第5話 小さな仲間
都内、Fランクダンジョン。
通称【初心者の洞窟】。
出現する魔物が非常に弱く、なりたての子供でも最深部まで進める事からそう呼ばれている。
実際、出てくるの魔物はスライムとゴブリンだけ。アースシアでも最弱争いをするくらい弱いモンスターたちだ。
「えっと、Fランクから上がるには……Fランクダンジョンを三回クリアする事、か」
ただし、同じダンジョンを周回してもカウントされない。しっかり別々のダンジョンを巡らないといけないようだ。
「……分かってたけど子供だらけだな」
洞窟内にも明るい照明が設けられ、さながら幼稚園のプレイルームのようだ。
今は夏休みに入ったばかり。親子連れの面々ばかりで、キッズサイズの剣や槍を持った子供たちが騒ぎながらスライムとゴブリンを追い回している。
時として子供は無邪気故に残酷と言うが……その通りだな。興味本位でアリの巣を潰したり、アリを水に沈めたりは大体の子供がやって来ただろう。俺もそうだ。
その対象が魔物になり、ズタボロにされて追い回されるゴブリンたちには同情したくなった。
「流石にこの中で力を使うのは不味いか」
下手したら巻き込んでしまう。どうせこのダンジョンはさっくり終わらせる予定だし、もっと奥に行くか。
俺は人混みを避け、足をダンジョンの奥地へと向ける。初心者の洞窟は地下二階でおしまいだ。下に降りるための自然の階段もすぐに見つかり、降りていく。
流石にここまでくる子供はいないようで、静まり返っていた。
「ん、じゃあ配信始めよう」
ディバイスを起動、配信ボタンをタップする。
すると淡く発光する球体が三つ、出現して俺の周りを飛び始めた。
説明書によると、これが撮影ドローンらしい。動きはAIで管理され、常に最適なカメラアングルと距離を作り出してくれる優れモノのようだ。
空間に投影されるディスプレイには【Live】と示され、恐らく視聴者数を示す人型アイコンが出てくる。現在はゼロ。当たり前だ。アカウントを作ったばかりだし、宣伝もしてない。今日は色々と試験的に試すだけだ。
アカウント名はシンプルにハクにした。
決して凝ったものにしようとして悩みまくり、何も思い浮かばなかった訳ではない。
「えっと、皆さんこんにちは。新人ディーヴァーのハクです。良かったら、見ていってください」
ドローンにそう呼びかけ、歩き出す。
暫くは道なりに進んでいくが、スキルの一つ【気配探知】は既にどこに魔物が潜んでいるかを識別している。
俺は立ち止まった。
「頭上の隙間にスライムが潜んでますね。三匹」
小石を三つ拾い、軽く投げつける。寸分の狂いなく石はスライムに当たって潜んでいる奴らは、怒って液体のように垂れ下がって落ちてきた。
スキルの通り三匹。見た目はアースシアの奴と比べると、コミカルな見た目になってて可愛かった。
ゼリー状の楕円の形に、トゥーン調の眼が付いている。一方アースシアは赤痢アメーバだからな、見た目! 本当最悪だったよあいつらは! 気持ち悪いのなんの……。
しかしこんな可愛い奴らをしばき倒すのも、それはそれで気が引けるが……仕方ない。
「……悪いな」
俺はまた石を飛ばし、狙い撃つ。今度は少し強めに放ったので、三体のスライムの内、二体のスライムは内部の丸いコアを撃ち抜かれて絶命。
驚いた事に最後の奴は僅かに身体を動かし、急所を外していた。
お前、凄いな。手を抜きまくってるとは言え、俺の石投げを躱すなんて。
でも次は外さない、と指の隙間に石を挟んだ時だった。
「待って!」
「?」
子供みたいな声が響く。しかし周囲に人気はない。スキルでも反応なしだ。
「僕だよ、僕」
「え?」
目の前でぴょんぴょん跳ねるスライム。
まさか、コイツが?
「お前、人の言葉喋れるのか?」
「違うよ、僕はスライム語しか話せないよ。言葉が分かるのは君のスキルだよ」
「俺の……?」
少し考え、気づく。
ああ、そうか。今の俺は魔王だもんな。
魔王はあらゆる魔の存在を従え、使役できる。アースシアに住まう魔物はその一匹に至るまで、魔王の下に従属した。
当然その魔物たちと会話するための言語スキルもある。今、目の前のスライムと会話できるのはそう言ったスキル類のお陰という事だ。
「ねぇ、僕を君の仲間にしてほしいな。良いでしょ?」
「仲間に?」
確か素質の一つにモンスターテイマーと言うのがある。魔物と契約を結び、仲間にするというものだ。
ただこの素質は扱いづらい事で有名だ。魔物が仲間になるかは完全に運次第。もし仲間になっても自分自身の成長と、魔物の管理までこなさないといけなくなる。
単純にタスクが二倍になってしまうのだ。だから多くのテイマーの素質を持つ人は自然とドロップアウトするか、付き合ってくれるパーティと組んでいる。
だがまず俺はテイマーではなく、魔王だ。魔物を配下にする力もあるが、アースシアの魔王の支配力を現代のダンジョンに棲む魔物にまで与えられるのだろうか?
現に他の二匹は容赦なく襲ってきたし。
「なんでお前だけが俺の仲間になろうとしたんだ?」
「あの二匹の事は分からないよ。言葉があっても会話なんて殆どしないからね。で、僕は君を見た瞬間、『あ、この人について行きたい』って思ったんだ。スライムの直感ってやつだね」
うーん……、魔王の支配力に関しては弱体化かつ、限定的になってる可能性があるな。もし最大限効果を発揮するなら、目の前のスライムは問答無用で全員従えられたはずだ。
出会うたびに仲間になりたそうな目で見られても困るので、これで良い。
「僕、こんな狭くて子供にイジメられるここから出たいんだ。もし、仲間にしてくれたら頑張って働くからお願いだよ」
真摯な目で見つめてくるスライム。魔物とは思えない雰囲気に、NOとは言えなくなる。油断させて……寝首を掻く、みたいな邪悪な思考も感じられない。純粋に仲間になりたいという想いが伝わってくる。
「……分かった、仲間にするよ」
テイマーの問題点は成長と育成の難しさだ。でも俺のステータスはもう極まっている。だからスライムの育成に集中できるし、何より面白そうだ。
「やった!!」
スライムは嬉しそうに跳ねる。
同時にディバイスの画面にスライムを仲間にしますか? と言うポップアップが出てきた。これはテイマーが魔物と契約する時に出る表示だ。システム上ではあくまでもテイマーの契約として扱われるらしい。
俺は「はい」を選択。
――主従契約スキルにより、灰藤ハクアとスライムの契約が成立しました。
そんな言葉が脳裏に浮かび上がる。
「よろしくな、スライム……ってそのままだと、呼びにくいか」
「是非とも名前を僕におくれよ」
「うーん……スラ次郎ってのはどうだ?」
スライムの眼がジト目になる。
「あの……、僕ね、一応女のコなんだ」
「へぇ!?」
スライムに性別あんの!? てっきり、ナメクジみたいな雌雄同体の単為生殖生物かと……。
「なーんかシツレイなコト考えてない?」
「い、いやそんな考えてないぞ!? そうだな、じゃあ……」
リム……冗談だ。
スラ子、スラ美、スラ代、スラ江……
「……一度、〝スラ〟から離れよう」
「だよな……じゃあ、ウィンってのはどうだ?」
「ウィン? ……良いかも! ん、凄く良い!」
どうやら喜んでくれたようだ。嬉しそうにバウンドしている。
由来はスライム、ライム、ラップ用語のライム(押韻)、押韻、おういん、ウィンだ。勝利を意味するWIN(ウィン)ともかけている。
「気に入ってくれた?」
「もちろん! えっと……」
「灰藤ハクアだ」
「ハクア様! 良い名前だね、よろしく!」
魔物を仲間、か。
なんだか魔王らしくなってきたな。
別に世界征服とかの野望は無いけど。
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