白い悪魔

サクリファイス

白い悪魔

 なんの変哲もないとある日、私は白い悪魔に襲われた。

 今思えば、何故襲われるに至ったかの目星はつく。全ては私の怠慢だった。気をつけていれば、面倒くさがらないでいれば、きちんと確認をしていれば白い悪魔に襲われることはなかったのだ。

 奴は、唐突に訪れた。否、唐突に私に攻撃を始めた。危害を加えてこなかっただけであって奴は家に帰って来た時から私の側にいた。そして、私が気づかない間に私の体内へ侵略を始めていた。

 晩飯を食し、風呂に入り疲れを癒やし、最高の寝床が私を迎える。布団に潜り込み一息。

「今日もお疲れ〜。」

自分で自分を労い、意識を手放そうとしたときだった。

「オェ...。気持ち悪ぃ...。」

急激に吐き気を感じ思わず布団から飛び起きる。至福の寝床でぶちまけてるなんて最悪だ。戦場まで疾走し、ひざまずいて深淵へと繋がる水流へ顔を向ける。胃袋の奥から晩飯が上がってくるのを感じた。ハンバーグにポテトサラダ、白米にコンソメスープそしてカフェラテ。

「オェェェェ!!」

胃袋の中身が流れていく。ゲロったときに臭う消化中の食い物のあの臭いと同じたぐいの臭いよってさらに吐き気が促進される。胃袋は空だというのに胃液を絞り出すかのようにゲロり続ける私。ようやく落ち着いたと、一息つく。

「ゲロっちまった...。うぇ、まだキモチワル...。」

どうやら服に悪魔の残滓が散ってしまったようで、悪臭は依然として私にまとわりついたままだった。浄化場まで汚れた衣服をもって行き、洗う。

「ふえ〜死ぬかと思った〜。」

浄化した衣服を浄化装置へブチ込んだ。口内を浄化し今度こそと床につく。

だが、悪魔の侵略は終わっていなかった。

その痛みは突然訪れた。何者かが胃腸を引っ掻き回しているのではないかと錯覚する程の痛み。痛みのする場所から、次に何が起こるか察した私はまたしても先程の戦場へ赴くのであった。

「上の次は下かよ...。」

かすれた声で悪態をつきながら、戦闘器の座席に着座。

腹の中でなんかがグルグルまわってる...。こいつが俺の中で暴れてるのか。なんだ何が原因だ?新品のコピー用紙をミスって捨てたことか?白いペンキの入ったバケツを蹴飛ばしちまったことか?それとも、あの白い機械のパイロットの白すぎる光に文句を言ったせいか?なんだなんだなんだ?

「ゥゥゥ...。」

来やがった第一波。猛烈に腹の中の悪魔が暴れ始める。声にならないうめき声をあげながら格闘するも、ひどくなる一方。

うああああ、うぐうううう、だとかいう苦しみの声だけが響き渡る。

何十分たっただろうか、戦場から出てきたのはゲッソリとした男。数多の戦場を駆け抜けてきたかのような疲労具合。何も考えることなく布団へ倒れるようにして眠りについた。どうやら悪魔をなんとかすることができたようだ。

 翌朝目を覚まし。昨晩の悪魔について考える。

俺の体内で暴れ倒したアイツは何者なのか、どこで憑かれたのか。

昨日の行動を振り返る...。

?!

「まさかとは思うが。」

悪魔の正体に感づいた俺はまっしぐらにヤツの元へと走った。紙の中に封印され、冷気を纏っているそれは、二ヶ月前から俺を襲う準備をしていたらしい。なるほど、疲れていてよく気付けなかったのか。

「やれやれだぜ。」

そう言いながら俺は白い悪魔を、暗い暗い穴の中へ捨てた。

今後は気を付けないとな...。



カフェラテにブチ込んだ『賞味期限二ヶ月切れの牛乳白い悪魔』。

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白い悪魔 サクリファイス @raurua

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