第5章\星を越えた奇跡
第18話:トラウムの想いと滅びのとき
ステラが去った心のほこらには、僕とトラウムが残された。
星の石は何も変わらず、ゆっくりとゆらめき輝いている。
この星の石の力ですい星トラウムは、今も青い星に向かって落ちているのに。
「ねえ、トラウムはどこまで知っていたの?」
ひょっとしたら僕の顔は、少し怖いものになっていたかもしれない。
「そうですね。この事件に関してなら、ほぼすべてでしょうか」
「じゃあ、星の石がここにあることも、すい星が落ちてる原因がステラが星の石に願ったからだってことも?」
「ええ、知っていました。というより、それしか考えられないと言うところでしょうか。ステラがこの星を嫌がっているというのは前からわかっていました。青い星にあこがれていると言うことも」
「じゃあ、なんで星の石を探させたのさ! 僕を別の星から呼んでまで!」
僕はトラウムに向かって怒鳴っていた。怒っていた。
ここまで信じていたトラウムが、僕をそしてステラもだましていたと言うこと、そしてなによりそのことでステラを悲しませたと言うこと。
「全部わかってたなら、他の方法でなんとかできなかったの!? だって、トラウムはこの星の精霊なんでしょ? 僕をこの星に呼べたくらいだ、もっとすごい力だってつかえるんじゃない? だったら!」
そこまで言ったところで、トラウムがしゃべるのを止めた。
「少し話をしましょうか。今の星太くんになら、本当のことを話せます」
「うん、いろいろ聞きたいことがたくさんだよ」
「そうですよね。わかっていたこととはいえ、星太くんには本当にすまないことをしてしまいました。きちんと説明をしなくてはなりませんね。さあ、こんな地下では息がつまります。外に出て話をしませんか?」
トラウムの顔は少しさみしそうな顔に見えた。こんなに気持ちが表に出たトラウムは初めて見たかもしれない。これまでは、ただ笑顔でときどきうさんくさくて、でも頼りになるそんなトラウムしか見ていなかったから。
「場所はどこでもいいけど、わかった。まず外に出ようか」
僕も外の景色を、とくに空を見たかった。なぜだかはわからないけれど。
トラウムと僕は階段を上り外に出る。その間は二人ともずっと無言だった。
暗いほこらから外に出ると、光がまぶしかった。
光の向こう側にガラスのドーム越しの空があって、そこには青い星が輝いている。
明らかに大きくなっていた。
このままどんどんと近づいて、そして最後にはこの星はあそこに落ちるんだろう。
「こっちです」
トラウムがいうままについていくとそこには小さな広場があって、ベンチと丸いテーブルが置いてあった。きっと生徒たちが昼休みとかに使うんだろう。
放課後の今は、もちろんだれもいない。
僕とトラウムは反対側にすわって向かい合う形になった。
「いろいろ教えてくれるんだよね」
「ええ、星太くんが気になっていることは全部話しますよ。うそもかくしごとも無しです。まともに話せる最後かもしれませんからね」
星が落ちそうな今だとじょうだんに聞こえない。
「なんで原因がステラだって気づいたか教えて」
最初に気になったのはそこだった。
「すい星の軌道が変わっていることにはすぐ気がつきました。私はこうみえて星の精霊ですからね。ただ、なぜ変わったかわからなかった。だからまずは星の石を見にいきました。そうしたら星の石が消えているじゃないですか。さすがに驚きましたよ」
「じゃあ、トラウムは星の石の力は使えないことを知っていたんだよね? なんで星の石を探させたのさ。ステラまでだまして」
「それを話すには、少し話が長くなるかもですね。私がこのすい星の精霊で、最初に生まれた心だって話はしましたよね」
「うん」授業で聞いたところだ。
「星の石は、願いをかなえる力だと言うことは知っていると思います。では、私はどうして生まれたのでしょう? なぜ、そして誰の願いで?」
トラウムの聞き方は、先生の時の口調になっていた。
「えっと、あれ? 誰もいないのに星の石の力でトラウムは生まれて……?」
どういうことだろう。星の石探しにばっかり夢中で今まで考えもしなかった。
「その答えは、あなたの星です」
「僕の星……?」
「ええ、私はね。遠い昔、青い星の人がすい星を見上げたときの気持ちから生まれたのですよ。『あのしっぽのある星はすてきだな』『あの星はよぞらをかける生きものみたいだ』。そして『あの星にも心があるのかな』。そんなあなたたちの想いを星の石が受け取って生まれたのが私です。だから私と青い星は強いつながりがあるんですよ」
星に想いを込める気持ちはわかる気がする。
僕も星空を見るときに、いろいろ考えたもの。あの星にはもしかしたら人がいて、僕たちみたいにくらしてたりするのかなって。
「そうして私は生まれましたが、一人で生まれた私は、青い星をずっとずっとながめていました。さみしかった。青い星にはたくさん人がいることを知っていましたから。そしてあこがれました。この星にも青い星みたいに、話ができる誰かがいればいいのにって」
トラウムはずっと一人だったんだ。そんなのさみしいに決まってる。
誰もいない世界でただ一人、他の星をながめるだけなんて。
「その願いから生まれたのが最初の『星の姫』です」
トラウムが遠いところを見るような目をしている。昔を思い出してるんだろうか。
「うれしかった。たくさん話をしました。互いのことも、青い星のことも、そしてこの星のことも。こんな風になったら楽しい、あんな風になったら楽しいってね」
「仲がよかったんだね」
「そうですね。ほんとうに、ずっとずっといっしょでしたから」
トラウムの目がとてもやさしい。その星の姫のことを大切に思っていたんだろうな。
「星太くんは思いませんでしたか? いろんなものが自分の星と似てるなって」
それはずっと思っていた。でも、そんなものなのかなとあまり考えていなかった。
「似てるのは当然です。私と星の姫は、青い星を参考にして、この星のすべてをつくっていったのですからね」
「そうだったんだね。どうりで、学校とかふんいき似てるなって思った」
「青い星が二人とも大好きで、いつも私の力で青い星を見て、それを元に星の姫と新しい世界を星の石の力でつくっていきました。楽しかった」
遠い星をみるような目。きっとそれは僕が夜空を見上げるときと似ている。
「でも、私は星の精霊として永い時を生き、星の姫は数十年ごとに代替わりするという違いがありました。私は何人もの星の姫と時をともに生きこの星をよりよくしていきました。だから、私にとって星の姫は、友であり子供であり生徒であり、そんな不思議な関係だったと言えますね」
「そんなに大切だったなら、なんでステラと僕にあんなことをさせたの? 最後に悲しい思いをするってわかってたよね」
「ステラを助けたかったからです」
「どういうこと?」
僕にはトラウムの気持ちと、やってることがバラバラに思えてしょうがなかった。
「ステラがこの星を嫌っているのは気づいていました。だから、なんとかこの星の良さを伝えようとすい星学園で先生までやってみました。しかし、その結果がステラのあの願いです。私にはステラを止めることはできなかった。なんでもっといい星をつくれなかったんだろうと苦しかった」
トラウムの表情がとてもつらそうだった。
「もう、この星を救うことはできないの?」
「星の石の力は強力です。星の姫が一度願ってしまったなら、止められないでしょう」
「星の精霊の力でも?」
「私には星の石ほどの力はありません。もう願う資格もありません。できることと言えば、ただ遠い星を観ることと扉をつくること、それだけでした」
「でも、じゃあ、なんで僕を呼んだの? この星は助けられないんだよね?」
「最初の出会いで言ったようにあなたが『見つける』力を持っていたからです。あなたがこのすい星を見つけてくれた。私が青い星をみて、星太くんがすい星トラウムを見て、その二人の観測が一致したから、たまたますい星と青い星の扉を開くことができました。星太くんのおかげです。私は本当に感謝してるんです」
トラウムは真剣な目だ。このあとに言われることの重みを感じて僕はつばを飲んだ。
「この星の精霊である私にとって、星の姫ステラは何よりも大切で、何をかけても守りたいそんな存在でした」
トラウムが立ち上がって、僕の両肩をつかんだ。
「星太くん。ステラを連れて青い星に逃げてください」
「えっ!? ステラを!?」
トラウムの提案は、僕を心から驚かせたのだった。
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