第3話 出戻り
「はい、今日から、はい、はい、では」
事務で手続きを終えた男が廊下を歩き出す。
精巧な子供の心臓を模したペンダントがそれに釣られて胸元で揺れる。
カツーン、カツーン、と乾いた足音を鳴らしながら、電子パッドにダウンロードされたデータを眺めていく。
「あ、ここか」
目的に場所のドアを開けた。
病院の個室のような部屋のベッドの上には、華奢な女の子がちょこんと薄いピンクの入院着姿で座って居た。
「誰?」
青い髪の美少女は怯えた小動物のような表情をしてドアを振り向く。
「上条三崎、君の担当になった研究員だ。
元々君達を開発するベースは私が作ったのだから、いわばホムンクルスのスペシャリストだな。
しかも私は今、人間の感情、特に『愛情』というモノを研究している。
大船に乗った気持ちでいたまえ」
「愛……情……?」
コテンと小首を傾げて、青い目が?マークに見える。
面白いもので、実際そうなっていないのにそう見える錯覚を覚える。
「そうだ、今君に必要なモノだ!
もっとも私には全く理解出来ない感情だが、研究しているので知識は万全だ! 安心したまえ」
「貴方は私が怖くないの?」
上目遣いで見つめるその眼は、疑問と僅かな恐怖心と、もっと僅かな期待が込められていた。
「怖い? ただの被験者である君を? 何故?」
「私、人殺したよ? あとから来た人もいっぱい傷つけたよ?」
声が少し震える。
「人も所詮動物のカテゴリーの一つでしかない。 間接的なものを含めれば動物を殺して居ない人間など居ない。
人は何かの死の上でしか生きられないのだから、今更人を殺したくらいでいちいち驚いても仕方がなかろう」
胸元のペンダントを触りながら、三崎はそう答えた。
「そうなの?」
「少なくても、人を殺した事を気にする分、私よりは感情的だな」
「私って感情あるの?」
また、コテンと小首をかしげる。
癖なのかもしれない。
「映像は確認している。 明らかに怒りが見えたな。 それに一瞬笑っただろ? 喜怒哀楽の怒と楽は間違いなく存在するし、他の感情もおそらくあるだろう」
「喜怒哀楽に愛情はないよ?」
「安心したまえ、私の研究では哀は愛に通じるという仮説が既に完成している!」
「仮説って完成するものなの?」
「有象無象では無理かもしれないが、吾輩くらいの天才になれば仮説でも完成するのだよ」
「それってあってるの?」
「なに、間違っていたら新しい仮説を完成させるので問題ない」
「ふふっ、あなたって面白いのね」
「おお! 今のは喜怒哀楽の喜だな! やはり仮説は完成していたな!」
「全然関係ないじゃない」
そう言うと、彼女は産まれて初めて笑ったのだ。
不覚にも彼女の笑顔に見惚れてしまった事は内緒だ。
ー翌日ー
「今日から、これを飼育してもらう」
そう言って彼女の前に六匹のハムスターを持って来た。
「この子達はなに?」
「実験で成果が出なかったので廃棄予定の動物、いわば君の同類だな。
君も成果が出なければ廃棄されるから、兄弟だと思って面倒見るように」
「この子達って私が面倒見ないと殺されちゃうの?」
「ああそうだ、君の情操教育の為に回収して来たからな、君が拒否するならこのまま焼却炉だ」
「頑張って面倒見るわ!」
「うむ、頑張りたまえ。 それと理論的な感情に関してはアニメを見るのが端的に表現されていて分かりやすいので、暇な時間はこのサイトにある作品を無作為に見なさい」
「いつも暇だよ?」
「それだが、正式にMSKのカリキュラムが開始されるので、一般教養、対モンスター戦闘術、対人戦闘術、交渉術の授業が始まる。
精進するように」
「えぇぇぇ……」
彼女の口がへの字になる。
「ふむ、きちんと感情を発露出来ているようだな」
三崎は満足そうに頷いた。
【後書き】
お読み頂き、ありがとうございます。
この作品はカクヨムコン参加作品です。
カクヨムコンは星の獲得が非常に重要になりますので、少しでも入れて頂ければ作者は泣いて喜びます。
長編も書いているので良ければ見てください!
https://kakuyomu.jp/works/16818093081579462826
この作品を『おもしろかった!』、『続きが気になる!』と少しでも思ってくださった方は↓の『☆☆☆』を『★★★』に評価して下さると本当に助かります。
よろしくお願いします。
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