第12話:ステラの気持ち

 授業が終わった後、また職員室に向かう。

 なんだか少しだけ気まずさがあった。最初の時とは違う感じ。

「ねえ、ステラ」

「……なんでしょうか」

 ステラの声にかたさが戻ってしまった。昨日はあんなにうちとけたと思ったのに。

「ステラが青い星にあこがれるのって、やっぱりこの星がせまいことと関係あるの?」

「……そうですね。星太さんのように、めぐまれた星に生まれた方にはわからないかと思います。このすべてが簡単に見回せてしまうような小さな星で、遠く離れた夢のような星のことを知る気持ちは」

「そんなこと言われても……」

 つい言い返してしまう。でも、僕は確かにめぐまれてるんだろう。

 いろんなものが、当たり前にあるそんな星に生まれた僕は。

 それでも、僕はステラの気持ちはなにか違うと思っていた。

 でも、それ以上は何も言えず。そのまま職員室に着いてしまう。

 ドアを開けると、トラウムが待っていた。わかっているのかいないのか、ニコニコ笑っているのが少しだけしゃくにさわる。

 なんとなくだけど、あの授業の流れはトラウムの想定通りという気がする。

 何をねらってたのかまではわからないけど。

「さて、今日もがんばって星の石探しを進めましょう。聞いているところでは、あまり順調とは言えません。正直残りの期間も少ない。早くなんとかしたいところです」

「ならば、座って指示を出すだけのトラウムにも手伝ってほしいですね」

 ステラの声には厳しさがある。やっぱり少し怒っているようだ。

 トラウムに対してなのか、僕に対してなのか。

「私にもやることはありますので、決して休んでいるだけではないんですよ」

「どうだか」

 ステラが冷たい声で返す。

「さて星太くん、今日もコンパスの確認をお願いいたします」

「うん、わかった」

 今日の授業と昨日の本で、僕の中のイメージはかなりふくらんでいるはず。たぶん昨日よりもくわしくわかるはずだ。

 手を当ててコンパスを起動する。

 昨日より強い光が出ているのがわかった。

「白い光が強まっていますね」

 ステラが不思議そうな声を出した。

 星石コンパスを見ると、昨日のように12時の石、3時の石の他に、真ん中の白い石の下半分が光っている。

 ただし、その光は昨日よりもずっと強い。

「これどういうこと? 白の石がすっごく光ってるけど、やっぱり一階なのかな?」

 トラウムが少し考え込む様子をした後、口を開いた。

「いえ、これは星の石がもっと深く、地下にあると言うことでしょう?」

「地下? 一階よりもさらに下ってこと?」

「はい、そう言うことかと思います」

「そんなわけはありません! この学園に地下なんてありませんでしょう」

 ステラが大きな声を出す。

「地下の部屋はないの?」

「ええ、今の学園で一番下は一階です。その下には何もないことになっています」

「そうですね。学園の地図にもそんな場所は記載されていません」

 トラウムもステラと同じことを言った。

「じゃあ、どこかにうまってるのかな? それとも学園じゃないところにあるとか」

「学園じゃないところというのは考えにくいですね。そのコンパスの反応的に、おそらく学園内です。あまり離れると反応しませんからね。となると地図にはない別の部屋があるのかもしれません?」

「別の部屋?」

「ええ、この学園は何しろ古くからあります。最初にできてから、何度も建物が変わってきました。そのときに地下の部屋が何らかの理由で、なくなったのかもしれません」

「トラウムは星の最初からいるのでしょう。何か知らないのですか?」

「さあ、確かに私はだれよりも昔からここにいますが、この学園をつくったのは昔の星の姫です。その際にどうあったかまでは、すべてを把握しているわけではありません」

「うーん、そうなるとどうしようかなあ」

 正直困った、今日探しに行く先が見つからないんじゃ動けない。

 トラウムが少し黙る。何か考えているようだ。

 しばらくしてぽんと手を打つ。

「では、今日は一階を探索してみてください。おそらく今の星太くんなら、今日中にあと何度かはコンパスを使えると思います。そして一番反応が強くなるところを探してみてください。そこの地下に何かある可能性が高い」

「なるほどね。わかったやってみるよ」

「確かに、何もしないよりはましかもしれませんね。そうすることにしましょう」

 ステラはあまり乗り気ではないようだ。地下がないと言うことがわかっているから、やる気がでないのかもしれない。

 僕はと言えば、なんとかいい結果を出して、ステラをよろこばせたいという気持ちがあった。今の悪い空気をなんとかしたいって思っていたんだ。

「トラウムはどうするのですか? やることがあると言っていましたが」

「そうだね。今日は地下に何かないかについては私の方で調べてみますよ。お二人よりも昔の情報を探すのは向いているでしょう」

「承知しました。では、星太さんいきましょう」

 ステラはスタスタと歩いて行ってしまう。僕はトラウムに一つだけ聞きたかった。

「ねえ、ステラのきげんが悪いんだ。なんでだろう。僕、変なこと言ったかな?」

「……正直なところ、あの授業をやることで、ステラの態度がこうなることはなんとなくわかっていました」

「え……? わざときげん悪くしたって言うこと?」

「そう言うことではないのですが、星太さんにはこの星の問題を知っておいてほしかったのです。そして、星太さんならあの言葉を言ってくれると信じて」

「あの言葉?」

 どの言葉だろう……? それがステラのきげんが悪くなった原因なのかしら。

「星太くんはこの星がさみしいところだと思いますか?」

「ううん、とんでもない。自分の星から見てもとってもすてきな星だったし、ここにきてみても、とってもいいところだって思うよ」

「そういうことです。ステラはそう思っていません。この星を気に入ってくれている、別の星の星太くんだからこそ、ステラを変えてあげられる。そう思っています」

「それが今回の事件と何か関係があるの?」

「ええ、大事なところです。まだ詳しくは言えませんが。それに星太くんは見たでしょう、あのステラの顔を」

 そのトラウムの言葉で急に思い出した。

 夢の中で見たステラの心から悲しそうな顔を。

 そうだ、僕はあの顔を見て、ステラをなんとかしてあげたいってそう思ったんだ。

「うん、僕は今回の事件に関係なく、ステラを楽しい気持ちにさせてあげたいって思う」

「はい、ぜひお願いします。きっとそれは星太くんにしかできないことですから……」

 トラウムの顔は真剣で、少しだけさみしそうだった。

「まかせておいて! 事件もステラのこともなんとかしてみせるよ」

「たのもしいです」


「星太さん! なにをやっているのですか!?」

 職員室の外からステラの声が聞こえる。

 待たせたことを怒っているようだ。

「ごめん、トラウム、じゃあいってくる」

「はい、いってらっしゃい。きっとあなたになら、この危機の原因も解決できますよ」

 トラウムの言葉が心に引っかかっていた。

 まるで、事件のこともステラのこともすべてつながっている、そう言いたいように僕には聞こえていたんだ。

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