第11話 始祖の魔物
スケルトンを全滅後、ウィンが楽しそうに飛び跳ねる。
「ハクア様、僕新しい技を覚えたみたいだよ!」
そう言えば、ゴブリンガードを始め多くの敵を倒してきていた。レベルも結構上がっているだろう。ディバイスで確認してみる。
――――
■ウィン
レベル:6
種族:スライム
■ステータス
力:9
守備:18
魔力:7
精神:4
敏捷性:83
器用さ:9
運:10
■スキル
吸収:獲物を取り込み、栄養に変える。傷ついた身体を癒す
弾丸:体を硬質化させ、相手に突撃する
物理耐性(小):斬撃、打撃、突撃等の物理攻撃に耐性を持つ
スラッグショット:硬質化させた身体の一部を高速で投射、着弾時に花開くように弾け飛ぶ。
――――
敏捷性に磨きがかかっている他、守備も伸び始めていた。物理耐性に加え、この守りの硬さは安心して物理主体の敵にぶつける事が出来るな。
後は新しいスキルのスラッグショット。弾丸のように硬くした身体を投げつけるようだが……。
「ウィン、あそこの木をスラッグショットで狙えるか?」
「うん!」
ググっと身を撓めるウィン。そしてボン! と身体を元の形状に戻した瞬間、一部分が発射されて枯れ木に直撃。劣化しているってのもあるだろうけど、太い幹を持つ樹木がゆさゆさと揺れた。
「……倒れたりはしないな」
説明によれば、着弾時に破片が弾けるようだが。
木に近づき、穴の内部を覗いてみる。ウィンの身体の一部と、そこから弾けた更に細かいスライム片があちこちに突き刺さり、ズタズタになっていた。
「うわぁ」
これが生き物だったらスプラッタ待ったなしである。
更にその破片はウゾウゾと蠢いたかと思うと、一か所に集まって球体に変化。そのまま弾みながらウィンの下へ戻っていく。
自分の身を削るスキルかと思ったが、その心配は杞憂のようだ。
――――
『え、このスキルってラスティスライムの必殺技だよな?』
『威力えっぐww』
『ラスティスライムってCランクダンジョンに出る奴じゃんw』
『前にそのスキル喰らって死んだわ』
『成クレ定期』
『ハクちゃんもだけど、ウィンちゃんもだいぶヤバいな……この二人、強すぎる』
『どうして覚えられるか、ウィンちゃんに聞いてくれ』
『流石、私のマイスイートハート・ウィンちゃん!!』
『お前のウィンちゃん愛は分かったからもちつけ』
――――
まあ、俺も気になるんだが聞いてみたところで。
「なんか覚えた!」
と返される。隠している訳でなく、本当に覚えているだけなのだろう。
「なんか覚えた! だそうです」
俺も正直、ウィンの強さには驚いている。あの洞窟内のスライムたちの中でも抜きん出て強いし、何か特別な存在なのだろうか?
――――
『いや草』
『そうか、覚えたのなら仕方ないな』
『えぇ……』
『可愛い』
『俺もテイマーになりたかった……』
『もしかしてウィンちゃんってアマルガム?』
『始祖スライムって事? 都市伝説じゃないのそれって』
――――
興味深いコメントが流れる。
「始祖スライムって何でしょうか?」
――――
『ああ、ハクちゃんは新人だから知らないか』
『この世界にダンジョンが作られた時、一番最初に生まれた魔物たちの事を〝始祖〟って呼ぶんだよね。柔らかき
『都市伝説の域を出ないけどな』
『でもその強さを見てるとまさか、って思える』
――――
面白い考察だな。ディバイスで検索してみたが、始祖と言う呼び方も非公式のようだ。とある考察系ディーヴァーが使ったのが始まりらしい。
「お前って始祖なの?」
「シソ?」
「……いや、何でもない」
ぷるん、と震えるウィン。
もし始祖でも何でも、俺の仲間だ。あの洞窟から自由になりたかっただけのスライムだ。今はそれでいい。
「行くぞ、ウィン」
俺はウィンを肩に乗せて、歩き出す。
*
幾度目かのスケルトンの群れと影に潜むレイスを撃退した頃。風景に変化が訪れる。何もなかった荒地に朽ち果てた墓標が見え始めた。文字は掠れて読めないが、日本語ではなさそうだ。
「周囲の毛色が変わってきました。墓場ですね」
俺はドローンに喋りかける。
――――
『ハクちゃん、ストップストップ!』
『ここから先はボスのテリトリーだから!』
『初心者の洞窟と違って、扉で区切られてないから近づきすぎると絡まれるぞ』
『ここのボスってなんだっけ?』
『魔法系。物理が弱点だけど豊富な魔法で近づけない』
『ハクちゃんなら余裕で対抗できんじゃね?』
『確かにフィジカルは凄いけど、遠距離主体にはきついだろ』
『投擲の破壊力見ただろ。開幕、ぶん投げればワンパン』
『残念、コイツは飛び道具反射のバリアを最初から帯びてるよ。レアドロ装備の効果で』
『普通にバリア貫きそう』
―――――
コメントによると、魔法特化の奴がボスのようだ。物理火力のボスゴブリンとは対極の存在だな。
……そう言えば、まだ魔法は使ってなかったな。丁度いい機会だし、今回もボス戦は凝った戦い方をしてみよう。
「魔法系なんですね。じゃあ、こちらも魔法で勝負してみようと思います!」
――――
『え、魔法⁉』
『テイマーって魔法覚えたっけ』
『最低限な。地水火風の』
『無謀だろ。ベリアルリッチはFランどころか、Dランクのボスと比較してもレベチで魔法耐性が高いぞ』
『魔術師どころか賢者の素質持ちでもサシはキツイ』
『前に魔法職の素質で倒す企画やって死にかけたアホがいたよな』
『ぶっちゃけボスゴブリンより遥かに強いと思う』
『こいつFラン詐欺として有名だからなw』
『お前ら途中参加勢か? ハクちゃんなら常識覆すぞ』
『まじ?』
『ボスゴブリンワンパンの次は何をするのか……』
『何があっても驚かんぞ、流石に』
『ええやん、また魅せてくれ』
『同接500超えたねー。新人時代の翠帝を思い出すわ』
『てか、またこのままボス行くのかwwノーダメだから撤退する意味がないのは分かるけどww』
――――
コメントも盛り上がってきたな。良い感じだ。
「……どうやら、向こうもやる気みたいですね」
俺は立ち止まる。目の前には一際、大きな墓標。その周囲に青白い鬼火が三つ、灯る。ゆっくりと時計回りに回転しながら、三つの炎は中心に寄って行って混ざり合う。
そしてその人魂を中心に襤褸切れのようなローブ、白骨化した上半身、それを彩る宝石類、最後に豪華な王冠を被った髑髏が実体化した。
黒い眼下にぼうっと紅い光が灯り、その手には山羊の頭蓋骨を意匠にした杖が握られる。
――――
■ベリアルリッチ
レベル:10
種族:アンデッド
■ステータス
力:3
守備:1
魔力:21
精神:444
敏捷性:4
器用さ:7
運:1
――――
予想通り魔力が高い。魔法耐性に関わる精神はまさかの400越え。逆に守備は1と言う極端な脆さ。対策を知らないと地獄を見るが、知っているとヌルゲーになるタイプの魔物だ。
「カハァァァァァァ……」
既に奴は戦闘態勢に入っているようだ。周囲に怪しく揺らめく鬼火が浮かび上がる。
「さあ、始めようか――!」
俺も両手に赤く滾る炎を生じさせた。
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