性を50%アップ
――――
あの魔物らしく、ドロップ品もスピードに因んだもの。今のステータスでつける意味はないが、破魔の衣に似合いそうなので履き替える。
――――
『おお……似合ってる』
『ハクちゃん何気に和服も似合うよね……』
『韋駄天小僧を五分以内に倒すと手に入るレアドロか……初見で手に入れるとは流石』
『ボス撃破乙。ウィンちゃんの成長も見れて満足や』
『もうDランク昇格も秒読みだよね。マジで強いし、早過ぎる』
『レベチなんだよな。強さの秘密を知りたい』
『質問コーナーとかやってくれんかな……』
『このまま世界最速でSランク行って欲しい』
『明日も楽しみにしてます』
『¥10,000 クリアおめでとうございます』
『ワイも質問コーナー見たい』
――――
強さを知りたがるコメントは日に日に増えてきてるな。まあ、気持ちは分かるけどアースシアで修業しました、なんて言いようがないし……質問コーナーは設けても良いが、多分強さへの質問で埋まるだろうなぁ。
適当にそれっぽい言い訳で誤魔化すのが良いかもしれない。ディーヴァーは基本的に自分のスキル構成や戦術を暴露したりはしない。不特定多数に個人情報を漏らすようなものだ。
だから濁した返答になっても、視聴者はある程度は理解してくれるだろう。
「投げコメありがとうございます。この後宿に戻りますが、宿の中でも配信可能なので雑談枠をやろうかなって思ってます。簡単な質問とかも答えますが、どうでしょうか?」
――――
『マジか!? 見る、絶対見る!』
『社畜ワイ、仕事をバックレる覚悟完了』
『俺ニート。高みの見物w』
『そういやあそこの宿、迷府と提携してて配信OKだったな』
『¥5000 まさか本当にやってくれるとは思わず、ビビり散らかしてる。せめてものお布施です。ありがとうございます』
『メシ食ってる場合じゃねぇっ!』
――――
よし、じゃあやるか。
「始める時間はあとでSNSで告知するので、チェックしてください! では、一旦お開きにします。お疲れさまでした!」
俺は配信終了ボタンを押す。満足げなウィンを肩に乗せ、転移方陣に移動しようとした時、あるものが視界に映った。
「……祠?」
竹林の片隅に埋もれるように立っている古ぼけた祠。
俺は近づき、手を伸ばそうとして止めた。
何かを封じ込めていた名残が微かに残っている。見れば、無理やり破壊されたような痕跡も見受けられた。傷の断面も汚れが無く、新しい。明らかに最近壊されたものだ。
「……韋駄天小僧が壊したのか?」
一瞬そう考えるが、断面の感じは刃物か何かで斬られたようにスッパリ落とされている。もし韋駄天小僧がやったなら打撃痕になるはずだ。
あのキツネとタヌキの可能性もあるが、ボス部屋はボスの縄張りだ。魔物同士でもそれを侵せば争いになるし、レベル的にもステータス的にも韋駄天小僧が勝つだろう。
「………」
受付に聞けば何か分かるかな。
*
いつも通りの流れで魔縮石を売却。ディバイスに踏破記録を付けてもらう。
後は例の新種と思われるやつの情報を渡した。
「これは……どの辺りで遭遇しましたか?」
「確か、ボス部屋と中ボスの分かれ道の前の辺りだと思います」
「なるほど……ご協力ありがとうございます。この情報は精査いたします」
奥に戻ろうとした職員を呼び止める。
「すみません、あとボス部屋で祠を見たんですが、アレは何でしょうか?」
「ああ……気になりますよね」
職員の男性は眼鏡のブリッジを人差し指で押し上げる。
「アレは、この町に古くからあった三つの祠の一つなんですよ」
「三つの、祠?」
「ええ。ですが、ダンジョンが出現したあの日、三つあった祠は全てダンジョンに飲み込まれてしまったんです」
三つとも全部?
それはまるで連動してダンジョンが現れたみたいだ。何か関連があるのだろうか?
「町の人々にとってはかなり重要な物だったらしく、当初は彼らが自力でダンジョンに入って祠を守護しようとしたんです。しかしダンジョンに関連した制度が作られ、立ち入りが制限されると猛抗議を受けました」
職員は困ったようにため息をつく。
「そこで代替案として、我々が祠を管理する事になったのです。管理と言っても、掃除をしたり破損してないかを確認するだけですがね」
暫くは何事もなく祠は守られていたようだ。
だが、ある日確認すると――。
「壊れていた、と」
「はい。犯人は入場記録から分かってます。いわゆる迷惑系ですね。DD動画からの収益はとっくに止められてるはずですが……多分ダークウェブ系のアングラ配信サイトで稼いでるのでしょうね」
「あー……」
動画配信の時から何も変わってないな。どうやってもそういう連中は湧くようだ。主に魔物の横取り、素材の強奪、脅迫やスキルを用いた悪質ないたずら等……。
ダンジョンの外でスキルや魔法を使えば、銃刀法に反するレベルの重罪になるが、やる奴は遠慮なくやる。
「まだ犯人は捕まってません。お陰で町人たちからは白い眼で見られて困ってますよ。ディーヴァーたちからは町の態度が悪いと苦情が入りますし……私どもだって四六時中、祠を監視してる訳にもいかないんですよ」
「お、お疲れ様です」
この職員も結構、大胆な物言いをするな。なんか町と軋轢がありそうだし、そういう傾向の人が派遣されてるのかもしれないけど。
「あ、失礼しました。ハクア様に愚痴ってしまって……他に何か聞きたい事はありますか?」
「……その祠って、何が祭ってあるんです?」
「んー、何でしたっけ? 何かを封印したとか言ってたな……すみません、細かくはよく覚えてなくて。町の市役所に郷土資料館があるので、詳しくはそちらで」
「分かりました」
どうやらこの町は何かがありそうだ……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます