第11話:3日目の授業\星の地理・小さな星トラウム
また次の日の夜、すい星トラウムに行く時間になった。
帰ってきたら腕の星石コンパスはなくなっていた。夢の中でいききしているせいなのか、それとも別の星のものは持ち込めないルールなのか。
ステラに星の本を見せたかったけどだめかなあ。
念のため、選んだ本を手に持っておく。
そして、またいつもの眠気が急にやってきた。3回目ともなるといいかげんなれてきて心の準備ができている。
目を開けるとトラウムがいた。
手には用意していた本を持っていた。お、これはいけるかも。
そう思っていたら、
「星太さん、残念ですが星鏡の扉は人は移動できても物は持っていけませんよ」
「ちぇ、やっぱりそうなんだ。ステラにもってってあげようと思ったのに」
「ステラとだいぶなかよくなったみたいですね」
「まあね。好きな本の話とかいろいろしたよ」
「お願いをきいてくれて感謝します」
「いいよ、僕も楽しかったし」
そんな話をしながら、あらわれた星鏡の扉をくぐる。
昨日と同じすい星学園の正門から、教室まで今日は自分一人で行くことができた。
「おはよう」って今日は自分からあいさつをしてみた。
「「おはよう」」「今日もよろしくね」なんて声がかけられる。
こう言うのを異世界交流っていうのかわからないけど、悪くないなって思った。
ステラを見つけたので、昨日できなかったあいさつをしてみる。
「おはよう、ステラ」
「おはようございます。星太さん」
かんたんなやりとりだったけど、また距離が近くなった気がしてうれしかった。
ドアが開く音がする。あらわれたのはトラウム先生。
「みなさん、そろってますね。さて、特別授業3日目。今日は、このすい星トラウムの地理について勉強しましょう」
「えー、つまんない。もっと面白そうなことは?」
教室のみんなからは少し不満の声が聞こえる。まあ、自分の街のことってこんなもんかなあと思ったり。自分でも、学校でこのテーマだったらつまんないって思うかも。
「まあ、そう言わないでください。自分のいる場所のことってあんがい面白いものですよ。知らないこと、きづいていなかったこと、発見があるかもしれません」
「はーい」
「さて、今日は画面にこの星の地図を出しながら進めましょう」
そう言ってトラウムはディスプレイになっているかべを軽くたたく。
するとかべに地図が広がっていった。
真ん中が街だろうか。周りを山に囲まれていて、その中に街が広がっているようだ。
湖のような場所や、広そうな草原もあるが、地図の中は大半が街の範囲のようだ。
街の中はいくつかのエリアに分かれているみたいにみえる。
最初に星の地図ってトラウムは言っていた気がするけれど、見る限り街の地図だよなあって思った。みんな街のことは知ってるだろうから、本当に僕だけのための授業なのだろうか。ちょっとだけ申し訳なくなる。
地図の周りに、街を囲むような丸い線が書かれているけどこれは何だろう。
「はい、この地図はどこでしょう」
トラウムが一人の生徒を指さす。
「えっと、すい星トラウムの地図です」
「え? この街の地図じゃなくて?」
思わず声が出た。
「そうです。星太くんは驚くでしょうが、これがこの星全部の地図になります。ここより外には人の住む世界はありません」
「え? だって星の全部でこんなにせまいなんて……、あ、すみません」
つい思ったことを言ってしまったけど、悪口にも聞こえそうだ。
こっそりと周りを見渡したけど、思ったよりもいやな顔をしている子はいなかった。
「そうなんだよなあ、やっぱりせまいよなこの星。これで全部だもん。星太の青い星ってもっともっと広いんだよな」
「街も人もたくさんあるんでしょ?」
みんなからいろいろ話しかけられるが、僕はおどろきをかくせなかった。
あらためて地図を見ると、真ん中にあるのはこのすい星学園のようだった。
ということは、かなりこの星の世界はせまいことになる。
昨日のステラの言葉が頭によぎる。あこがれるって言った気持ちがわかった気がした。
「そういうわけで、この星は青い星と比べればひじょうにせまい星です。そもそも星の大きさが比べものになりませんからね」
そうだったのか。ということは僕の星どころか僕の街くらいの大きさが、すい星トラウムの全部の大きさってことになる。きょくたんなことを言えば、自転車で世界一周できてしまいそうだ。
「この星は、そもそも人が住めるような環境ではありませんでした。そこに星の石と星の姫の力で、つくられたのがこの線です。星太くんに教えてあげてもらえますか?」
「星太さん、これは星のドームです。あなたも見たことがあるでしょう。この街をおおう透明な球体です」
答えたのはステラだった。
「たったこれだけ、これがこの世界の全てなのです」
ステラの声に重さが感じられた。
「はい、その通り。これが星のドームです。この中の人が安全に住めるようにすべてをととのえてくれています。街は住みやすいように、農業エリア、商業エリア、住宅エリア、工業エリア、そしてこの学園があるエリアとわけられました」
「そうだったんだ……」
この小さな地図。これがこの星の全て。
たしかにこれじゃ、僕の星にあこがれる気持ちもわかる。
そして、ここがつまらないと思う気持ちも。でも……。
「さて、特別生徒の転校生星太さん、この地図を見た上でこの星のことをどう思いますか? あなたの星とはぜんぜんちがうでしょう」
少しだけ考えた。でも答えは決まっている。
「はい、ちがいます。でも、僕はこの星はやっぱりとってもすてきなところだって、そう思います。ここにこれてよかったって」
心からそう言うと、はくしゅがおきた。
「ありがとー!」「いいこと言うね」「ちょっとうれしかった」
なんて、声がかけられる。
トラウムを見ると、ニコニコと笑っていた。僕がそう言うことがわかっていたかのように。そしてステラを見てみる。
ステラの顔は見えなかった。窓の方を見つめたまま、僕の方は決して向かなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます