第47話 戻った平穏
朝、とんでもなくむさ苦しい部屋で伊織は目覚める。
伊織、蔵之助、五社、辰巳、それにもう一人、忠助。狭い部屋に男五人で枕並べて、むさ苦しくないわけがない。
「狭い! どうにかならないんですか、これ!」
隣で寝ている蔵之助を伊織はグイッと向こうへ押すが、微動だにしない。
まだ朝餉を準備するにも刻限は早い。
本来なら、このままもう少しまどろんでいたいところであるか、どうにもこんな状態では、寝ようにも眠れない。
元々は、伊織と蔵之助と五社の三人で寝ていた部屋。もう一部屋あるにはあるのだが、ここよりもずっと狭い。
辰巳が忠助と二人で狭い部屋に割り振られるのを、二人とも互いに体が大きいことを理由に、嫌がったのだ。
どうやら、強面で体の大きな忠助を、辰巳は怖がっているようだ。
共に生活して人となりが分かってくれば、互いに馴染んでくるのであろうが、それまでは、時間もかかる。
寝る時の部屋割りで、五人は大いに揉めたのだ。その結果がこれ。
揉めるぐらいならば、いっそ全員で寝ればいい、その方が楽しいであろうという蔵之助の意見に、辰巳と忠助が賛成して、この地獄のような有様になったのだ。
蔵之助に踏み潰されて、五社が眉間に皺を寄せながら寝ている。
辰巳と忠助は、互いの腹に蹴りを入れないがら寝ているが、大丈夫なのだろうか。
賑やかになったものだ。
五社と五社に拾われた子ら三人とタマ。それで細々とやっていた道場に、大人が二人に、陽介も入ってきた。
陽介は、意識が戻ったもののまだ枕が上がらないので、由岐が部屋で世話をしているが、そのうちに陽介も目を覚まし、道場で生活を共にするようになるであろう。
「こんな大人数。どうやって食い扶持を稼ぎましょうか」
伊織は、密集する室内を見て、ため息をつく。
当分は、漬け物だけの食卓になりそうだ。
「伊織、起きておったか」
ふすまを開けて入ってきたのは、タマであった。
「タマさん、おはようございます。由岐達はどうですか?」
「ふむ、大事ない。陽介も粥を食えるようになって、ずいぶん元気を取り戻しておる」
「良かったです。頭痛がすると言っていたと、由岐に聞いていたので、案じておりました」
タマから様子を聞いて、伊織は安堵する。
無念ネズミに長く操られていた人々は、どうやらことごとく不可解な頭痛に悩まされているようだ。
黒雲の中から助け出された人々の世話を引き受けてくれた住職が、道場にきた時にそう話してくれた。
そして、それは陽介も同じであった。
突然頭が割られるようか頭痛がして、眩暈と吐き気で倒れ込むのだ。
由岐はずいぶんと心配していた。
「不思議ですよね。蔵之助も……それこそ長く無念の元にいた忠助も、そんな頭痛はなさそうですのに、なぜ、陽介や他の者は、そのような症状があるのでしょう」
伊織が首を傾げれば、タマもフム……と言って、黙り込む。
「タマさんも、原因に心あたりはありませんか」
「ないの。あれこれと、原因ではないかと思うことはあっても、それは憶測にしか過ぎん」
「どうすれば良いのでしょう?」
「そうじゃのう……一度、専門家に聞いてみるか」
「専門家ですか?」
妖であるタマ以上の専門家がどこにいるのだろうかと、伊織は訝る。
「おおそうじゃ。良い機会じゃ。一度、伊織も会ってみるかの?」
タマは、喉をゴロゴロと鳴らしてそう言った。
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