第3話 ダンジョン


 俺が異世界へ向かった直後、この世界は結構凄い事になっていたようだ。

 何でも突然、世界中の至る所にあの塔みたいな奴や巨大な洞窟、空の迷宮と言った、俺がアースシアで散々見てきたようなダンジョンが出現したという。


 どういうことなの……?


 政府は内部の調査のために自衛隊を送り込むが、中に巣食う異形の生物の度重なる襲来に耐え切れず撤退。他国の軍隊も大体同じような結末になったらしい。


 しかし各国との協力や各関係省庁の努力により、政府はダンジョン調査の糸口を見つけ出した。

 魔物を倒すと成長するのだ。肉体的、精神的な意味ではなく、戦闘力的な意味として。


 つまり……、スキルと魔法を覚える。この仕組みはアースシアと同じだ。戦えば強くなれる。


 そして一番最初に日本で観測されたダンジョンの奥地で、一枚の石板が持ち帰られた。その石板は触れたものの能力を見せる……要は俺が使えるステータス・オープンみたいな力を持っていた。


 政府はその石板を元にディスカバリー・デバイス、略して【ディバイス】と言う専用端末を発明。これで国民の誰もが石板に触れずともステータスを見れるようになり、更に便利な機能もいくつか用意された。


 まさに世は大ダンジョン時代。

 皆が一攫千金や配信で大バズリするのを夢見て、ダンジョンに挑む熱狂の渦中だ。


 墓参りの途中で図書館に寄って新聞を読み、大体の経緯を把握する。これも一種のカルチャーショックか……。

 魔物にダンジョンと言うワードをまさか、現代に帰って大真面目に聞くとは思わなかったぞ。政府の官房長官が真顔でダンジョンだのスキルだのと言うのには、思わず笑ってしまった。


 しっかし、地球にいてスキルと魔法を覚えられるとはね。アースシアで習得した数々のスキル、魔法とはまた違うものになるんだろうか? その辺はちょっと興味ある。


「親父、お袋……墓参りできなくて悪かったな」


 霊園の片隅に立つ墓の前で語りかける。雑草に埋もれ、汚れも酷かったが魔法で綺麗さっぱりだ。途中の花屋で買った花を立てて、線香に火を灯す。


「こんな姿になったけど、何とかやっていくよ。だからこれからも見守っててくれ」


 最後に手を合わせ、俺は両親が眠る墓標を後にした。


 *


 家に帰り、テレビをつける。夕方のニュースでも当たり前のようにダンジョンの話題を取り上げていた。

 有名なあの人が活躍! とかあそこのダンジョンが難しく、怪我人続出とか。


 調べた限りだと、高難易度のダンジョンでは普通に死亡した事例もあるようだ。ただ、政府が定めた法ではダンジョン内で魔物に殺害されたケースに限り、自己責任となる。

 それを利用した殺人や傷害の事案もあるようだが、その辺は臨機応変にやってるようだ。


『では、続いてのニュースです。今日は日本で一番人気のディーヴァー、翠帝さんに来て頂きました!』


 女性リポーターと、スーツ姿でゴツイ身体つきの不愛想なオッサンが出てくる。

 ディーヴァーとはダンジョンで配信をする人の事をそう呼ぶらしい。


 暫くは取り留めのない質問が続いていくが、とんでもない言葉がリポーターから飛び出す。


『翠帝さんの年収はなんと六億と言われてますが、本当なんでしょうか?』


「ろ、六億ゥ⁉」


 俺は飲料水の聖杯で出したモンエナ(アメリカ限定のバニラ味)を口から吹き出しそうになる。

 六億って……おいおい、俺が国から貰った魔王討伐の報奨金よりスゲーな……アレは日本円でいくらになるんだっけ? 確か五億か、そこいらだったか。


 まあ、仲間たちと山分けしたので実際の取り分は9000万くらい? 今も道具倉アイテムベイの中に放り込まれている。これが円に換金できればなぁ……。玩具のお金と思われて追い払われるか、警察を呼ばれるかの二択だ。


『そーですね。でも世界のディーヴァーたちは10億くらい余裕なんで、自分はまだまだです。なのでもっと上を目指したいです。自分、上昇志向なんで』


『な、なるほど……』


「………」


 スマホで『ディーヴァー 年収 世界』と調べる。

 現在、最高額を叩き出したのはアメリカのディーヴァー、ミスターDと名乗る人物らしい。その額は何と6,237万9,998ドル、日本円で90億……?


「冗談だろ……」


 雲の上の出来事過ぎる。


 確かにダンジョンは未知の資源が眠るようで、政府が全面的にバックアップしてる国も多々ある。日本はその面では遅れており、日本最高のディーヴァーである翠帝も世界的にみるとかなり下に位置している。


「良いなぁ……それだけあれば安心して暮らせるじゃん」


 ディーヴァー……めっちゃ興味をそそられる。


 やってみるか……?


 スマホで色々と調べていく。


 どうやら最大の人気ジャンルはダンジョンに潜り、攻略していく様を配信するスタイルのようだ。

 配信者は魔物の素材や財宝、アイテム、視聴者からの投げ銭で稼ぎ、視聴者は刺激的な映像でスリルを楽しむ。正にWin-winな関係となる。


「攻略配信が一番見て貰えそうだな」


 他にも様々なジャンルの配信があるが、やはり注目されやすいのは攻略配信だ。

 それならば、俺にはアースシアで鍛えたこの力がある。魔王だって倒せたんだ、そこらの魔物相手なら余裕だろう。


 何よりもディーヴァーになれる条件も緩いのが魅力だ。年齢が10歳以上である事、犯罪歴が無い事。ただそれだけ。俺みたいな素性不明でも、犯罪さえ犯してなければOK。


 むしろ就ける仕事はこれしかないだろう。

 俺はまたスマホでディーヴァーについて深く調べていくのだった。


 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る