第17話:そして星の石の真実へ
僕はステラを案内して、昨日の心のほこらにやってきた。
そこにはトラウムが待っていた。準備とやらが終わったのだろうか。
「こんなところにあったなんて、まったく知りませんでした」
「ここは、地図にものっていないし、相当古い人でないと知らない場所だからね」
トラウムが答える。
「ありがとう星太くん、ステラを連れてきてくれて」
「いや、たんに僕があやまりたかっただから」
「たぶん、今のステラならここに入る資格がある」
「どういうことですか?」
ステラが不思議そうな顔をする。
「星の石はここにあります。星の姫が願いをかなえたときは、この下にある祭壇に星の石が移動します。そして次の星の姫を待つ。一世代にかなえられる願いは一つですからね」
「最初から知っていたのですか!? ではなぜ黙っていたのですか!」
「教えるべきではなかったからです。二人に調査してもらうこと自体が必要でしたから」
「どういうこと?」
ふくみのある言葉だと思った。
「いずれわかります。まずは入りましょう」
トラウムは心のほこらの塔のてっぺんのふたを開ける。そこには何かがはまりそうなくぼみが5つあった。
「星太くん、星石コンパスを起動してください」
「あ、はい」
僕はすこしあわてて、そしてこれまでの星の知識を思い浮かべながらコンパスを起動する。目を開けなくてもわかるくらいの強い光が輝く。
「なんて強い光。確かにここにありそうですわね」
ステラがまぶしそうにいう。
赤・青・黄・緑・白、全ての石が強く輝いていた。
「さあ、その石をほこらにはめてください」
「これ、そのためのものだったんですか?」
「ええ、ちょっと探索用ということにして利用しましたが。この強い反応をひきだしてもらうことが必要だったのです。普通は開けなくてもいい場所ですからね」
そうか、一度願いをかなえてしまえば次の代まで必要ないから。
……うん? かなえてしまえば? あれ?
なにかひっかかったけど、石をほこらにはめる。
ごごごごと音がして、ほこらの床石が持ち上がった。そこには下に続く階段がある。
「これが星の石に続く道……」
ステラがつぶやく。トラウムがおりていく。
「さあ、いきますよ」
ステラと僕は顔を見合わせてうなづいた。
僕が先に行き、ステラが後に続く。
階段は思った以上に深い。灯りがともっているので暗くはないが、ひたすら降りる階段というのはすこし怖さをあおる。
どれくらいもぐったろうか、下の方に広い空間が見えてきた。
「さあ、つきますよ」
トラウムの言葉で終わりが近いことがわかった。
最後の一段を降りると、そこには教室くらいの空間があった。
もちろんいすも机もないけど、奥にゲームに出る祭壇のような高くなった台がある。
そこに輝く石が置かれていた。
本で見たとおりの、だけど比べものにならない美しさの石。
いろんな色がゆらめき輝き、でもやさしい光を放っている。
星の石の光で、小部屋が不思議で幻想的な色に照らされていた。
「あれが、星の石……」
僕はゆっくり近づく。ステラもいっしょだ。
「こんなところにあったのですね。私の城から消えてどこに行ったかと思っていたら」
ステラがゆっくりと星の石をなでる。
「これが、このすい星トラウムのすべてをつくってきた星の石です」
「ていうことは、これにステラが願えば、事件解決だね!」
僕の言葉に、トラウムは何も答えなかった。
「さあステラ、願いをかなえよう。この星が落ちていかないようにって」
「……そうですね」
あれあれ? やっぱり違和感が消えない。なんだかわからないけどすごく気持ち悪い。
「星の石に願いを伝えるときには、星の姫が直接触れて願いを伝えます」
トラウムが無感情な声で言う。
ステラは、星の石を両手で包むように抱きかかえる。
「偉大なる星の石よ。星の軌道を元に戻してください。すい星トラウムが、あの青い星へと落ちないように」
僕は何が起きるのだろうと、ドキドキしながら待った。
……何も起きない。ステラも不思議そうにしている。
「もう、かなってるのかな……?」
「願いをかなえたなら何か反応があるはず。星の動きがかわった様子もありません」
ステラはもう一度、星の石に触れると言葉を発する。
「重ねて願います。星の動きを元に戻してください!」
やっぱりなにも起きなかった。ステラの顔にあせりが見えた。
「……トラウム、なぜですか? なぜ何も起きないのですか?」
トラウムは長い沈黙の後、口を開いた。
「この星の石はもう願いをかなえていますからね」
「へ?」僕の口から間抜けな声が出る。
「どういうことですか?」ステラも問いかける。
「不思議だとは思いませんでしたか? 私はこう言いました『星の姫が願いをかなえたときは祭壇に星の石が移動する』と。当代の星の石はもう願いをかなえているのです」
そうか、僕の違和感はそれだったんだ。ここはかなえた星の石があるはずのところで、これから願うのならここにあったらおかしい。
「……そんな。そんな馬鹿な! 私はなにも願っていません! 他の誰かが願ったとでも言うのですか!」
「いえ、願いを星の石に伝えられるのは、星の姫だけです。例外は最初の意志たる私ですが、私の願いはもうかなえられているので、もう届きません」
「では、なぜ……?」
ステラの顔は泣きそうだった。
「あなたは、本当に何も願いませんでしたか? 想いを星の石に伝えませんでしたか?」
その言葉にステラの顔が青くなる。手が震えている。何かに気がついたんだ。
「そんな、そんなことって……」
「どうしたのステラ!? 具合悪いの!?」
僕は心配になってステラにかけよる。血の気が引いて手が冷たくなっている。
「私は……、私は……なんということを」
「ねえ、どうしたの!?」
「私はこの星が嫌いでした。青い星にあこがれていました。この星にずっといるなんていやでたまらなかった。だからあるとき青い星が近づいた日、思ってしまいました。この星が私の好きに動けばいいのにって、そしたらあの青い星にいけるのにって……。私はあのとき星の石に触れていた……」
だれかに言っているんじゃなくて、ただ言葉をはきだしているような悲しい声。
「そんな……ステラはもう願いをかなえてしまってるってこと……?」
「この星が滅んでしまう……。星の石の力がなければ、もうどうしようも……」
ステラが泣いている。悲しげに、絶望的な顔で。
それは、あの夢で見た光景の顔と同じだった。
「大丈夫だよ、なんとか別の方法を探そうよ」
気休めなのはわかっていた。でも言わずにはいられなかった。
「もうだめです! 私のせいで、ああ、なんてことを!」
いうなり、ステラは逃げるように走っていってしまった。昨日と同じように、でもきっと昨日よりも絶望の気持ちで。
僕はそんなステラを追いかけることができなかった。
この星の希望は、この日失われた。
星が落ちる日は近づいている。
空の青い星は、昨日よりも大きく美しく輝いていた。
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