第19話:ステラの願い、星への想い
「あなたならステラを連れていけます。短い時間でしたが、この問題をいっしょに解決する中でお互いを知り親しくなったあなたなら」
「え、いや、そんなこと言われても……」
僕はとまどっていた。ステラを連れて逃げる? 僕の星に?
「逃げるなんて、ステラが納得してくれるかどうか」
「納得するはずです。ステラは青い星にあこがれていた。行きたいと願うくらいです。まして星太くんがいっしょなら」
「いや、僕はそんなに親しくなれてないし、けんかもしたし」
「あの子がけんかなんてしたことはありません。心を開かない子でした。私にすら。星太くんのことを信じているからこそですよ」
そうなんだろうか? 本当にステラが僕のことを?
「ひょっとして、そのためにこの事件を、僕たちに組んで解決させたの? なかよくなれるようにって」
「その通りです。正直星の石も原因もどうでもよかった。問題なのは二人がなかよくなってくれるかどうか、それだけだったんです。だましてしまって本当にすみません」
「でも、ステラだけなんて、他の星の人たちは、それにトラウムはどうするのさ!」
「私のつくる星鏡の扉では二人までが限界です。なら、ステラを逃がしたい。望み通り青い星を見せてあげたい。星太くんお願いです。ステラを連れて逃げてください!」
トラウムが深く頭を下げる。初めて聞く大声で僕に向けて頼んでいる。
それだけステラのことが大切で、この星はもうどうしようもないということなんだろう。
どうしたらいいのかわからなかった。
僕はステラを探してくると行って、あの場を離れた。
考えがまったくまとまらなかった。
トラウムの言うこともわかる。星の石の力がなければこのすい星は救えない。
星の姫にも、星の精霊であるトラウムにも解決できないなら、もう星が落ちるのはさけられないんだろう。
それなら、せめて僕だけでもステラだけでも連れて逃げれば、少なくともステラだけは助かる。せっかくなかよくなったステラを死なせたくない。
……でも、ほんとうにそれでいいんだろうか。
トラウムにはこの星に呼んでもらって、普通にくらしてたら絶対にできない冒険をさせてもらった。それに先生と生徒としても、面白い勉強をさせてもらった。
そして教室のみんなとは、それこそちょっとの付き合いだったけど、あいさつをしていろんな話をしていっしょに授業を受けて、笑い合った。もうクラスメイトで友達だ。
そんなみんなが、すい星とともにみんないなくなってしまう……?
そんなのだめだ! 絶対だめだ!
僕は走り出した。絶対にステラを探して、そしてこのすい星を助ける方法をもう一度いっしょに考えるんだ。
きっとなにかあるはずだ。
僕はこの星に来てからというもの、この星のことがさらに大好きになっていた。
もともとは天体観測で観ていただけの星、ニュースで話題になったから観ていただけの星だったけど、僕は元からこの星がとても気に入っていた。
だって、このすい星は、夜空の中で輝いて尾を引いてまるで魔法使いのほうきのようで、これまで見た中でも一番きれいな星だって思ったんだから。
ステラが青い星を気に入ってくれていたように、僕だってこの星が大好きだ。
ステラにだって、この星がすてきな星だって気づいてほしい。
いや、ほんとは知ってるはずなんだ。だけど、少しそこを見ないでいるだけ。
ステラがこの星が嫌いだって言うなら、僕はこの星のすてきさをステラに伝えてあげたい、思い出させてあげたい。
だって、ステラがこの星のことを嫌いなのはいやだし、青い星のことを語るステラは生き生きとしていた、その気持ちがすい星トラウムにも向いてほしい。そう思う。
なにより、悲しい表情をしているステラはもう見たくない。
笑っている普通の子供みたいなステラを見たから、またその顔を見たいから。
ステラのことが大好きだから。
でも、ステラの笑顔を取り戻すには、青い星に連れてくるだけじゃだめだ。
すい星を救って、この星を好きになってもらって、はじめて笑顔になれる気がする。
それにしても、ステラがあんなことを星の石に願うほど、この星がつらかったなんて思ってなかった。青い星が好きでこの星が嫌いで、だからあんな願いを星の石に……。
……? あれ、そういえば、ステラの願いは何だったっけ?
僕の記憶通りだとしたら、この星はひょっとして助けられるかもしれない!
ステラを急いで探さなくちゃ!
ああ、ステラはどこだろう。
学校中探した。教室はもちろん、僕らが行った資料室も図書室も、行っていない別の棟も、どこにもステラはいない。
トラウムに聞いてみたけど、城には戻っていないらしい。
じゃあ、どこにいる。考えろ星太。
ステラが、今の気持ちで行きたくなるところはどこだろう。
そうか、あそこだ!
僕は一つひらめいて、また全力で走り出した。
それはすい星学園の外、僕が最初に見た景色、ガラスのドーム越しに青い星がきれいに見えたあの場所。森の中ですい星の風景は見えないけど、空だけはよく見えた。
ステラが今いたいのは、きったそう言う場所だと思った。
そしてステラはいた。すわりこんでひざをかかえ、ただ空を見上げている。
青い星をみているのだろう。青い星はさっきよりもさらに大きいように見えた。
「……ステラ?」
反応はない。
「ステラ、大丈夫?」
もう一度呼んでみた。今度はもう少し大きな声で。その声に気づいたのか、元々気づいていたのか、僕の方に振り返ってくれた。
「よくここがわかりましたね。誰にも見つからないと思ったのですが」
「この星で最初に来たのが実はここでさ。青い星がきれいに見えるなって思ったんだ」
「そうですか。それもトラウムに仕組まれていたのかもしれませんね」
「ひょっとして、僕の『みつける』力ってやつのせいかもしれないね。だったら、はじめてちゃんと役に立ったかも」
「星太さんは役に立っていますよ。だめなのは私だけです」
「そんなことないよ! ステラは立派だよ!」
「なにが立派だというのですか!? 星の姫としての使命を忘れ、この星への愛を忘れ、そしてこの星を滅ぼそうとしている私のどこが?」
「ステラはこの星のこと嫌いじゃないよ。むしろ大好きなんだと思うよ」
「そんなことありません。私はこの星が……」
「この星のこと好きだから、青い星をみてこうなってほしいって思ってたんでしょ?」
その言葉にステラは驚いたように見えた。たぶんあたってるんだ。
「あこがれてたのも多分そう。もっとこの星をよくしたいから、青い星のいいところがうらやましかったんだ」
「……そうかもしれません。よくわかりますね」
「ステラのことはよく見てたからね」
「なっ、なにを!」
その言葉にステラが少し赤くなったような気がした。
「きっとそうなんです。私はこの星をよくしたかった。青い星がすてきだと思っていたから。あの星みたいに、あの星のように。そんなことばかり考えていました。そうしたら、この星がいやなものに見えてきて……、それで嫌いになってしまって」
ステラが泣いている。女の子が泣いているのを見るのってなんかつらい。
「そのせいで、この星が滅ぶことになってしまいました。これまでの星の姫はこの星をよくしてきたのに、トラウムからはじまった大切な想いがここで途切れてしまう……」
僕は大きく息を吸う。
「……ねえ、ステラ。ステラはこの星を助けたい?」
「当たり前です! たくさんの人が生きていて、みなが作り上げてきた星です」
「じゃあ、ステラはこの星が好き?」
「……難しい答えです。この星のことはなんとかしたい。でもやはり、まだこの星のことを私は好きになれない。だからあんな願いを」
「ステラ、よく聞いて。この星はまだ救えるかもしれない」
「え、本当ですか!?」
「うん、ステラは星の石になんて願ったか思い出せる?」
「『この星が私が思うように動けばいいのに』と、そしたら青い星にも行けるのにと」
僕はその言葉をもう一度頭の中でよく考えて整理する。
うん、大丈夫だ。
「そっか、なら大丈夫。ステラ、この星はまだ助けられるよ!」
「本当ですか!?」
ステラは立ち上がって僕の目を見た。
僕もステラの目を見返して、にっこり笑ってこう言った。
「そのために、僕の星、あの青い星に二人でいこうよ」
「え? ええっ?」
ステラが目を白黒させているのが少し可愛かった。
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