第28話 スピード対決


戦闘後、ウィンのステータスを確認する。最近見ていなかったが、かなり成長しているはずだ。


――――


■ウィン


レベル:22


種族:スライム


■ステータス


力:18

守備:150

魔力:11

精神:98

敏捷性:231

器用さ:13

運:23


――――


 守備と敏捷はついに三桁に乗り、ここに来て魔法耐性の指標となる精神も急成長を始めた。そろそろウィンも本格的に戦闘を経験させても良さそうかな。


 スキルは特に覚えたものは無いが、物理耐性(小)が物理耐性(中)に進化している。少なくとも物理特化の相手なら完封できるだろう。


「ステータスの確認が終わりました」


 再び石畳の道を歩き出す。スオウとトキワはそれぞれ左右の腰の辺りで吊るし、背中に食神の三叉槍を背負っている。

 二刀流に関連したスキルもアースシアで履修済み。早く試してみたいのだが、キツネとタヌキのコンビを倒して以降、魔物の気配は全くない。


「んー、魔物が出てきませんね。有志のwikiによればそれなりの頻度で接敵するようですが」


 俺はスマホで【静謐の社】の情報を見ながら言う。


――――


『確かに全然出てこないな』

『俺がこの前潜った時はあの畜生コンビに何度も襲われたぞ』

『ハクちゃんが強すぎてビビったんじゃない?』

『あり得る(笑)』

『出会った瞬間、死ぬの確定だからなぁ……』

『こんな静かなダンジョン配信初めて見たwww』

『平和とは圧倒的な武力で成り立つのか……』


――――


 これでは取れ高がボスだけになってしまうなぁ。

 困った。どうしよう。


「もしもーし、魔物さんいませんかー?」


 わざと大声で呼ぶが、虚しく木霊していくだけ。何だこのダンジョン。


――――


『草』

『踏破が目的ならモンスターとの戦闘は計画的に進めるがセオリーなのにw』

『流石ハクちゃん』

『唯一無二の配信スタイル確立してるよなwこれはバズる訳だ(笑)』

『こんなの真似したくても真似できない』

『普通はバズると雨後の筍が湧いてくるけど、ハクちゃんに関してはみんなダンマリでウケる』

『パクって開き直ってる連中が手出しできないのメシウマだわww』


――――


 はぁ、駄目だ。出て来やしない。トークとかは苦手なんだよなぁ。ボス部屋前まで何とか場を持たせられるか……? 一応視聴者さんたちはコメントで会話して盛り上がってるようだけど。


「……む?」


 俺は妙な気配を察し、立ち止まる。またあのキツネとタヌキか……? 


「違う」


 気配の質がかなり濃い。これは熱凶マガツ状態になったベリアルリッチよりも上だ。


「……ウィン。止まれ」


「え? うん」


 先を進むウィンを呼び止める。

 ……そこか。


 俺は足元の小石を拾い、投げつける。何の変哲もない竹垣に直撃するが、途端にズルリ、と黒い影の塊が浮き上がってきた。


――――


『うわ、何だコイツ』

『えキモ』

『なにこれ?』

『知らん』

『こんなの見た事ないぞ』

『ワイも』

『有識者カモン!』

『wikiの記録にはないな。新種か?』

『EXダンジョンの次は新種発見!?』

『マジか』

『不定形の魔物……?』

『ハクちゃんの強運裏山』


――――


 視聴者たちでも分からないらしい。

 暫く観察するが襲ってくる気配もなく、その場で蠢いていた。気配の濃さに反し、敵意もゼロだ。


 得体が知れないが、とりあえずディバイスでスキャンしておくか。情報は残しておこう。


「あ」


 ディバイスで記録した瞬間、そいつは地面に溶けるように消えてしまった。気配も急速に薄れ、霧散していく。


「何なんだ……?」


 念のため、更に周囲を調べるがもう何も感じない。


――――


『逃げられたかー』

『勿体ない』

『でも新種は見つけた場合、報告最優先だろ?』

『守る奴あんまいないけどな。ディバイスで記録しときゃいいし』

『なんかあれ見てると鳥肌立ったわ。良くない感じがする』

『え、まさかのオカルト?』

『俺、何も感じないよw』

『逃げ足特化の魔物かな?』


――――


 釈然としないが、いつまでも突っ立っていても仕方ない。俺は歩き出した。

 相変わらず魔物が出てくる様子もない。


「分かれ道です」


 その後も軽く談笑するだけのウォーキングみたいなダンジョン配信になってしまったが、目的地の一つである左右に分かれたT字路へ到着した。


 このダンジョンのボスは特殊なギミックを持ち、それを解除する事で大幅な弱体化を与えられる。そのためには中ボスが待ち受ける右の道を選択するのが定番なわけだけど……。


「ギミックは無視して、このまま倒しに行きます」


 俺の配信は正規ルート破壊だ。ギミック解除前のボスを力で正面から粉砕する。


――――


『キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!』

『待ってました!』

『そうそう、これがこの配信の醍醐味だよなwww』

『¥5500 期待』

『ここのボスは……あいつかぁ。瞬殺されるのが目に見える』

『戦う前から勝ち確してるの草』

『¥3000 頑張ってください!!』

『ワンパン! ワンパン!』


――――


 魔物が出ないせいで少しグダりかけてたが、俺の宣言で持ち直す。

 どうせここから先も魔物はいないし、ボス部屋までダッシュで行くか。


「皆さんお待ちかねだと思うので、ボス部屋まで走っていきます」


 ウィンを肩に乗せ、俺は走り出す。全力で走るとドローンがついてこれなくなると思うので軽く流す感じで。


――――


『ちょwwwドローン遅れてるwww』

『嘘だろ、今のドローンって100キロ以上出るよな!?』

『マジか?w』

『ハクちゃん100キロ以上で走ってるの?』

『これがEランクディーヴァーなんてあり得るか』

『ついこの前まではFランだったぞ』

『もう何でもアリやんこの子……』

『デモスレで少し話題飲まれてたけど、やっぱハクちゃんだわ』


――――


 あれ? これでもドローンがついてこれてないようだ。もう少し遅くするか。

 でももうすぐボス部屋だし、このまま突っ込むか。


「せー、の!」


 目の前の扉に向かい、飛び蹴り。本来はギミック解除の道中で拾う鍵が必要な訳なんだけど、俺には関係ない。そのままぶち破る!


 ドカン! と両開きの扉が吹き飛ばされ、俺は両足を地面を擦りながら着地。


「たのもー!」


 そして腰からスオウとトキワを抜刀した。


「!」


 視線の先にいるのは作務衣のような服を纏った坊主頭の子供だ。しかしそれが決して人間ではない事を、顔にある巨大な一つ目とタコのように無数に生えた足が物語っている。


――――


■韋駄天小僧


レベル:35


種族:亜人


■ステータス


力:57

守備:22

魔力:18

精神:34

敏捷性:501

器用さ:30

運:11


――――


 流石、ギミック解除ありきのボスなので敏捷性が驚異的な数値になっていた。あの熱凶マガツ化したベリアルリッチの精神すらも上回っている。


「!!」


 韋駄天小僧は俺を見るや否や、無数の足を高速で動かし全速力で走り出す。人間では到底追い付けないような速度な上、縦横無尽に駆け抜けていく。ジャンプや反転、急速ターン等、多彩な緩急までつけている。


 なるほど、確かにこれはギミック解除無しでは危険すぎるな。


「――全部、見えてるけど」


 俺はぐるっと振り返る。目の前には不意を突いたと思い込む韋駄天小僧がいた。


「⁉」


「盾縫・白盾」


 破魔の衣に宿るスキルを放つ。韋駄天小僧の目の前に白く輝く盾が出現、奴は減速する暇もなくその盾へ正面衝突した。


「グギャァ!?」


 まるで潰されたカエルのようなポーズで盾に張り付く。スピード自慢の連中は大体障害物を作ってやればこうやって自滅する。硬質な破片を進路上に撒くだけで致命的になり得るのだ。


「盾を作るスキル……中々面白いな」


 盾縫はまだ他の盾を作れるようだ。今出した白盾は物理攻撃や魔法攻撃をシャットアウトする能力を持つ。


「ッッ!!」


 俺がスオウを振るおうとすると、韋駄天小僧は咄嗟に後ろへ引いていく。かなりのダメージを負ったようで、自慢のスピードは半減しているようだが。


「ハクア様、あいつ僕が倒しても良い?」


 追撃しようとすると、ウィンが話しかけてくる。


「行けるか?」


「うん! 僕もそろそろ自分の力で倒せるようになりたいんだ!」


「分かった」


 俺は二刀を鞘に戻す。


「皆さん、ウィンがあいつを倒したいと言ってます。良かったら見守ってください」


――――


『おk』

『かんばえー!!』

『ああ、ウィン様……ついに自らの手で仕留めるのですね!』

『ウィンちゃんなら出来るよ!』

『¥1000 ウィンちゃん頑張れ!!』

『よっしゃ、応援すっぞ!』


――――


「みんな応援してるぞ」


「ありがとうって伝えて」


 ウィンは頷き、向かっていく。

 対する韋駄天小僧もウィンなら、と思ったのか再び高速移動を開始した。


 ……とは言え、スピードが下がっている上にウィンの敏捷性も育っている。


「⁉」


「逃がさないよっと!」


 逃げ回る奴の背後にピッタリと追従していく。柔らかい身体を撓ませ、その反発力で加速。追いすがろうとする。


「!」


 しかし奴もギミック解除前の個体だ。辛うじて追い付かれない程度の速力は維持している。これでは決着がつかないだろう。


「だったら!」


 ウィンは飛び回りながら周囲の竹林へ触手を伸ばしていく。しっかりと結びつき、遠心力を付けるようにぐるりと一回転。同時に凄まじい重力が掛かるが、柔らかい身体が少し凹む程度だ。


「駄目押しの【弾丸】!」


「!!」


 遠心力にスキルの力を上乗せし、爆発的なスピードに乗る。負傷した韋駄天小僧は逃げ切れる訳もなく、その背中に体当たりをブチかました。


「ゲブァ!?」


 背中からくの字に折れ曲がり、物凄い勢いで竹垣に叩きつけられる。

 ――決着だな。


「いただきまーす!」


 起き上がろうとした韋駄天小僧が最後に見たのは、大口を開いたウィンだった。

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