第9話 最後の闇

「……あ、そう言えば」


 夕食後、ふと思い出す。さっき手に入れたスライムやゴブリンの素材を確認してなかった。

 テーブルにスライムのゼリー片と小瓶、ゴブリンやゴブリンガードが使っていた武器を並べる。


 それらをディスカバリー・レンズで確認していく。


――――


【スライムゼリー】 単価:10円

特殊効果:なし


【スライムの核】 単価:100円~

特殊効果:なし


【スライムジュース(青)】 単価:1500円~

特殊効果:なし


【ゴブリンの棍棒】 単価:30円

特殊効果:なし


【ガードランス】 単価:150円~

特殊効果:装備時、守備アップ(小)


【ガードソード】 単価:140円~

特殊効果:装備時、守備アップ(小)


【ボスの外套】 単価:440円

特殊効果:物理耐性(小)、魔法耐性(小)


――――


 ジュースが抜きん出て高額だな。

 どうもいわゆるレアドロップ品と呼ばれるシロモノらしい。色ごとに味が異なり、既存の飲料水よりも遥かに美味しいと評判のようだ。


 一説によれば、スライムゼリーを特殊な製法で煮詰めると作れるとも言われてるが真偽は不明。

 特に上位のスライムのジュースは希少性が高く、過去のオークションでは億単位での取引もされたとか。


「そんなに美味いのかな?」


 試しに一本、開けて飲んでみる。

 味は爽やかな炭酸ソーダっぽいが、何だろう……とても甘いのに喉の渇きが癒される。

 確かに美味しいわ。人気なのも納得がいく。売るのは勿体ないからこれはキープしておこう。


「ハクア様、この剣と槍、使っていい?」


 ウィンが身体を触手のように伸ばし、ガードソードを掴む。ゴブリンガードが使っていたものだ。


「良いけど、扱えるのか?」


「うん!」


 そのままシュルシュルと体内へ格納していく。スキルではなく、スライム自体が持つ保管能力だ。本来は獲物を貯蔵するための器官となる。


「棍棒とこのコートは……次の配信で使うか」


 アースシアで手に入れた最強クラスの装備もあるが、周囲への被害やダンジョンを破壊しかねないモノばかりなので使わない方がいい。

 かと言って、いつまでも素手や投石で倒し続けるのも地味だ。やはり毎回毎回、異なった戦い方で配信した方が注目してもらえるかもしれない。


 ただ、このコート……何でネコミミフードなんだ? これボスゴブリンのドロップ品だよな? あいつ、ネコミミフード被るのかよ……。

 厳つい顔のボスゴブリンが被る様を想像し……うわぁ。


 でも何気に高性能だよな。魔法耐性と物理耐性を僅かながらでも得られる。売ってもそれなりの額になる。初心者に優しい装備だ。


「あー、それならボスゴブリンの棍棒破壊しなきゃよかったな。絶対、あれも使いやすい武器だったろ」


 コートは幸い、残っていた。サイズが少し大きいが、まあ良いか。

 今後は武器やボスを木っ端微塵にしないよう気を付けよう。


「こんなもんか」


 売るものと残すものを分別し、明日の準備は完了。風呂に入って寝ようかと思った時だった。

 ザ、ザとノイズが走る。


「うん?」


 テレビではない。綺麗な画質で何かのバラエティを垂れ流していた。

 ラジオは付けてないし。隣の家か?


 そう思うとまた聞こえてくる。暫く耳を澄まして、音源を探すうちに気づく。


 脳内で……鳴っている?


 そうか、頭の中に爆弾……


<違いますよ、私です私!>


「うわ」


 突然響く声。

 でも、聞き慣れた声。別れたばかりなのに、とてつもない懐かしさを感じる。


<フィオナ?>


 聖女フィオナ・レギンレイヴ。

 そう――共に戦い、共に歩んだかけがえのない旅の仲間の一人にして、俺の命を救った恩人。


<どうしたんだよ、いきなり。てか、よくアースシアから念話を繋げられたな>


 念話は遠方の相手と会話する、いわば異世界版携帯電話みたいなスキルだ。範囲は術者の魔力次第だが、まさか世界を越えて繋げるとは。流石、神の子。


<すみません、ニッポンに帰還したばかりなのに……でも、が少し分かったんです>


「!」


 フィオナの言葉に緊張感が漲る。

 俺たちは魔王を倒し、アースシアを救った。


 それでもたった一つだけ、どうしても果たせなかった心残り。

 

 見つけられなかった最後の闇。


<何か分かったのか……? 大魔王について>


 大魔王。その名は口にするだけで妙な胸騒ぎを与えてくる。

 それは、アースシアでの旅が終わりに近づいていた頃だろうか。


 人類側に魔王の四天王の一人が寝返った。魔王軍一の武人と言われ、百戦錬磨の名将だった。しかし、彼はアッサリ白旗を掲げて全面降伏。難攻不落の要塞が無血開城となった。


 その際、俺たちは彼と顔を合わせた。

 今でも言われた内容は覚えている。


【最早、魔王の我が儘には付き合いきれない。愛想が尽きた】


【アレはただの操り人形だ。大魔王のな】


【私も会ったことはない。だが、一度だけ魔王が口走っていた】


【アースシアは大魔王様への供物だ、と】


 魔王討伐が果たされ、アースシアは恒久の平和を取り戻した。俺たちはその後も、大魔王の影を暫く追い続けたが何も得られずじまい。ないものを追っていても仕方がない、と国王にも提言され、捜索は打ち切られた。


 フィオナは俺が帰還した後も方々に手を尽くしていたようだが、先日崩壊した魔王城の書庫で興味深い魔導書を見つけたらしい。


<恐らく何かの預言書だと思います。破損が激しい上に失われた言語ですが、一部は読めました>


 ――魔の大王、空より来りて蒼き大地に恐怖を振り撒く。その支配から逃れる術はなし。


<……蒼い大地?>


 アースシアにそんな場所はない。何かの比喩表現だろうか?


<もっと詳しく調べない事には、何とも言えませんが……まだ私たちは完全なる平和を取り戻しては、いないのかもしれません>


<……そうかもな>


 戻ろうと思えば、いつでもアースシアに戻れる。それが救いだ。


<もしかして……ダンジョンと関係があるのか?>


<ダンジョン?>


<実は……>


 フィオナに現代ダンジョンの存在を伝える。少しの間、沈黙が続いた。


<何とも……言えません。でも、関連が全くないとは言い切れないでしょう。ハクア様、もし挑むのなら気を付けてください>


<分かってる。もう挑んでるけど、今のところは問題ない>


<そうだと思いました。……では私も何か判明したら、すぐに連絡します>


<ああ。フィオナも気を付けろよ>


 念話が終わり、俺は息を吐く。

 大魔王……果たして、本当にいるのだろうか?


 



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