第16話:ステラを探せ!

 授業が終わった後、今日は僕だけが職員室に行っていた。

「あの、ステラは休みって言ってましたけど、病気とかですか?」

「いえ、体調ではないようです。この置き手紙がありました」

 そこにはステラの字なのだろう。きれいで迷いのない文字が書かれていた。

 ただもちろん読めないので、トラウムに読んでもらうことにする。

「『やはり私は一人でこの問題を解決して見せます。他の星の方の手助けなど借りるべきではありませんでした』って書いてあるね」

「やっぱり、昨日のけんかで怒ってるんだ……」

 昨日は言うべきことを言ったのだと思ってたけど、言ってはいけなかっただろうか。

「そうでしょうか。私には迷いと怖さが見えるような気がします」

「迷いと怖さ……?」

「ええ、この問題にどう向き合うべきかの方針が、ステラの中できまっていないのでしょう。だから、迷いのない星太くんといっしょにいるのがつらくなった」

「怖さって、ステラは何が怖いの?」

 あの強いステラが何かを怖がることなんてあるのだろうか。

「一つは真実と向き合うこと、たぶんステラの中で気づいたことがあったのでしょう。そして、前の授業で星太くんが答えてくれた、この星がすてきだという想い。そう思えない自分への怖さ。星の姫としての役割への怖さ。そんなところでしょうか」

 そっか、ステラはこの星が嫌いって言っていた。でもその想いは星の姫として間違いだって思ってるんだ。だからステラ自身、どうしていいかわからないんだ。

「僕はどうしたらいいんだろう……」

「ステラの本当の思いを聞いてあげてください。それはたぶんあなたにしかできない。その上で、彼女の悩みを導いてあげてほしいのです。星の危機のことは置いておいても、ステラを救ってあげたい、私もそう思っているんです」

 トラウムは、そう見えないかもですが、なんて笑ったけどトラウムがステラを大事にしているなんて最初からわかっていた。ステラだってきっとそうだ。

 そして僕も、短い付き合いだけどステラがすてきな子だって知った。だからこそあの夢の悲しい顔をする原因があるなら、なんとしても解決してあげたかった。

「今日はどうしましょうか。ステラもいないし」

「ステラはおそらく、自分一人で星の石を探しているのだと思います。もう星太くんにはおおよその場所がわかっていると知らずに。まずはステラを探しましょう。その間に私は心のほこらに入る準備をしておきます」

「わかった、行きそうな場所はわかる?」

「部屋にはいないのを確認しましたので、校舎の中でしょうね。右棟の学園周りを探している可能性があると思います」

「うん、探してみるね」


 僕はかけだすように職員室を出ると、まず二階から探しだす。初日に探した資料室までの道と、資料室の中を見たけどここにはいなかった。

 中にいた生徒に聞いてみたけど、見ていないとのことだった。

 次に一階の図書室までの道を探したけど、やっぱりステラはいなかった。

 最後にいったのは図書室。別の部屋や書庫以外の部屋に、探していないところがあったから、もう一度探しにいった可能性がある。

 図書室のドアをあける。

 この前は、ステラに任せきりにしていた奥の部屋を見に行こうか。

 受付の生徒がいたので聞いてみる。

「あの、ここにステラさん、星の姫の……、来ませんでした?」

「ええ、きてますよ。たぶん貸し出し禁止の古書の部屋にいると思います」

「ありがとう!」

「あ、走らないで!」

 その声も聞こえないくらい、僕は急いで奥の部屋に急ぐ。

 そこはこの新しい学園にしては珍しく古い扉で、開けるときに音がしそうな感じだ。

 中から音が聞こえた。ゆっくりと取っ手に手をかけ開ける。

「ステラ」

 そこにステラはいた。きれいなドレスも、美しい金色と銀色の髪も荒れていつもの上品さは無かった。必死な様子だけははっきりと伝わっていた。

「星太さん、どうしてここに?」

「君を探しに来たんだ」

「トラウムから聞いたのでは? 私一人で探すと」

「でも、探したかったから。昨日のことをあやまりたかったから。そして仲直りしたかったんだ。あのままけんかしたままなんて、さみしいもの」

「星太さんにあやまってもらうことなどありません。しょせん星の違う二人です。わかりあえるはずなどなかった」

「そんなことない! だって、ステラが僕の星をきれいだって言ってくれたみたいに、僕だってこの星にあこがれてたんだから!」

「本気で言っていますか? こんな何もない星に。青い星ならば、この星にあるすべてのものがあるでしょう。あこがれる価値がどこにありますか?」

「……さっき君が受けなかった授業。星の姫の願いの話だったんだ。そこでみんな言ってた。この星が好きだって、いい星にしてくれた星の姫に感謝してるって」

「……それはほんとですか? こんなせまい星にみんないやけがさしていたのでは?」

「だれもそんなこと言ってないよ。むしろ幸せそうだった。僕もこの星がすてきな星だって思うよ。だって、僕の星じゃあんなふうには空にすてきな青い星は見えないしね」

 ステラが少し黙った。そして、ぷっと吹き出した。

「星太さん、それ言ってることわかってます? 結局自分の星がきれいだって言ってるんですよ? 自慢ですか?」

「あれ? そうなるのかな? いやそうじゃなくて、その、この星でしか見えない景色がきれいだっていいたいだけで……」

「いいです。わかってます。あなたはそんなひねくれたことも自慢もしない人です。その程度のことはこの短い間でもわかっています」

 ステラがお腹をかかえて、こどもっぽく笑っていた。その顔がすごくうれしかった。

 あれ? よく見たら泣いている?

「ステラ大丈夫? 泣いてるよね?」

「心配ありません。笑いすぎて、自分のこだわりが馬鹿馬鹿しいと思ったら、なぜか涙が出たってだけですから」

「それほんとに大丈夫……?」

「大丈夫ったら、大丈夫です!」

 その反応は前のステラっぽかった。いやむしろもっとくだけたかな?

「私がこの星が嫌いなのは、仕方ありません。正直その思いはまだ変わりません。しかし、星太さんへの怒りが不当だったことと、この星を愛してくれている民がいる限り、問題は解決しなくてはならない、それは理解しました」

「ってことは……?」

「ええ、いっしょにまた探しましょう。星の石を」

「やった! ありがとう!」

 僕は手を出す、ステラも意味が伝わったようであくしゅしてくれた。

 やっぱり照れくさそうだった。

「それでなんだけど、昨日星の石がありそうなところを見つけたんだ」

「ええっ! それを早く言ってください! 私の今日の苦労は何なのですか!」

「いや、いうひま無かったじゃん」

「ですが、ああもう! 早く案内してくださいまし」

 ステラが早足で部屋を出て行く。僕も後を追いかける。

 部屋を出たところで、さっきの受付の人が待っていた。

「ここは図書室です。お静かに願います」

 怒られてしまった。

「その……、申し訳ございません」

 まっ赤になったステラが可愛かった。怒られなれてないんだろうなあ。

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