第6話 一撃必殺

「あ、そうだ。配信は……」


 俺はディバイスのウインドウをチェックする。

 同接数は三人になっていた。何の宣伝もしてないのに、来てくれる人はいるんだなぁ。有難い。


 ――――


『スライム仲間にしたって事はテイマー系か。前途多難な素質だな。仲間に出来るだけ運が良いが』

『でも今、スライムと会話してたよね。初心者で魔物の言語スキル覚えてるのは凄いよ~』


 ――――


 コメントも書き込まれたようで、ログに残っている。


「コメントありがとうございます。そうですね、一応テイマーになります。初心者なので色々と見苦しい所もあるかもしれませんが、良かったら見ていってください」


 流石に魔王と言う訳にはいかないので、モンスターテイマーで誤魔化す。……少なくとも嘘はついていない。多分。


 ――――


『今日はどこまでやるとか決めてます?』


 ――――


 またコメントが書き込まれた。


「ご主人、何見てるの?」


「とりあえず、クリアするまで――おい、ウィン?」


 興味津々なのか、ウィンが肩に飛び乗ってウインドウを覗き込んでくる。


 ――――


『かわいい』

『こうやって見てると、テイマーも悪くないんだよなぁ。ペットみたいで』


 ――――


「人間のコトバ、分からない……」


「褒められてるぞ、可愛いって」


「え、本当に⁉」


 照れてるのか、少し頬を染めてプルプル震えている。

 確かに可愛い。アースシアのアメーバ野郎は見習ってくれ。


 ――――


『ハクちゃん、アイテム回収忘れずにね』


 ――――


「あ、そうですね。ありがとうございます」


 一番大事なのを忘れていた。

 俺はスライムの死骸をまさぐり、小さな石ころを回収する。


 魔縮石。魔物の体内で生成された、魔力が凝縮した塊だ。どのような過程で生まれるかはまだ不明だが、非常に濃度の高い魔力で作られている。

 その使い道は多岐に渡る。ダンジョン用の武器防具アイテムの作成に使われるだけではなく、電気、ガス、燃料etc……あらゆるエネルギーの代替物だ。最高レベルの魔縮石なら、小石サイズで日本中の原子力発電所のエネルギーを凌駕してしまう。


 当然政府はこの石を積極的に買い取っていて、ディーヴァーたちの大きな収入源の一つだ。他にも純度の高いものは見た目も素晴らしく、好事家たちが億単位で取引するとも言われている。


 流石にFランクダンジョンの魔縮石は、精々単三電池程度のエネルギーしか貯蓄してない。それでもまとめて売れば数千円単位の売り上げになる。子供たちの小遣い稼ぎとしては格好の場所だ。

 

 拾い上げた黒い石ころにディスカバリー・レンズを向ける。画面に検索結果が出てきた。


 ――――


 【魔縮石・極小(黒)】 単価:70円~


 ――――


 スライム一匹から取れる魔縮石は大体、一個か二個。運が良いと四個くらい出るらしい。

 俺は二匹のスライムから五個ずつ、計十個手に入れた。流石、運∞。


 他にはスライム自体が落とす素材だ。ゼリー状の断片がいくつかと、コア、他には綺麗な小瓶に入ったアイテムが落ちていた。

 全部調べたいが、配信がグダるといけないので先を急ぐ。


「それでは、奥に進みたいと思います」


 *


 ウィンの育成も兼ねて、ゴブリンの相手は任せる事にした。スライムは物理耐性を持つのでゴブリンの攻撃は全て無効化に出来てしまう。

 逆にスライム同士だと、互いの攻撃が決定打に欠けて泥仕合(実際なりかけた)になるので俺が始末する。


『さっきから気になるんだが、その投石何なん?w 物理耐性持つスライムの核を撃ち抜くって、初心者の火力じゃないんだがwwもしや、上位ランクのサブ垢か?』

『テイマーの上位ランクって限られてるから違うでしょ。チャンネル登録者も0人だから本当の初心者だと思うよ。確かに威力おかしいけどw』

『マジかwじゃあ登録して今の内に古参名乗っとくww』

『俺も。なんか大物になる気配がする』


 ピコン、と電子音が鳴る。チャンネル登録された音だ。


「チャンネル登録、ありがとうございますー。この投石はただ投げてるだけですよ。少し、身体鍛えてたので」


『へぇ、ソフトボールかリトルリーグでもやってたん?』


「まあ……、そんなところです」


 視聴者と雑談がてら、敵を倒して進む。

 そろそろこの辺でウィンの状態をチェックするか。


 ディバイスのステータス画面を開く。ちなみに覗き見防止の処理が掛かってるので、配信画面には映らない。


 ――――


 ■ウィン

 

 レベル:2


 種族:スライム


 ■ステータス


 力:1

 守備:6

 魔力:4

 精神:1

 敏捷性:23

 器用さ:1

 運:5


 ――――


 敏捷性がスライムにしては頭一つ抜きん出て高い。石投げを躱せたのも納得だ。ゴブリンを狩り続けたのでレベルも上がっている。

 アースシアのアメーバと比較しても、こっちの世界のスライムの方が強いな。


 ――――


 ■スキル


 吸収:獲物を取り込み、栄養に変える。傷ついた身体を癒す


 弾丸:体を硬質化させ、相手に突撃する


 物理耐性(小):斬撃、打撃、突撃等の物理攻撃に耐性を持つ


 ――――


 この弾丸と言う奴が地味に強い。ゴブリンはこれを食らうと一撃でダウンする。しかし上の階で子供に追われていたスライムたちは、使ってくる様子がなかった。現状、ウィン以外のスライムは覚えていないと結論付けている。


「この弾丸ってスキル、どこで覚えたんだ?」


 なお、魔物はスキルポイントは得られず勝手に習得していくらしい。自由にスキルの振り分けが出来ないのも、育成の難しさに拍車をかけている。


「ん? 分かんない。気づいたら使えた」


 弾丸でゴブリンをしばいたウィンは、容赦なく飲み込んで消化しつつ答える。

 割とショッキングな映像だ。クリオネの捕食シーン的な感じがする。


 なお魔縮石や素材は食べずに放出される。不味いとの事。


『グロ画像判定されたのか、モザイク掛かってて草なんだわ』

『可愛くても魔物だもんね、ウィンちゃん……』

『なんか興味本位で開いたら、いきなりモザイクで笑っちまったww』


 同接数は五人。始めててこの人数は上々だろう。


「ここが最深部ですね」


 一本道の洞窟を歩き、十分ほど。目の前には石造りのドアがある。

 いわゆるボス部屋への扉だ。この先にダンジョンの主が居座っていて、コイツを倒せばクリアとなる。


『めっちゃサクサク配信やん! 初心者でボス部屋前まで来るとか凄いな!』

『これが初配信だよな? 有望すぎる』

『攻撃も一度も食らってないし、ちょっと強すぎんよw』


 コメントも少しだけ賑わっていた。良い感じだ。もっと湧かせてみるか。


「はい、ではこのままボスへ挑もうと思います」


 俺はドローンに向かって宣告する。


『は、え? マジ?w』

『いやいやいや、止めとけ流石に⁉ 無謀だぞ!』

『ええやん、やってみな』


 沸き立つコメントを尻目に、扉を開ける。

 ギィ、と開かれた扉から明かりが部屋の中に差し込んでいった。


「……あいつがボスか」


 普通のゴブリンより一回りも二回りもデカい奴が立っていた。周囲にはお供と思われるゴブリンも数名。心なしか武装も外にいる奴より豪華に見える。


 ディスカバリー・レンズで調べると、『ボスゴブリン』『ゴブリン・ガード』と出てきた。俺を見た途端、威嚇するかのように激しく鳴き立てる。


 ――――


 ■ボスゴブリン


 レベル:10


 種族:ゴブリン


 ■ステータス


 力:20

 守備:11

 魔力:0

 精神:1

 敏捷性:3

 器用さ:1

 運:3


 ■ゴブリンガード


 レベル:6


 種族:ゴブリン


 力:8

 守備:9

 魔力:0

 精神:1

 敏捷性:4

 器用さ:1

 運:2


 ――――


 ボスとそのお供なだけあって中々に強いな。

 特にボスゴブリンのパワーは、ウィンの耐性でもきついかもしれない。


「ウィン、周りのゴブリンは全部食っていいぞ。ボスは俺がやる」


「分かった! ご馳走だね!」


 さて――、始めるか。

 俺は軽く腕と首をコキコキと回し、ゴブリンガードの群れへ向かっていく。ただ、散歩をするかのような足取りで。何も警戒するまでもなく。


「ぐ、ガアアア!!」


 そんな俺に一瞬怯んだボスゴブリンは咆哮を上げた。周りのゴブリンガードたちがそれに反応し、こちらへ殺到してくる。


「ごっはん、ごっはん~!」


 対し、鼻歌混じりのウィンが飛び跳ねて向かっていく。


「ギギィ!」


「ギャッギャ!」


「ギギャー!」


 ウィンに次々と槍や剣で攻撃するが、弾力のある身体に全て弾き返されてしまう。


「いっただきまーす!」


「ギャアアア⁉」


 そして弾かれて倒れた一匹のゴブリンを飲み込んでいった。


「グオオオ!!」


「おい、お前の相手は俺だ」


 部下たちの悲鳴にボスゴブリンは駆け寄ろうとするが、立ちはだかって阻む。


「グゥオオオオ!!」


 邪魔だと言わんばかりに、振り上げられる巨大な棍棒。

 人間ならどこに当たっても一発でお釈迦になりそうな迫力だ。


 ――、だけど。


 俺はその棍棒を、デコピンで打ち返す。


「――⁉」


 爆発したかのように粉砕される棍棒。それを見て、目を見開くボスゴブリン。


「終わりだ」


 普通に石を投げようかと思ったけど、ボス戦は派手にやった方が見栄えが良いかな?

 そう考えて俺は小石を親指の上へ乗せ――、弾き飛ばす。


 投擲スキル『指弾』。極めるとその破壊力は、主力戦車の砲撃を超える。

 ズドン!! と弛んだ腹に巨大な風穴が穿たれ、頭と両腕以外の部分が綺麗に消し飛んでいく。


 暫し、何が起こったのか分からない、といった顔つきで呆けるボスゴブリン。視線が下に向かい己の惨状を把握した瞬間、白目をひん剥いて地面へ落下した。


「ごちそうさまー」


 ウィンの気の抜けた声。最後のゴブリンガードが消化されていくところだった。

 俺はドローンに向かって頭を下げ、告げる。


「はい、Fランクダンジョン『初心者の洞窟』クリアしました。良かったらチャンネル登録お願いします!」

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