第4話 哀
ー三ヶ月後ー
「おい、どうした? 授業の時間はとっくに過ぎてるぞ」
入りしなに三崎が彼女に声をかける。
「……」
無言でクビをフルフルと振る。
その視線はハムスターのケージを見つめたまま離れない。
「そればっかり見てないで行くぞ!」
「みんな動かないの……」
「もう寿命だからな」
「え? どういう事?」
「そいつらは万が一事故が起きても自体を終息させやすいように寿命を予め決められているのだよ、3ヶ月とな」
「そ、そんな……」
「他人事じゃないぞ、お前にも同じような処置するはずだったからな。
吾輩はその命令無視して逆に不老長寿にしたせいで汚名をきせられて追放されたのだよ。
もっとも、すぐ死んでいたら上から何言われていたか分からないから、吾輩の判断が正しかったわけだがな」
「そうだったの、ありがとう」
「そいつらはもう死ぬ、理解したなら授業行くぞ」
「待って、最後まで看取らせて」
「うーん、仕方がないな、今日は休むと連絡入れておくから、君からも謝っておくように」
「うん、ありがとう」
「君に親しいものの死という状況を経験させる事が出来るのだから、良しとしよう」
「どうして、そういう言い方するの?」
「事実だからな、喜怒哀楽で君が一番足りてないのは間違いなく『哀』の感情だ」
「貴方だって名前付けてくれたじゃない!」
「個体判別するのに便利だからな」
「ハムワンは元気でいつも先頭だった。
ハムツはハムワンの後ろをいつもついて歩いてた。
ハムスリは食いしん坊で最後までご飯だべていた。
ハムフォは一人だけ女の子で大人しくて。
ハムフィフはのんびりさんで、ハムスリにご飯食べられちゃっていつも私が後であげてたの。
ハムシクは一番の甘えん坊、私が手を入れるとずっとくっついていたわ」
彼女の青い瞳から止めどなく涙が溢れる。
「それだけ思われたならこいつらも本望だろう」
「助けて……この子達を助けて……」
「無理だな、処分されるはずのものをここまで生きながらえさせた。
これ以上はどうする事も出来ない」
「そんな事したって三ヶ月しか生きれないなんて! 意味ないじゃない!」
「なんの役にもたたず失敗作として処分されるはずだったものが、君の情操教育に役立った。 これらの死に意味ができた。 充分だろう」
「分からない! 分からないわ!」
「分かる必要は無い、情報として記憶しなさい」
「アァァァァ!」
彼女は哀しみに耐えられず、暴走した。
ー数時間後ー
どのくらい時間が経ったか分からない。
我に返った彼女の目に映ったものは、両手両脚が引きちぎられ横たわる三崎だった。
「あ、あ、違うの……傷つけたかったんじゃないの……」
「き……気にするな……これを見ろ」
三崎は自分がいつも身につけている心臓型のペンダントを見せつける。
「これは……アーティファクトだ……これの中で俺は生き続けられる……だから、君にこれをあげよう」
「これがあれば貴方と一緒にいられるの?」
「あぁ、愛するものに殺されて、殺した方も吾輩を愛していれば……だけどな」
「それじゃあ、無理じゃない! 貴方が私を愛してくれてるなんてないもの」
ニヤリと三崎が笑う。
「意外だろ? 吾輩が……君を愛していたなんて」
「そうなの! 私を愛してくれていたの! でも、でも、私は貴方を愛していたのか分からないわ! 私は愛するって分からないもの!」
「その顔を……見れば……おそらく大丈夫……だと信じてる……」
泣きじゃくりグシャグシャな顔の彼女を見ながら、三崎は冷たくなっていった。
【後書き】
お読み頂き、ありがとうございます。
この作品はカクヨムコン参加作品です。
カクヨムコンは星の獲得が非常に重要になりますので、少しでも入れて頂ければ作者は泣いて喜びます。
長編も書いているので良ければ見てください!
https://kakuyomu.jp/works/16818093081579462826
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