第27話 巫女服
帰れと言われても、はいそうですか、と納得する訳もない。何も悪い事はしてないし、宿の予約だってしているんだ。
何とも変な町だが……今は配信に集中しよう。
「えー、皆さんこんにちは。ハクです。今日はSNSで宣言した通り、三連ダンジョン踏破計画の第一弾、【静謐の社】に挑もうと思います」
「みんな今日もよろしくね!」
言葉は伝わらなくても、ウィンは全身で感情を表現していた。テンションが高い時はジャンプも荒ぶる。
――――
『こん』
『こんにちは』
『今日も可愛いよウィンちゃん』
『待ってた』
『二泊三日のダンジョン踏破、楽しみや』
『こんちゃ』
『結構重めのスケジュールになりそうだけど……ハクちゃんなら余裕やろうなw』
『ワイ栃木民、ハクちゃんが来てくれて歓喜』
『ここのボスはどうやって倒すのか……期待してる』
『¥1000 景気づけに一つ』
『¥5000 なら俺も』
『¥9000 朕も』
『¥10,000 おいどんも』
――――
開始と同時にコメントが怒涛の勢いで流れる。視聴者のカウント数も留まる事を知らない。
「早速攻略を開始します。投げコメもありがとうございます。でもまだ始まったばかりですからね? 無理のない範囲でお願いします」
俺は食神の三叉槍を手に持ち、歩き出す。
Eランクダンジョン【静謐の社】。その雰囲気は和風な森と言ったところか。竹林が果てしなく広がり、そこを縫うように石畳と竹垣で仕切られた道が続いている。
生い茂った竹のせいで薄暗いが、等間隔に並んだ灯篭が明かりを灯しているので最低限の視界は確保できていた。尤も、異世界で鍛えた今の視力なら十分すぎる程明るいが。
「今のところ魔物の気配はないですね。軽い雑談ならOKですよ」
歩きながら、ドローンのカメラに視線を合わせる。
静謐、と名前にあるように笹の葉が風に揺れる音と虫の鳴き声以外は何も聞こえない。ある程度の緊張感は残しつつ、フランクに話しかけた。
――――
『今日はフィーナお姉様いないの?』
『そう言えばいない……』
――――
「予定が嚙み合わなかったので、留守番ですね。でも多分配信は見てると――」
――――
フィーナ♡ハク様『¥50,000 ハク様、カメラ目線もっとください!! ほら、こっち見て!!』
――――
「……えっと、変なのが湧いてますね。ブロックした方が良いでしょうか?」
――――
『草』
『いきなり赤コメぶん投げててクッソ吹いたwwww』
『一発で分かってマジ草』
『お、お姉様……』
『コメント欄でもブレなくてワロタwww』
『変態に富を与えるとこうなるのか(戦慄)』
『まさか投げコメで荒らしみたいな事をする奴がいるとは……w』
『変wwなwwのwww』
『辛辣で草』
――――
コメントの仕方を知りたいというから教えたのに……家に帰ったら、また頭グリグリの刑だな!
「変なコメントは無視しまして……ん?」
俺は道の先に何かが落ちているのに気づいた。
「お札……」
しかも諭吉だ。
ダンジョン内の拾得物は基本的に拾い主のものになる。それがダンジョン外の物品でも適用される訳だが……。
「………」
ネコババするつもりはない。受付に渡すかと考えながら拾おうと手を伸ばした瞬間、バサッと何かが上から落ちてきた。
「――なーんてな」
俺は冷静に見上げ、ファイアボールを放つ。着弾した火球によって焼かれていくのは、漁で使われるような投網だった。
――――
『やっぱ気づいてたのねwww』
『初見でクソキツネとクソタヌキの不意打ち躱すのか……』
『え、アレ真面目に引っ掛かる奴おるの?w」
『今回は万券だったけど、気づきにくい奴だとマジで不意打ち喰らうから』
『普通なら割と絶望する相手なのに、ハクちゃんなら心配せずにみられるw』
『むしろ相手の心配を』
――――
「なるほど……和風っぽいダンジョンに合う敵だな」
投網を迎撃すると、目の前に煙がボン! と舞い上がり、そこから二体の魔物が姿を見せた。
片方は赤い日本刀を口に咥えたキツネ。もう片方は緑の日本刀を持ったタヌキ。
稲荷明刃と隠刃刑部。Eランク帯の魔物では強敵の部類に入る。
「どれ、食撃魔法とやらを試していくか」
俺も食神の三叉槍を構えた。
それを敵対行動と見なしたのか、キツネとタヌキが同時にスタートを切る。事前に打ち合わせでもしたかのように、阿吽の呼吸で左右同時に袈裟を落としてきた。
この二匹の最大の脅威は、正確無比なコンビネーション。人間では到達不可能と言えるほどの一糸乱れぬ連携を行う。
「ならば、こちらも連携で応えるかな」
俺は二つの刃を食神の三叉槍の柄で受け止めた。
「スラッグショット!」
最適なタイミングで弾丸を俺の背後から飛ばしてくるウィン。硬化した弾丸が二匹を掠めていき、慌てて刃を引いて飛び退った。
「そうそう、反撃されたら逃げるしかないよな」
二匹の着地地点を見抜き、そこへ魔法を仕掛ける。
「グレイト・ディオスコレア!」
まるで魔法少女が使う魔法のように愛らしい音とエフェクトが迸り、地面の一部分を擦り下ろした山芋……要はとろろへと変換させた。
「⁉」
「――!」
キツネとタヌキは見事に足を掬われ、転倒する。おまけに身体に付着したとろろのむず痒さにやられ、飛び跳ねていた。
「じゅる……美味しそう」
ウィンはもう既に捕食する気満々だ。まあ……赤はうどん、緑はソバだもんな。どっちもとろろをぶっかけて食うと美味い。
「じゃあ味付けと行こうか……ソイ・ウォーターオイル!」
三叉槍の先端を二匹の頭上へ向ける。日本人なら馴染み深い香りの黒い液体がザバァ! と降り注いできた。
「!!」
「⁉」
意味の分からない魔法の追撃を食らわされ、更に混乱する様子のキツネとタヌキ。
「とろろに合うのは、醤油だよな~」
醤油の匂いが辺りに広がり、ウィンの我慢も限界に近いので捕食タイムといこうか。
「いいぞ、ウィン」
「いっただきまぁす!」
ビュン! と加速し、一気に飲み込む。悲鳴を発する余裕もなく、養分と化す二匹。
「ん? これは不味いからいらない」
ペッ、と吐き出されたのは魔縮石と二振りの日本刀。そして赤と白の衣。
「……これは」
魔縮石は後で確認するとして、この刀はあいつらが使っていたものだ。
ディバイスでスキャンする。
――――
赤刀スオウ 単価:20,000円
特殊効果:斬撃時、炎を巻き起こす
緑刀トキワ 単価:20,000円
特殊効果:斬撃時、風を巻き起こす
――――
二刀一対の刀。生み出した炎を風で飛ばしたり、逆に風に炎を纏わせて攻撃する――と言った戦術が強みの武器だろう。あの二匹が強敵扱いなのも納得がいく。
単価も高めだが、売ってしまうのは勿体ないので食神の三叉槍と併せて使ってみるか。
「で、これは……」
拾い上げると、予想通り巫女服……。
――――
破魔の衣 単価:90,000円
特殊効果:全属性耐性(中)、装備時スキル【盾縫】を使えるようになる。
――――
たっか!? プレミア価格がついてるじゃないか。
魔法耐性はスキルがあるから関係ないが、盾縫と言うスキルは気になるな……。また聞いた事もないスキルが出てきた。
――――
『破魔の衣!? 激レアじゃん!』
『ハクちゃん、やっぱ引きが良いよね』
『運の数値どれくらいあるんだ……? 魔縮石もいつも平均より多く出てるし』
『巫女服! 巫女服!』
『着る?』
『¥1400 お願いです、着てください』
『ハクちゃんの巫女服、見たいなぁ(チラッチラッ』
『¥4000 全裸待機』
『¥2300 』
『¥10,000 給料日前だけど、惜しまないわ』
『お前らどんだけ着て欲しいんだよwww』
『これはもう着るしかないねぇ(ニチャァ)』
――――
この連帯感! 何で無駄に息ピッタリなんだよ!?
そんなに俺の巫女姿に需要があるのか? ネコミミフードもそうだけど、良く分からねぇ……。
――――
フィーナ♡ハク様『¥50,000 準備は出来ました』
――――
……いや、何の!?
一体お前は俺ん家で何をしているの!?
フィオナさん!?
――――
『お姉様www』
『たった二回の投げコメで10万はたいてて草』
『ガチ勢すぎんよ』
『準備(意味深)』
『ナニをしてるんですかねぇ……』
『ガチ勢こわ』
『お姉様、美人なのに残念過ぎないかwww』
『言動が飢えたオッサンに近いもんなァ……』
『これが痴女と言う奴か』
――――
もうヤダあの人。
俺は頭を抱えるが、その間にも急かすようにフィオナからコメントが来る。
「ああもう、分かりましたよ! 着ますよ!」
俺はディバイスを操作し、装備を変更する。ゲームの装備変えみたいに一瞬で着替える機能だ。服装はネコミミフードから先程拾った巫女服へ変化。ついでに髪型もポニーテールになる。リボンを含めての一式装備のようだ。
こういう服って生地が厚いから重そうなイメージがあったが、絹のように軽い。激しい動きをしても、阻害される心配はなさそうだ。
「えと、似合ってますか」
俺は衣装を見せるようにその場で軽く、一回転した。
――――
フィーナ♡ハク様『あ』
『スゥ――……』
『ポニテ巫女だとぉ!? 死ねるわ、これ』
『んあああああ! んあああああ!!』
『生まれてきて、良かった』
『¥9900 ありがとうございます、ありがとうございます!!』
『そういう所だぞ。無意識に可愛い行動ばかりしやがって……!』
『流石、我らのテイマー。愛おしい』
『今のはねぇ、反則ですよ。うん』
『日本刀とテイマー繋がりでヨルちゃんとコラボして欲しい』
『あざとさ一切なしで、こんなかわいい子見た事がない』
『¥30,000 ワイ、心射抜かれて臥し転ぶ』
――――
「な、投げコメありがとうございます」
何も意図してないのに、なんかコメント欄が悶絶していた。良く分からないけど、受けてるなら良かった。
そう言えばフィオナからのコメントはなんか止まってるが、どうしたんだろう。鬱陶しいくらいに騒いでたのに。『あ』と残したっきり、うんともすんとも言わん。
これはこれで薄気味悪いなぁ……。
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