第13話 神様(仮)は藍那の現状が気になるのかもしれない
お父さんが帰って来てから、私が珍しく笑った話で盛り上がり、いつもの就寝時間より遅くなってしまった。
23時、布団の中に入り、久しぶりに夢でも見たいなと考えていたら、眠りの世界じゃない神様の住まう空間に流れてしまった。
白く何もない空間が、味気ないと感じれるようになったのは成長の証ととらえていいかもしれない。神様として戻った暁には、この空間には自分の好きな物を用意しようと心に決めた。
「ずいぶんと楽しそうじゃないか」
「神様(仮)じゃないですか。大変お久しぶりです」
敬っているように受け取ってもらえるよう、深く頭を下げる。神様は健康などは一切変動しないはずなのに、どういうわけか、目元にクマがあり、生気が感じられない。( 仮)であるとはいえ私の力を分け与えているはずだ。何かがない限りはそう簡単には「壊れない器」にしていた。
こいつ、因果を壊すような真似を何かしたな?
最高神が手を出していないということは、まだ猶予があるのか、私がしっかりとけじめをつけるのを見たいのか、どっちかしか想像がつかない。
「お前、俺の体に何かしたか?」
「特に何もしてませんよ。神様の空間にいることができるように調整だけはしましたが」
それでもどこか苦しそうに胸元を抑えている。私の予想は多分当たっている。
私が人間として生活できる時間が短くなってしまうのは納得できないな。できれば人生八十年くらい生きたかった。結婚して子どもを産んで、孫の顔まで見てみたい。
両親にもう少し子どもらしく甘えてみたいとか、私の野望は沢山ある。
折角生きる時間を交換できたんだから、最大限に楽しみたいのに。
しゃがみ込んでいる神様(仮)に視線を合わせるように、私もその場にしゃがみ込む。
明日も学校があるから、話が早く終わるといいなって考えているのは内緒だ。思っているよりも神様(仮)は人間味がとてもある。
凄く良いことだ。
良いことなのかな。神様になり切れていないという視点からしたら、悪いことだけど、私自身も人間になり切れてないから、お互い様かもしれない。
「神様は、どうして今日はいらしたんですか?」
「……体の不調が、嫌な予感がしたんだ」
いつもの傲慢さが抜けている。今更弱がっても何も変わらないんだけどな。一応額の温度を測ろうと、手を伸ばすと、神様(仮)は私の手を払いのける。
「気安く、触るな」
「ごめんなさい。苦しそうだから熱を測ろうと思っただけです」
弱っているかと思いきや特にそうではない。
難しい奴だな、こいつ。
脂汗が浮いていてもおかしくなさそうなくらい、顔を歪め、眉間に皺が寄っているが、プライドだけは一丁前にあるみたいだ。
私はその場に体育座りをした。嫌な予感は多分当たっていて、自分でその道を引き当てたのだから、私が手を差し伸べてあげる必要はないかもしれないけど、一応話だけは聞いてあげようと思った。
「神様(仮)話があるなら、聞きますよ」
苦しそうな顔だが、私の言葉に口元をニヤリと上げた。
「お前は今憎んでいる相手とか、いないのか?」
「いませんね。充実した毎日を過ごしています」
恋愛はまだできていないけど、最後にしてみたかった。
私の返答に、神様(仮)はわざとらしくため息をついた。
「確かに、上で時々覗いているが、お前は人とコミュニケーションするのが苦手だよな」
「でもこの間テスト勉強会を私の家で開いたんですよ」
嘘は言っていない。ただ、神様(仮)の求めている答えとは幾分ズレているだけの話。苦しそうにしていた表情が一瞬にして固まった。
「友達を家に呼んだ、だと?」
「はい。私に弟がいるんですけど、その弟を見たいって言う理由だったんですけど。結局弟は家にいない日で、でも勉強はしましたよ」
人の輪廻から離れるために神様代行を始めた彼。自慢をしたところで心に響かないかもしれないけど、少しだけ茶化してみたかった。
私が少し変われたように、神様(仮)も何か変ったことがあるのか知りたいと思ってしまった。
目を細め何かを思いだしたように、神様(仮)は手を叩いた。
「お前の返答は聞いていて、いつも機械的だったけど、本当に友達になれたのか?」
元々が人間だった奴の言うセリフかと、私はため息をついた。
仕方ない。
私だって、人の心がわからないから今を生きているんだ。
まぁ、一番知りたいことは最期の願いにしがみつく人の心を知りたいんだけど。
早く元の立ち位置に戻ってしまっては知ることができないから、神様(仮)には頑張ってもらわないといけないんだけどね。
家族ですら人としての感情の持ち方の教本。家族愛って一番普遍的で、でももらえるとは限らないものだと、ドラマなどを見て教えてもらった。友達がいない事実を両親は自分のことのように悲しんでくれた。
もう一人くらい兄弟がいれば、比較対象になったのかもしれないけど。
変な姉と人生を共にしていたからか、冷静沈着な性格に育ってしまった弟。
両親には申し訳ないことをしたかもしれない。可愛らしい行動がとれない姉弟で、苦労をかけている気がしてしまう。
「人間のフリをしたって、元が違うから人間らしくないなんて笑うな」
どう答えようかと悩んでいたら神様(仮)が鼻で笑ってくる。私は自分を産み育ててくれた両親を尊敬している。
来世の人生は融通を利かせてあげたいくらいに、情は芽生えてきたと感じている。
「神様(仮)にだって今までにない力があるじゃないですか。それで救いたい人とかいないんですか?」
「はっ、俺のことを馬鹿にしてきた奴らばっかりだった世界なんだぜ!!神様になったのだって俺があいつらを懲らしめてやれるからだ。だから……」
発した言葉は取り戻すことができない。バッチリと聞いてしまった本心。
どうするのが一番いいのかな。今の私に裁きを下す力は残されていない。
まだ具合は悪そうだが、立ち上がる神様(仮)。私も立って挨拶をしたかったけど、間に合わなくて、私はその場にしゃがんだままだった。
「お前が何もしてないのが分かったからいいや。何か俺に変なことをしてみろ」
「したら、どうなるんですか?」
むしろ変なことをしたら私が貴方を罰さなければならなくなるから、大人しくしていて欲しいなって言葉は胸の中にしまう。
「神の鉄槌が落ちるだろう」
……。この人は一体何を目的として、私と時間を交換したのかな。面白さ半分で交換しない方がよかったのかもしれない。相手を吟味するのも必要だったのかもしれない。
景色が変わり、見たことのない草原がでてくる。
意識がフワフワとしだし、このまま深い睡眠に落ちていくなぁっと思っているうちに私の意識は遠のいていった。
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