第13話 おかしなダンジョン
エクストラダンジョン。通常のダンジョンのボスを特定の手順で撃破すると開かれ、内部は独特な雰囲気を持つものが多い。また未知の素材やユニークなアイテムがある場合もあり、第一発見者は一気に配信者としての知名度を高めていくという。
実際、翠帝やミスターDもエクストラダンジョンをいくつか発見しており、その時の盛り上がりは凄まじかったらしい。
「えっと……つまり、今回偶然条件を満たしたって事、でしょうか?」
――――
『そうなるね。ここは過疎ダンジョンだから、見つからなかったのも納得がいく』
『条件が気になる!』
『多分ベリアルリッチを熱凶させて倒す、とかじゃね?』
『無理ゲーwww』
『Bランク下位とかプロディーヴァーの領域だからな』
『そもそも熱凶する条件もまだはっきりしないし……』
――――
俺はコメントを見ながら、ディバイスの検索画面を調べていく。
エクストラダンジョンに入るにはその都度、条件を満たして撃破しなければならない。
しかし第一発見者に限り、エクストラダンジョン内部でダンジョンキーと言うアイテムを見つければ、いつでもどこからでも好きな時に入る事が可能ならしい。
このような仕組みがエクストラダンジョンの希少性と発見者の優位性を高めており、日夜ボスモンスターの研究が行われている。それを生業とするディーヴァーも多数いるくらいだ。
日本ではダンジョンキー所有者は管理され、売買、譲渡などは禁じられていた。
悪用される危険性や犯罪の温床となるのを防ぐためだ。
しかし諸外国だと禁止されておらず、ダンジョンキー一本に日本円で数十億の値が付いたこともある。
――――
『ハクちゃん、これ絶好のチャンスだよ!』
『今入らないと横取りされかねないしな』
『もしされても、特に違反行為にならないし』
『ダンジョンキー探そうず』
『内部がどんなのかスゲー気になって、夜しか眠れんくなった』
『頼む、入ってくれ! 疲れてるかもしれないけど』
――――
コメントは突入を望む声で一杯だ。
もちろん、答えは決まっている。
「はい、行こうと思います!」
正直、俺もワクワクしている。まるで初めてアースシアの世界を見た時のように。情報にない場所、前人未到の領域……興奮しない方が無理だ。
――――
『うぉおおおおおおおおお』
『盛 り 上 が っ て ま い り ま し た』
『ガチ神回wwwwww』
『リッチ撃破が霞むレベルの展開になってて草』
『デイッターのトレンド4位にハクちゃんキタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!』
『同接6000超えてるwww一万行くぞこれwww』
『1位、2位、3位は翠帝のオッサンとダブルフェイス、ヨルちゃんか。向こうも流石やな』
『なおハクちゃんはまだFランクです。配信二日目です』
『Sランクディーヴァーと張り合うハクちゃんヤバすぎワロタ』
――――
コメントの白熱具合も最高だ。あまりの盛り上がり様にドキドキしてくるが、良い意味での緊張感に満たされている。
さあ、エクストラダンジョンとやらを見せてもらおうか――!
俺は空間の揺らぎへと足を踏み入れた。
一瞬、眩い光に包まれていき……空気の質が変わった。荒地の乾燥したものから、先程感じた何かの料理の匂いが強くなる。
「わあ、良い匂いだねこのダンジョンは!」
肩でウィンがテンション高めに飛び跳ねている。
「ここは……」
眼前に広がる光景は……台所?
水場、冷蔵庫、調理器具、食器棚、テーブル、椅子など一般的な台所周りの機能と家具が勢揃いしている。
――ただそれらが非常に馬鹿でかい。まるで、不思議の国のアリスの世界に迷い込んだようだ。
「皆さん、見えますか? 随分、おかしなダンジョンです」
これはダンジョンと呼べるのだろうか? 確かに見慣れた自分の部屋でも小人になれば巨大な迷宮のように見えるかもだが。
「奇妙ですが、油断できませんね。気を引き締めていこうと思います」
――――
『見えるよー。また個性的な場所だね』
『まあ、エクストラダンジョンってそう言うもんだしなw』
『むしろその奇怪さを楽しむのが通である』
『ぶっ飛んだダンジョンであってくれwwハクちゃんの困惑が見たいwww』
『それな』
『ハクちゃん真面目系っぽいし、反応が楽しみだわ』
『前見つかったのは騙し絵みたいなダンジョンだっけ? まっすぐ歩いてるのに、上に行ったり下がったり』
『見た感じ、食料系ダンジョン?』
『エクストラダンジョン発見と聞いてデイッターから来ました! まだ探索してますか!?』
『まだダンジョンキー探す所だよー』
――――
ちなみにダンジョンキーの見た目は名前の通り鍵。形はウォード鍵と呼ばれるモノで、デザインは一つ一つ異なっている。芸術的な作りのせいか、ディーヴァーでもないのに大枚はたいて集めようとするコレクターもいるくらいだ。
「ねぇ、ハクア様。良い匂いの元はあっちだよ」
ウィンが身体を伸ばして示す。先は壁で仕切られているが、小さな扉があった。
魔物の気配はその先から感じるし、行くしかないな。
扉の前までくる。何の変哲もない扉だ。慎重にノブを回すと、素直に開く。ギィ、と僅かに軋んで開いた先は、これまた同じような構造の部屋。
ただ違うのは床の上に皿(これは通常サイズ)が並べられ、その上には山海の食材が盛り付けられている。
「ウィン。敵だ」
食材を睨む。擬態しているつもりなんだろうけど、俺には通用しない。
「ァァァァアアア……」
その声に反応するようにモゾモゾと食材たちが蠢き出し、集まり始める。互いに結合、混ざり合い、一つの魔物へと成していく。
「……ベリアルリッチ?」
その姿形は、つい先ほど倒したベリアルリッチにソックリだった。しかし骨だけだった奴とは対照的にでっぷりと肥え太り、顔も人間のそれに近い造詣だ。手にする杖は山羊の頭蓋骨の意匠から、巨大なフォークと突き刺さった骨付き肉と言うデザインに。
ディスカバリー・レンズでチェックしても【Unknown】と出るだけ。正真正銘、未知のモンスターだ。
「美味しそう……」
デブリッチ(俺命名)を見て、垂涎するウィン。まあ、確かに色んな食材の集合体だけどさぁ。食えるもんじゃないぞアレは。
「ァァァァァ……」
ベリアルリッチと同じ動作で杖を構えてくる。俺も棍棒を手に、身構えた。
ここであいつは鬼火を出していたが……果たして。やはり魔法か、それともスキルか。何が来ても対応できるが、油断せず気を引き締めて――。
しかしボッ、と出てきたのは俺の予想を超えていた。
「……か、鰹節?」
周囲に浮かぶのは日本人なら見慣れた食材であろう、鰹節。流石に呆気に取られて眺めていると、それが物凄いスピードで打ち出されてきた。
「うぉ⁉」
真正面に飛んできたので片手で掴み取る。しゅぅ、と摩擦で熱が生まれたのか小さな白煙が生じていた。
コイツ、ベリアルリッチより強い!? こんなふざけた魔法(?)を使う癖に、何て野郎だ。
「モグモグ……渋くておいしいねこれ」
ウィンは受け止めてそのまま食している。鰹節を直に食べる人……いや、魔物は初めて見るぞ。
「止めなさい、そんなどこから出したかも分からないモノを食べるは。ばっちいから!」
「大丈夫! ゴブリンより不潔なものはないよ!」
「そういう問題じゃないよ!?」
思えばあんな汚いモン食べさせて良かったんだろうか。確かにスライムは悪食で、何でも食える性質を持ってはいるけど。
「ァァァァ!!」
デブリッチが骨付き肉フォークを振り上げる。また水気を感じ、俺は
「今度はジュースの水流⁉」
甘ったるい匂いが充満する。色的にオレンジジュースか……何なんだ、この魔物。地球のダンジョンにはこんな意味の分からんのが出てくるのか。
一応命のやり取りをしてるというのに……この緊張感の無さ!
「今度はジュースだね、いただきます!」
ウィンはなんか好き勝手に飲み食いしてるし……。大丈夫か、この配信。放送事故じゃないのかこれぇ……。
「アァァァ!!」
そして怒声を発するデブ。あー、はいはい
……なんか真面目に考えてると、哀しくなってくるぞ。
激高したデブが杖を掲げると魔法陣が現れるが、よく見るとロリポップみたいな模様が描かれていた。もう何も突っ込むまい。
キィン! と言う音と共に弾けるのは爆炎ではなく、金平糖。ペシペシと服に当たり、色鮮やかなお菓子が弾け飛んでいく。
「ハクア様、もう食べて良い⁉ 良い!?」
「うん、どうぞ」
もう好きにして。
「いっただきます!」
「アァァァア⁉」
ガバァ、身体が広がってとデブを飲み込んでいくウィン。一口で丸呑みにしまうが、
「ん、これは不味いからいらない」
プッ、とドロップ品が吐き出される。奴が身に着けていた装備だが、他に鍵が一つ落ちていた。持ち手の部分が骨付き肉みたいなデザインになった古びた鍵だ。
これがダンジョンキーだろう。
「え、えぇー……」
こ、こんなんで良いのか!?
「み、皆さん。一応鍵はゲット出来ました」
俺はカメラに向かい、ダンジョンキーを見せるのだった。
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