第10話 二度目の配信
翌日。俺は昨日とは別のFランクダンジョン、通称【荒地の骨山】にやってきた。
洞窟だった前回とは異なり、内部は広大な荒地が広がっていた。面白い事に漆黒の夜空と満月まで浮かんでいる。
ダンジョン内部は異空間だとか、次元が捩じれてるとか様々な論説があるが、こうして実際見てみると現実とは別のものに思える。
辺りを見渡すが初心者の洞窟と異なり、ここは閑散としていた。強さはゴブリンやスライムとは変わらないが、出てくる魔物がスケルトンやレイスと言った死体、ゴースト系だからだろう。
子供からしたらトラウマになりかねない見た目だ。更に実入りも良くないので、稼ぎ目的のディーヴァーも近寄る事はない。
なので、いつも過疎っているダンジョンと言うわけだ。
「さあ、配信を始めるか」
ウィンを呼び出し、ディバイスの配信ボタンをタップ。三つのドローンが出現する。
「皆さんこんにちは、ハクです。今日は二度目のダンジョン配信をやっていこうと思います。良かったら見ていってください」
――――
『いきなり通知着てビビった』
『こん』
『こんー』
『待ってたわ』
『ボスゴブリンをワンパンした新人と聞いて』
『ハクちゃん、こん』
『ウィンちゃんかわよ』
――――
「んん!?」
な、なんか人多くないか!?
同接数がどんどん増えていく。40…50…60…!?
「え、あ、な、なんか今日は一杯、見に来てくれてますね。驚きました」
――――
『もしかして気づいてない?』
『ハクちゃん、注目され始めてるよ』
『ボスゴブリンワンパンしといて、自覚なかったのかw』
――――
「え!?」
慌てて、過去のアーカイブを確認する。
再生数が1000を超えている。何の変哲もない、目立たないサムネなのに。
チャンネル登録者数は253人。
ちょっと待て、昨日終わった時は五人だったよな!?
「ぜ、全然自覚なかったです……」
――――
『草』
『無自覚無双系かな?』
『今日も凄いの見せてくれると期待してる』
『翠帝の記録抜いてるんだから、注目されないわけがない』
『今回の配信の内容次第じゃ、爆発的にバズるぞ』
――――
ヤバい、想定してなかったから緊張する。
まさかこんなに早く注目されるとは思わなかった。
とは言え、大勢の人の前で話したりするのはアースシアで経験済みだ。大きく息を吸い込んで平常心に戻す。
うん、大丈夫……落ち着いて、やればいい。ただ敵を倒すだけだ。
「では、進もうと思います。ウィン、行くぞ」
「うん!」
俺は棍棒を両手に持ち、ウィンは触手の先端に昨夜のガードランスやガードソードを巻き付ける。
――――
『ウィンちゃん、武器使えるの? やっぱ普通のスライムと違うよな』
『武器は昨日の配信で倒したゴブリガードの奴だね』
『ハクちゃんのコートはボスの外套かな?』
『だな』
『フード被ってくれ』
『被って欲しい』
『絶対似合うよね……』
『想像しただけで可愛さが溢れる』
『投げコメ出来ないんだが』
『登録者1000人行ってないから無理や』
『おい、お前らもっと登録しろ!』
『ネコミミ目当ての奴らばっかで草』
『まだ収益化できる人数にもなってないのにw』
――――
「……被って欲しいんですか?」
複雑な心境だ。褒められて悪い気はしないが、男で可愛いと連呼されるのは微妙な気分ではある。
魔王の身体になる前の俺は、腹筋バッキバキに割れてた細マッチョだったのになぁ。
――――
『ぜひ』
『お願いします!!』
『頼む』
『マ?』
『見たい』
――――
「あー……、良いですよ」
俺はフードを下ろす。こういう視聴者へのサービスも大事だろう。全ての要望を聞くつもりはないが、可能な限り応えていきたい。
――――
『あっ』
『このシーン切り抜けよ⁉ 絶対だぞ!?』
『かわ……』
『( ´∀`)bグッ!』
『すこ』
『尊』
『はぁはぁ……たまらねぇ』
『顔が少し赤いのが最高』
『もっとこっち見て! カメラ目線!!』
――――
加速するコメント欄。
こういう風な褒められ方は未経験なので気恥ずかしいが……。
「あ、魔物が出ますね」
タイミング良くボコり、と地面から白骨化した腕があちこちから生え出てくる。カタカタと骨を打ち鳴らし、現れたのは骸骨の剣士。錆びた剣と盾を持ち、緩慢な動きで向かってくる。
「スケルトンですね。あとは……レイスもいます」
俺はスケルトンの影目掛け、石ころを投げつける。すると、その影が厚みを持って起き上がり、顔と思しき部分に爛々と輝く目が見開かれた。
――――
『マジか、レイスの存在気づけるのかよ!』
『初心者だと割とコイツ危険なんだよね。不意打ちかましてくるから』
『ハクちゃん強くてニューゲームやってない?w 何で気づけるのよw』
『素質がレンジャーや盗賊でもスキルが育ってないと騙されるのに……』
『テイマーとは一体……うごごごご』
『可愛くて強い。完璧』
――――
「行っくよぉ!」
ウィンが素早く剣を振るう。スケルトンたちは盾で弾こうとするが、柔軟に撓るウィンの身体に括りつけられた剣はあり得ない角度から強襲してくる。
「ガッ!?」
「カタタ⁉」
鋭く振るわれたガードソードが盾を装備する腕に食い込む。勢いそのままに切断され、盾を失ったスケルトンたちにウィンが弾丸で突撃。脆い骨の身体は一発で粉々に砕け散る。
「カァァァァ!!」
そのウィンへ別のスケルトンが襲い掛かろうとするが、すかさず俺は割り込む。
「カァアッ⁉」
顎目掛け、棍棒をスイング。パカーン! と良い音がして頭がすっ飛んでいった。
死者系のモンスターは心臓を潰した位では倒せない。息の根を止めるのは頭部の完全な破壊だ。
「ハクア様、後ろ!」
「ああ」
レイスが迫っているのは分かっている。
霊体に物理攻撃は効かない――そう思われがちだが、意外と間違いだったりする。
極限まで極めれば、しっかりと当たるのだ。流石に最上位の連中には聖属性の攻撃手段が必須になるけど。
この程度なら、十分だ。
「せーの」
少しだけ勢いをつけて、棍棒を振るう。
強烈な風圧が叩きつけられ、レイスの身体は風船のように破裂して霧散した。
――――
『え?』
『は?』
『おっかしぃなぁ、棍棒でレイスさん消えてない?』
『物理攻撃で霊体倒せるのか!?』
『いやいやいやいやwww』
『ワイ、素質が聖職者。今目の前で起きてる事、理解できない』
『除霊(物理)をリアルで見れるとは……』
『え、なんかのスキル? いくら何でも、ただの打撃じゃないよね? そうだよねぇ!?』
『棍棒に聖水をしみ込ませた……のか? でも濡れてるようには見えん』
『あの武器、霊特効持ち? 誰か教えてくれ!』
『どう見てもゴブリンの棍棒です。最弱レベルの武器ですありがとうございました』
『同接300人超えてるやんけ! 新人でここまで行くのは久しぶりだわ』
『両手に棍棒持ちの蛮族スタイル配信者がいると聞いて』
『ネコミミフードが抜けてる、やり直し』
『お前らウィンちゃんの活躍も見ろよ!!』
――――
視聴者たちの反応も好調だ。
こんなに大勢から見られて戦う事は無かったから、新鮮な気持ちになれる。
――よし、今日の配信は一層気合入れていくか!
「ウィン、下がれ!」
「分かったよ!」
後方に下がるウィンとすれ違う様に前に出る。残ったスケルトンたちは俺に狙いを定め、殺到してくる。
まずは目の前の奴から。頭上から振り下ろされる剣を見切り、肉薄。素早く棍棒を顔面に打ち据え、同時に身体も破砕。
次いで、二匹目の槍を軽いサイドステップで回避。柄の部分を掴んで強引に引き寄せる。
「⁉」
大きくバランスを崩した奴の鼻っ柱へ殴打を一発。
「カハァ!」
続けて片方の棍棒を後方にいる奴目掛け、投げつける。首が捥げて沈んでいくそいつは無視し、奪った槍を手元で回転させて持ち直す。
「カハァアア!」
三匹のスケルトンが同時に剣を振り下ろしてきた。それを槍の柄で受け止め、力任せに押し返す。
「⁉」
そのまま槍を大きくぶん回し、三匹同時に頭を破壊。
慌てて逃げようとする最後のスケルトン。その後頭部に投擲した槍が突き刺さり、派手に転倒した。起き上がろうと藻掻くが、俺は近づいてその頭を完全に踏み砕く。
「ふぅ……倒しました」
コメントを見る。
あれ、止まってるぞ。
……もしかして、微妙だった? スベった⁉
――――
『うおおおお、何だ今の動き⁉』
『やっぱ二周目だ、強くてニューゲームやってるわこの子』
『おかしいって、テイマーじゃないよこれ!』
『俺、Dランクの槌使いだけどあんな動き出来ない……』
『お前のようなテイマーがいるか』
『期待の新人とかそういうレベルじゃねぇぞ!』
『ゴメン、全く動きが見えなかった』
『ちょっと拡散してくるこの配信。神回だ』
『発狂しちゃうくらいカッコイイ……』
『戦闘の次元が違う』
――――
一瞬の間をおいて、ドッと流れ始めるコメント。
良かった。スベった訳じゃなさそうだ。
「ありがとうございます。ドロップ回収したら探索を続けます」
――――
『スケルトンってこんなに弱かったっけ?w』
『いや、普通に新人からすれば結構厄介な相手だよw』
『ゴブリン以上に統率されてるからな。ただの骨と見縊って返り討ちにされるやつが一定数いる』
『マジでこの子何者なん……? 親がSランクディーヴァーとか?』
『とりあえず、分かってるのは可愛くてカッコよくて強い』
『それだけわかれば十分だな』
『だから! 可愛さならウィンちゃんだって負けてないだろ!』
『ウィンちゃんガチ勢いて草』
――――
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