第4章\星の姫と彗星の謎

第15話:4日目の授業\星の言葉 星の石と星の姫の願い

 昨日のことが、頭をぐるぐるとめぐっている。考えがまとまらない。

 今日はなんとかしてステラと話さないと。

 心のほこらについても伝えないといけないし、なによりこの星を本当に救う方法を二人で見つけないと。

 どう話そうか、何を言ったらいいのか、そんなことを考えているうちにまたも僕は眠りに落ち、目の前にはトラウムがいた。

「暗い顔をしていますね」

 トラウムは僕の心がわかっているみたいだった。それともそれほど顔に出てしまっているのだろうか。

「うん、ステラと仲直りするにはどうしたらいいのかなって、ずっと考えてた」

「星太くんはやさしいですね」

「そうかな? 昨日はいいすぎて怒らせちゃったけど」

「それはステラが痛いところをつかれたからです。自分でも悩んでいることを星太くんに言われて、どうしていいのかわからなくなったのでしょう。でもあなたならきっとステラの悩みを解決してあげられると思っています」

「頑張るよ。もちろん、すい星を救う方もね!」

 トラウムはにっこりと笑った。


 僕はトラウムの出した星鏡の扉をくぐり、すい星学園にたどりつく。

 この世界はたしかにせまいのかもしれない。

 できることも少ないのかもしれない。

 でも、僕にはこの世界がつまらない世界だとはまったく思えなかった。

 学園の中しか見たことは無いけれど、それでもみんな楽しそうで暗さは無くて、なんかいいなって素直に思えていた。

 なにげなく空を見る。そこには透明なドームごしに空が見える。

 この星から見る自分の星はとても青くてきれいで、たしかにあこがれる気持ちもわかるなって少しだけ思った。

 この景色はこの星じゃないと見えないなと思う。夏休み明けに学校の友達に話しても信じてもらえないだろうなあって、少しだけ笑った。

 ……? 今何かいいアイデアが浮かびそうな気がした。なにか、すごく面白くてわくわくするようなそんなアイデアが。

 でも、それはつかむことができなくて、あっという間に消えてしまった。

 なにか、すごくいいこと思いついたような気がしたんだけどなあ……。

「どうしました?」

「ううん、なんでも」

「そうですか、私は職員室に用がありますので、先に教室へお願いします」

「わかった」


 トラウムとは二階で別れると、僕は教室に向かった。

「おはよう」

 今日はあいさつから入ってみた。ほんの数日だけどだいぶ慣れたなあと思う。

 僕がギリギリに来るせいもあるけど、みんなそろってすわっている。

「……あれ?」

 ステラにも今のうちに話してみようと思って、窓側の席を見たらステラがいない。

「えっと、ステラは?」

「今日はまだ来てないよ。めずらしいな」

 近くの子に聞いてみたら、そんな答えが返ってきた。

 自分の席にすわって、しばらく待ってみたけどやっぱりステラはこない。

 どうしたんだろうと、少し不安になってくる。

 がらりとドアが開いてトラウムが入ってくる。

「みなさんおはようございます。ステラさんは今日は欠席とのことです。さっき職員室に連絡がありました」

 ステラ、やっぱり休みなんだ。昨日のことが原因だったりするのだろうか。

「さて、今日も授業を始めましょう。もちろん今日も特別授業です。『星の姫の願いとすい星』というテーマで学んでいきたいと思います」

 どきっとした。僕の悩みそのもののテーマだったから。

 トラウムは、これまで僕にこの星のこと教えてきた。それはコンパスの力を使えるようにさせて、星の石を見つけさせようとしていたから。

 これもそのための授業なんだろうか。それとも今の僕のためのテーマなんだろうか。

「このすい星が、星の石の力と星の姫の願いで発展してきたというのはみなさんも知っているとおりです。では、代々の星の姫はどんなことを願ってきたのでしょうか?」

 トラウムが僕を指さした。

「星太くん、たとえばどんなことを願ってきたと思いますか?」

 いきなり!? びっくりしすぎてうまく言葉が出てこない。

 星の姫はどんなことを思ったんだろう。

「あ……、えっと。たぶんだけど、この星をよくしたいとかみんなが幸せになれるようにとか、そんなことかなって」

「はい、いいですね。そう、星の姫はこの星がすてきなものになるようにと星の石に願ってきました。なにもないこの星がここまですてきになったのは、星の姫がそうあってほしいと願ってきたからです」

 トラウムはかべのディスプレイに触れ、何かをうつしだす。

 そこには広い石と土のけしきが映し出されていた。これはなんだろう。

「これは何だと思いますか?」

「え? あの、わかりません」

 聞かれた後ろの方の生徒が答える。他の生徒の顔をなんとなく見てみたけど、僕だけじゃなくてみんなもわからないみたいだ。

「これは、はるかむかし最初のすい星トラウムです。本当に何もありませんでした」

 えー、と教室がさわがしくなる。

「今を知っているみなさんには信じられないですよね。でも本当にこうだったんです。こんなさみしい大地に星の姫は少しずつ、願いの力でいろんなものをつくっていきました」

 画面が少しずつ変わっていく。

 何もない大地に、植物や動物が生まれ、人が生まれ、街ができ、そしてこの学園ができた。僕の星の歴史を早回しで見ているようだった。

「この景色はすべて星の姫が願った結果できました。たとえばある星の姫はこう願いました『人の住める大地がほしい』。その願いはこの空気も水もない星に人の住める領域、すなわちこのドームをつくりました」

 じゃあ、このドームの外の世界は人が住めないってことか……。元々せまいすい星の土地の中で、さらにここの中だけが人の生きていける土地なんだ。

「さらにある星の姫はこう願いました『私と共に生きる人たちがほしい』。それまでは星の姫だけだったこの星に、人が生まれました。そしてまたある星の姫は『人が住みよいような街がほしい』。そして何代か前、割と最近ですね。その星の姫が願いました『星のみんなが集まって学べる学校がほしい』と。それでできたのがこの学園です」

 すごい力と願いばかりだった。

 どの星の姫もこのすい星を大きく豊かにするために、その願いを星の石に伝えたんだ。その結果が今のこの街であり、この学校なんだ。そう思うと僕はなんだか、むねがギュッとなるような不思議な気持ちを覚えた。感動なのか、尊敬なのか、もしくは悲しさなのか。それはわからない。でも、とにかく胸が苦しかった。

「大丈夫ですか星太くん?」

「……え?」

「泣いているようですが」

 目に手を当てるまで気づかなかった。僕は確かに泣いていた。

「なんでもないです。少し感動してしまって……。星の姫もこの星も本当にすごいです」

 そう答えていた。

 トラウムの表情がとてもやさしく、なんだか親のようなそんな目に見えた。

「その言葉、その想い、ステラさんにも見せてあげたかったです」

 そのトラウムの言葉は、きっと先生としてじゃなくステラと親しい星の精霊としての言葉なんだろう。

「星の姫は、みんなこの星を発展させるために、星の石に願い今の世界を作り上げました。みなさんはこの星をどう思いますか?」

「私は好きです。いつも楽しいし」

「オレも別に悪くないかなって、母さんのご飯も、商店街のお菓子も美味しいし」

「結構遊ぶところもあるもんね」

「あ、あたしは、学園も大好きだよ」

 みんなが口々にそう言う。結局みんなこの星が好きなんだ。

 当たり前じゃないか、だって自分が生まれてここまで生きてきた場所なんだから、こんなに楽しくみんなといられる場所だってあるんだから。

 きっとステラだってそうだ。本当に嫌いだなんてそんなわけない。

 絶対にかんちがいなんだ。それにステラは気づいていない。

 この授業は僕にとって、そしてステラにとってもきっと大事な授業だったと思う。

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