第22話:夏の終わり、別れの時
最後の授業は、最高にもりあがった。
僕の先生がうまくできていたとはおもわないけど、とても楽しい時間だった。
それでも時間には限りがあって、トラウムがみんなをなだめて終わりになった。
少しでも時間をのばしたくて、僕は一人一人とあくしゅをして教室を出た。最後に大きな声でさよならを言って、思いっきり手を振った。みんなも手を振り返してくれた。
ドアを閉めて、
少しの間だけ生徒だった教室をなごりおしく見つめて、
ステラと星の石を探して冒険した学園をなつかしく思いだして、
そして、大好きになったすい星学園を出た。僕の学園生活は終わりを告げた。
僕はステラとトラウムと、僕が最初にこの星に降り立った森の中へとやってきていた。
ここでトラウムが星鏡の扉を出して、僕がそれをくぐれば冒険は終わりになる。
「これで二人ともお別れなんだね……」
これで本当にこの星ともお別れなんだ。
そう思うと、いっぱい話したいことがあるはずなのに、うまく言葉が出てこない。
少しの沈黙の後、トラウムが口を開いた。
「星太くんには感謝しかありません。この星の都合と私の想いだけで呼び出して、勝手なお願いをして。でも、あなたは願いをかなえるどころか、この星を救ってくれました。何のお礼もできないのに」
「……私もです。星太さんには救っていただきました。出会ったときにあんなに失礼なことを言ったのに、この星の事件も私が起こしたことだったのに。なのに、星太さんは私の悩みごと救ってくれました。暗い気持ちもすべて星太さんが変えてくれたんです。本当にありがとうございました」
二人が僕を見て口々にお礼の言葉を言う。
「いいよ、そんなの。無事に終わったんだから、それでいいじゃない。僕は、すごく楽しかったんだからさ。暗いお別れなんてつまんないから、明るくいこうよ!」
てれくささとさみしさが混じって、ついおちゃらけたことを言ってしまう。
「ただ星が大好きで、星を観てただけだった僕がさ、まさかすい星に来られるなんて思ってなかったし、それにそこでさ、星の精霊だとか、星のお姫様だとか、そんなファンタジーな人たちと会えてさ、星の石を探して星の危機を救うなんて大冒険ができるなんてさ、ほんとびっくりで……」
あ、だめだ。思い出してきたら涙が。
「せっかく、ステラともなかよくなれたのにさ、トラウムにももっと教えてもらいたいことだってあるのにさ、これでおわかれなんて、さよならなんて、いやだよ……」
「……私もです! 星太さんともっとお話ししたかった。もっと、青い星のことをききたかった。せっかく好きになれたこの星のことを、もっと星太さんに話したかった! なのに、もう会えなくなるなんて……」
ステラも泣いていた。トラウムもさみしそうな顔をしているように見えた。
みんなさよならしたくなかったんだ。
「僕はステラもトラウムも大好きだよ。ステラとはこんな短い時間なのに、とってもすてきな友達になれたと思うし、トラウムはちょっと意地悪だけどすてきな先生だった。二人とも本当に大好きだったんだ。はなれたくないよ」
「私もです。星太さんの明るさや行動力、なにより気さくに私に話しかけてくれるその感じが、とても安らぎでした。こんなに気があった友達なんて初めてなんです」
お互いに大事な友達だって感じてるのがうれしくてまた泣いた。
僕とステラはしばらくただ泣いていて、いつまでもこのままいたいって感じてた。
そんなときだった。トラウムが僕とステラの肩に手を置いて言った。
「たしかに別れはさみしいものです。ただ、別れをつらいだけのものにしてしまうのはもったいないと思いますよ」
「もったい、ない……?」
僕の声は完全に涙声だ。
「ええ、別れを多く体験した先輩としてのアドバイスです。そうですね、こういうときは約束をしましょう。希望を持って次へ進めるように。そしていつか願いがかなう日がくると信じられるように」
「約束……?」
ステラがつぶやく。
「どんなことでもいいんです。ただ、二人の間にいつまでもきずなが続くような、そんな約束をすれば、この日の思い出をすてきなものにできるって私は思います」
「トラウムも、そんな約束をしたの……?」
「さあ、どうでしょう。遠い昔にそんなことがあったような気がします。その約束があるから私は今もここにいるんだと思いますよ」
そっか、約束かあ……、僕は少し考え込む。でもいくら考えても答えは一つだった。
「僕から言ってもいいかな」
ステラはうなづいた。
「また、いつか絶対に会おうよ。それがこのすい星でも僕の青い星でもいい。かならずまたステラに会いたい。どうかな」
無茶を言っているのはわかってる。でも言わずにいられなかった。
約束するならこれしかないって思ったから。
ステラはくすりと笑った。その笑顔はとてもかわいらしくて、最初の夢で見たあの悲しい影はどこにも見えない。
「私も同じことを考えていました。絶対にまた会いましょう、約束ですよ星太さん」
「いい約束ですね」
「あ、もちろんトラウムともまた会いたいんだからね」
「光栄です。救星主、夜見星太」
その冗談めかした言い方はいかにもトラウムで、僕はなんだか安心していた。
「……決めた。僕は天文学者で科学者になる。そして、誰よりも早くこのすい星を見つけて、この星に飛ばせるロケットをつくるんだ」
約束につながる将来の目標。それがこの別れに希望をもたらすような気がしていた。
「じゃあ、私もこの星の軌道をもっと自由に操れるようになって見せます。私の願いが『私の思うように星を動かすこと』なら、もっと青い星から見えるように、星太さんから私たちが見えるくらいに見事に星を操ってみせますからね」
ステラの目が決意に燃えていた。ステラは完全に前を向いていた。
あの夢で見た悲しみはもうない。
「あ、でも近づきすぎはもうかんべんだよ」
「もう! そんなことは二度としませんからね!」
むくれた顔のステラが可愛くて、僕は笑ってしまった。
ステラも、なんとトラウムまでが笑い出した。
「見事です。私は先生として少しは教えられていたんですかね。なら私も約束を一つ。このすい星トラウムを、星の民にも青い星から見る星太さんにも、もっとすてきな星と思ってもらえるようにしてみせます。いつか再び会ったときに自慢できるように」
「私ももちろん手伝いますわ。当代の星の姫は私ですからね」
「頼りにしていますよ」
「うん、楽しみにしてる」
「さあ、時間です。もう悲しい別れではないですね?」
「うん、約束があるからね。また絶対、絶対に会おうね!」
「もちろんです。私たちは星を越えても、最高の友達なんですから!」
僕とステラは顔を見合わせて、微笑んだ。
もう、どこにも悲しさは無かった。
トラウムが星鏡の扉をつくる。これをくぐれば今度こそお別れだ。
でも、僕はもうふりかえらない。
「それじゃ、またね。とっても楽しかった。最高の大冒険だった」
「忘れないでくださいね」「忘れるもんか!」
「もし、また近づくことがあったら、夢の向こうでお待ちしています」
「うん、そのときを楽しみにしてる」
「それじゃ、バイバイ! あの教室でまた会おうね!」
僕は笑って手を振った。
「約束ですからね! 絶対に絶対に会うんですからね!」
ステラの声に僕は大きくうなづいて、扉を開けた。
まぶしい光の中に、すい星トラウムの景色は溶けていった。
まるで夏の幻だったかのように。
そして気がついたら、自分の部屋にいた。
星をつなぐ扉ももうない。
試しに呼びかけてみたけど、ステラはもちろんトラウムの声も帰ってこなかった。
こうして、僕の短いけど忘れられない、星を越えた夏の大冒険が終わったのだった。
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