第4話 無限
翌日。
ディバイスを貰うために市役所へ向かう。ダンジョンで配信するためにはまずディバイスを貰う所から始めないといけない。
市役所に入ると、平日なのに混み合っている。理由は一つ、ディバイスを貰うためだ。殆どが親子連れだし。
だけど、いくら安全性が立証されているとはいえ、現代の子供がこんな血生臭い鉄火場に入って平気なのかな。
アースシアでも人手不足で男子なら子供でも戦場に駆り出されてたけど、こっちはそんな切羽詰まった状況ではない。あくまでも小遣い稼ぎ感覚のお遊びだ。
尤も、政府も当初は一般人にダンジョンを解放する意図はなかったようだ。
でも無断で侵入して勝手に遭難する馬鹿が多発したため、仕方なくディバイスの市販化とダンジョンの仕組みを公表、立ち入りを認めたとか。
まあ子供でも大丈夫と言われてるなら、大丈夫なんだろう。親同伴は義務付けられてるし。
番号札を受け取り、待合室の椅子に座る。置かれてる雑誌もテレビもダンジョン一色だ。
何となくその内の一冊を取る。日本の有名ディーヴァー特集、と表紙に書かれていた。
日本最高のディーヴァーは昨日のニュースの通り、翠帝。幅広い年齢層の男女に支持され、その実力も折り紙付き。
ダンジョン配信専門サイト、DD動画のチャンネル登録者数は2500万人を超えている。
その次がダブルフェイスと言うディーヴァーだ。主に女性からの人気を集める元有名アイドルユニットの一人。登録者は約1900万人。ダンジョンのボスを倒すと毎度、その場で勝利ライブを開くのが彼の特色だ。
そして、三人目が――。
「番号札、201の方、どうぞ」
確認すると、自分の番号だった。
雑誌を元に戻し、受付に向かう。
「本日のご用件はディーヴァーへの志願で宜しいでしょうか?」
「はい。そうです」
「かしこまりました。登録にあたり、犯罪歴の有無と年齢を調べさせていただきます。過去に軽犯罪も含む罪状で起訴された事はありますか?」
「いえ、無いです」
その時、微弱な刺激が全身を這う。
これは……魔法か、魔導具の類だろう。なるほど、それで調べてるのか。便利なものが出回ってるんだな。恐らくダンジョンの恩恵か。
「はい……、確認が取れました。問題ありません。ではこちらが、ディバイスになります」
簡素な段ボール箱を取り出す、蓋を開けると、スマートウォッチのような腕時計型の端末が入っていた。
「宜しければ簡単なお取り扱いのご説明も行いますが――」
「お願いします」
「はい。ではまず、腕に取り付けてください。そしてこちらのスイッチが電源です」
右手首にベルトを回し、付ける。真っ暗なディスプレイに明かりが灯り、【DISCOVERY-DEVICE】とロゴが出てきた。
「そして次にこちらの空間投影ボタンを押します」
ヴン、と音がしてホログラムのようにメニュー画面が空間に投影された。
スマホの画面のようにアプリボタンが【ステータス】【スキル&魔法】【ディスカバリー・レンズ】【アカウント】【インターネット】【配信】【設定】と並んでいる。
「ステータスは、ハクア様の現在の肉体の能力値となります。スキル&魔法はハクア様が使えるスキル、魔法の確認、そしてスキルポイントの振り分けが可能になります。説明だけでは分かりづらいでしょうから、実際に触ってみますか?」
「あ、大丈夫です。そのまま続けてください――スキルポイントですか?」
「失礼しました。はい。スキルポイントは魔物を倒し、成長した際に振与えられる数値です。成長した際にはディバイスから電子音が鳴りますので、その都度確認して振り分けると良いでしょう」
「分かりました」
ここもアースシアと同じだな。電子音はないけど。
「ディスカバリー・レンズは魔物やアイテム、財宝などの種類を瞬時に判別する機能です。しかし未だ多くの未確認の魔物やアイテムが、毎日のように見つかるのが現状です」
ダンジョンが出始めたのは俺が異世界に旅立って、割とすぐの事だ。それから一年過ぎた現在でも、新発見の連続らしい。
「もし新発見をされた場合は、ご足労をかけますが市役所の新種発見の窓口へお越しください。僅かばかりの返礼もございます」
「はい。それは、是非とも」
貰えるものは貰っておいて損はない。勇者時代で学んだ教訓だ。
「アカウントはDD動画のアカウントの作成と確認に使います。配信は項目をタップすれば即、配信状態となりますのでご注意ください」
このディバイスがカメラも兼ねるのかな。凄い機能の目白押しだ。科学の進歩ってスゲーな。
「説明は以上となります。詳細な説明書も付属致しますので、改めてご確認ください。それでも不明な箇所がございましたら、カスタマーセンターへお電話ください。オペレーターへの直通となります」
そして最後に重要な事です、と受付の人は告げる。
「ステータス画面で確認できますが、ハクア様のディーヴァーランクはFランクです。Fより上の難易度のダンジョンに入る事は禁止されており、破ると何らかの処罰が下される場合がありますので、絶対に立ち入らないようにお願いします」
やはりそういうルールはあるか。今の俺で初心者のダンジョンなんて遊びにもならないけど、決まりは決まりだ。しっかり守ろう。
「はい、わかりました」
「――では、ディーヴァーライフをお楽しみくださいませ」
*
市役所を出て、すぐにディバイスでステータスを見る事にした。異世界帰りの俺のステータスは果たしてどれほどか……
――――
■灰藤 ハクア
レベル:∞
ディーヴァーランク:F
素質:魔王(勇者)
■ステータス
力:∞
守備:∞
魔力:∞
精神:∞
敏捷性:∞
器用さ:∞
運:∞
――――
「まあ、知ってるんだけどね」
こうなるって。だから受付の人の前ではやらなかったんだよ。絶対、驚くし。
で……素質ってのは多分アースシアで言う職業の事だろう。
「えーと、説明書には――素質は個人によって決まる。レベル1の時点では素質は空白だが、レベルアップ時に判明する。素質を変える方法は存在せず、一人につき素質も一つが原則……と」
うん、既にガッツリ魔王(勇者)って二重に示されてるな! レベルも∞だ! すごーい!
……ふざけるのはこの辺にして。この世界でも素質に勇者や魔王なんてあるのか? 調べた限りでは公的な記録には乗ってないっぽいけど……。それをしっかり反映させるディバイスも凄いわ。
スキルと魔法の項目を開くと、百科事典の目次みたいに活字がギッチリと並んでいる。
はいこれ全部、スキルですよ! 下の方に長々とスクロールするとようやく魔法の項目に辿り着く。こっちも隙間なく文字が書き出されていた。
「なんか、ズルしてる気分になる……」
い、いや、でもこれは努力の結晶だし!
一杯死んで辿り着いた極地だし!
それに相手は何十億と稼ぐスタープレイヤーたちだもの。そんな化け物揃いのレッドオーシャンで収入を安定化させるだけでも大変な努力がいる。
目標はブラック時代の給料越えだ。
だからそのためにもこの力、最大限に使っていこう。
「よし、早速行ってみるか!」
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